日本を代表する銀行や企業の本社、事務所が集中し、高層ビルが立ち並ぶ東京・丸の内。その一角で、全面ガラス張りの高層ビルの完成が近づいている。
工事は大林組を含む3社による共同企業体で、既存の建物3棟を解体し、新たに地上29階建てのタワー棟と地上10階建てのアネックス棟の2棟に建て替えるものだ。それぞれには事務所や店舗などが入り、丸の内エリアのさらなる活性化と高い回遊性を持つ都市空間の創出が期待されている。
複雑な事業体制や深度22mの既存地下躯体など与えられた条件から発生するさまざまな課題を、現場では最適な施工計画によって解決しながら工事を進めている。
6ヵ月先の工程表を全員で共有
工事で徹底したのは、可能な限り先を予測して検討し、実行すること。これは、タワー棟のタワー部分と低層部分、またアネックス棟それぞれの発注者が異なるだけでなく、設計・監理者もすべて異なることから、工事への対応や調整を各社の要求に合わせてきめ細かく行う必要があるからだ。工程の正確さが、この工事では一番重要になる。
通常の週間や月間に加えて、6ヵ月先の工程表を作成することで、問題点の早期抽出が可能となり、解決方法の検討に十分な時間をかけて最適な施工計画が策定できる。短期、長期の工程表は現場で働くすべての人の建物完成への指針となり、進捗状況管理の役目も果たしている。
地下10mに開放的な解体作業環境を実現
この工事での最大のポイントは、解体工事だ。図面では読み取れない地下の障害物などのリスクを排除するために、先を見据えた工程管理を一層徹底した。
所長の田辺は「中でも、最大深度22mという既存躯体3棟の地下躯体の解体が工事の成否を分けると思った」と、当時を振り返る。そこで、効率よく解体し、新築工事の工期厳守にもつながる方策の検討を行った。
地下と地上の工事を並行して行う逆打(さかう)ち工法を実施するうえでの地下躯体の解体は、通常、各階で先行施工する床と下層階の床レベルまでを掘削し、その間の狭い空間で行われる。そのため、大型重機の利用や、解体ガラ搬出経路の確保、重機の配置台数などが制限され、作業効率を高めることが難しい。
さらに、解体工事では現場周辺への影響や地下水の状況も考慮する必要があった。そのような状況の中で導き出した方策の一つが、地下躯体の外周壁を仮壁として継続的に利用する方法だ。
既存外周躯体を残すことで、地盤の崩壊を抑える 山留めのアースアンカーや切梁が不要となり、地盤から10m下に開放的な作業環境が出現した。
施工地盤レベルの変更で、杭工事の掘削量の削減や付帯設備の縮小が可能となり、作業ヤードが拡大。生産性の向上と、品質や安全確保に大きく貢献した。さらに、杭の施工長さの削減にもつながり、逆打ち支柱の長さが短くなることで打設精度の向上、コスト削減にもつながった。
解体から新築にかけての効率化
解体作業の効率を一層向上させるために、通常は仮設材を支柱とする既存躯体の補強に、コンクリート支柱を採用。仮設材は、工事の進捗に合わせ移動させるのに多大な手間と費用がかかるが、コンクリート支柱であれば、同時に解体することが可能となり、作業効率が向上し、コストも削減できた。
また、新築建物の杭打設にも工夫した。最外周で地上階が1階だけの柱や、低層部のみの荷重を負担する柱など、上階の荷重が少ない箇所は仮設の山留め壁を本設として取り込み負担させることで、杭打設を不要にした。それにより、杭打設時に妨げとなる既存地下躯体の障害物撤去も最低限に抑えられた。
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全員の思いを一つに
「多い時には工事関係者が1,000 人以上にもなる現場です。工事を成功に導くためには、全員が同じ目標に向かうことが必要でした」と総括所長大川は語る。そこで、着工当初には施工方法などについての勉強会を定期的に開催。さらに、総括所長大川が自身の経験を基に作成した「仕事に取り組む姿勢」を全員に配布した。それらの取り組みによって、皆の工事に対する理解は深まっている。
「『ここまで計画通りに進む工事は今までなかった』との言葉もお客様から届いている。工事全体で徹底的に先を見据えて工程管理を行い、全員が思いを一つにしたからこそ」と、総括所長の大川と所長の田辺は語る。
工事関係者全員が一丸となってめざすゴールまであとわずか。ここからラストスパートだ。
(取材2020年3月)
工事概要
名称 | (仮称)丸の内1-3計画 |
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場所 | 東京都千代田区 |
発注 | みずほフィナンシャルグループ、全国銀行協会、三菱地所 |
設計 | 三菱地所設計、日本設計、久米設計 |
概要 | (地下)SRC造一部S造、(地上)S造一部CFT造、B4、29F、2棟、総延18万988m² |
工期 | 2016年10月~2020年9月 |
施工 | 大林組、大成建設、清水建設 |