プロジェクト最前線

働く人が誇りを持ちワクワクできる生産施設

資生堂那須工場新築工事

2019. 11. 28

2019年11月、栃木県大田原市で進めてきた資生堂那須工場が竣工を迎えた。最盛期だった建設現場での様子(取材:2019年3月)を振り返る。

自然豊かな地に生まれるスキンケア工場

資生堂那須工場完成予想図
資生堂のコーポレートカラーである赤色を配したエントランスホールの当初イメージ図

那須山麓を源とする清流・那珂川(なかがわ)や八溝山系の山並みといった豊かな自然に恵まれる大田原市は、宿場町として栄えた歴史を持つ栃木県北部の中心都市だ。その玄関口であるJR東北新幹線那須塩原駅から車で15分の工業団地内で、大林組は資生堂の新たな生産拠点となる工場を建設している。

2019年12月に稼働予定の那須工場は、国内外の化粧品需要の拡大に対応し、今後の成長性の確保と中長期的に安定した生産体制を確立するために建設される。スキンケア商品生産の中核を担う拠点として高品質かつ安全・安心な商品を製造し、生産能力の増強をめざす。

那須工場には品質向上のための実験施設が併設されるほか、商品の製造から出荷までの過程を見学できるコースを設けて、訪れる観光客と近隣の小中学生も迎え入れる計画だ。

女性スタッフの声を建築プランへ

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入社5、6年目の若手工場スタッフも参加。「こんな空間で働きたい」という要望を自由に出し合った

大林組では、工場稼働後の勤務者の大半が女性であることを考慮し、より良い職場環境の創造に向けて、大林組と発注者の女性社員が協働する「ワークプレイス検討会」を実施した。

検討会では「明るい職場でモチベーションをアップさせたい」「ゆとりのある空間でゆっくり食事をしたい」「自席のない製造ライン担当者も休憩できるスペースが欲しい」などの要望が多く上がった。

例えば、20人で流れ作業を行う化粧品の包装ラインでは、一人が欠けても作業に支障を来すため、休憩はライン全員で一斉に取る。「混まないトイレが欲しい」という要望は、こうした工場ならではの切実な事情も起因している。設計担当者は、これらの要望事項の実現性を検討しながら、設計作業に取り込んでいった。

建設現場の施工担当者が設計段階から参加

今回の工事は、実質工期が短い。2018年7月に着工した工事は、商品製造・物流施設の機器設置関連工事が他社施工のため、全体の完成を待たずに生産エリアの大半を引き渡さなければならず、工程は絶対に守らなければならなかった。

そこでまず、設計施工のメリットを活かし、基本設計、実施設計などを効率的に進める「フロントローディング」を取り入れた。施工条件に合わせた検証やシミュレーションといった作業を設計段階から取り入れることで、施工段階での負荷を低減させる手法だ。通常施工段階で行う作業を前倒しして進めた。中でも、納品までに時間を要する鉄骨などの発注図を早い段階で作製した。

鉄骨発注図の作製と調達業務を同時に進められるよう、着工前の2018年3月に東京に準備室を設け、副所長を中心とする施工担当者4人のチームを結成。設計担当者とすぐに連携が取れる体制を作った。「設計施工の場合、現場の施工担当者と設計者が率直に意見を交わすことができるので、工事がスムーズに進みます」と所長の生平(おいだいら)は語った。

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施工担当者が早い段階から基本設計、実施設計、調達のプロセスに参加。構造計算と鉄骨図の作製を同時進行させ鉄骨の調達を急いだ

徹底した効率化施工

2018年3月下旬には現地に仮設事務所を立ち上げ、所長を含めた4人で現場業務を開始した。

工事をスムーズに行うため、準備期間に地盤レベルを一定にする整地工事やセメントによる地盤改良・強化工事を実施。大型重機の通行が可能な路盤面を形成した。

躯体工事においては効率化を徹底した。その一つが大梁の先行組立工法だ。基礎となる大梁を施工場所で鉄筋数量を数えながら組み上げる従来の方法から、現場敷地内で仮組みした後に躯体に組み込む工法に変更。小梁部分も、敷地内で製造された鉄筋コンクリート部材を、大型クレーンで組み立てるサイトPC化工法へと変えることで、施工場所での作業速度を平準化し、工程の効率化、作業日数の短縮を図った。

床工事では、配筋とコンクリート型枠を兼ねる波形鋼板のデッキプレートを採用した。これらの取り組みの積み重ねが、生産性の向上や作業員の省人化にもつながった。

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準備期間に行った地盤改良工事により、その後の作業をスムーズに進められた
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作業速度を平準化するため、敷地内で製造した鉄筋コンクリート部材を活用して構築
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屋上の床はコンクリート平板(乾式タイル)で施工。コンクリート養生の手間を省いた
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高所作業車を延べ400台以上導入するなど徹底した効率化を図った

全国のネットワークをフル活用

労務や資機材の手配も大きな課題となった。着工当初は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会や大型再開発工事などの影響で繁忙状況にあり、協力会社や材料、資機材などの手配が難しかった。大型プロジェクトであったことから、所長以下の職員も東京だけでなく全国から集めた。

社員と気脈が通じる協力会社のネットワーク作りも急務となった。そこで、優れた実績を持つ東京や東北の協力会社を中心に、小回りがきく地元栃木県の協力会社をバランスよく採用した。

早期手配が必須の鉄骨も手配が難航したが、大林組のネットワークを最大限に活用し、関西の鉄骨会社に発注することができた。

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資機材の管理と物流を行う現場内物流は、地域の事情に精通した東北の協力会社の作業員が担当した

モチベーションを高める空間

ワークプレイス検討会で打ち出された新工場のコンセプトは「わくわくする職場」「きれいになれる職場」。工場内を彩る色として、発注者から提案されたのは淡い、華やかなピンク色だった。設計段階で予定されていた色とは異なったが「ピンクは女性のモチベーションを上げる」との意見で採用された。

柱や壁には、資生堂のコーポレートカラーである赤色をアクセントとして配され、充てん・仕上げ室からは、作業をしながら空が見えるよう高い位置に窓が配置された。商品の変質を避けるため、窓ガラスには遮光・遮熱対策が施されている。

今回の工事では、設計者や施工者、協力会社といった立場の違う者が、持てる力を最大限に活かして取り組んでいる。限られた期間の中で、従来のやり方にとらわれることなく果敢に挑戦してきた工事関係者の姿勢は、発注者から大きな信頼を得ている。建物が完成するその日まで、工事は着実に進む。

(取材2019年3月)

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2階包装仕上げ室
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季節や時間の流れを感じられる窓を配置
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工事概要

名称 資生堂那須工場新築工事
場所 栃木県大田原市
発注 資生堂
設計 大林組
概要 S造、3F、延6万5,381m²
工期 2018年7月~2019年10月
施工 大林組

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