プロジェクト最前線

富士山を仰ぐ町に新東名高速道路の高架橋をつくる

新東名高速道路中島高架橋工事

2020. 10. 22

富士山の火山灰が堆積する狭あいで急峻な場所に約500mの高架橋を建設。それぞれの橋脚からバランスを取りながら左右に橋桁を伸ばし、空中で連結させる

日本の大動脈・東名高速道路とのダブルネットワークを形成するために、現在急ピッチで建設が進められている新東名高速道路。完成後は、交通集中やメンテナンス工事に伴う渋滞の緩和、事故・災害発生時の代替路線の確保による安全性の向上だけでなく、関東圏から沿線地域への観光客増加による経済波及効果も期待されている。

静岡県の最北東端、神奈川県と山梨県の境に位置する小山町は富士山を町域に含む緑豊かな町。この山あいで、大林組は最大橋脚高46mの高架橋の上・下部工を建設している。上部工では、橋脚頭部(柱頭)からコンクリートを左右に伸ばす張り出し架設工法で長さ約500mのPC(プレストレスト・コンクリート)橋を構築し、下部工ではRC(鉄筋コンクリート)橋脚14基を造る。

設計施工であることを最大限に活かし、生産性向上を図り、高品質で安全・安心な橋梁の構築を実現するためのさまざまな取り組みを行っている。

一回り小さな柱頭部で合理化施工

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オレンジ色のワーゲン(移動式作業車)を設置する柱頭部。長さを12mから9mに縮小した

上部の橋桁工事で採用する張り出し架設工法は、コンクリート打設時の足場や型枠をまとめてつるすワーゲン(移動式作業車)を用いる。柱頭部の両側にワーゲンをそれぞれ取り付けて同時に張り出し、両側の重量バランスを取りながら橋桁を伸ばしていくものだ。上部工では、このワーゲンを設置する橋脚柱頭部の合理化施工に取り組んだ。

今回、2基の橋脚の柱頭部の長さを12mから9mに縮小し、構築に必要な足場や支保工の組み立て・解体日数の大幅な低減を達成した。しかしこれにより、ワーゲンの同時発進が不可能となったため、発想を転換して張り出し開始を同時ではなく片側を先行させるように変更。ワーゲンの改造などを行い、作業の効率化による工期短縮を図っている。

また、道路橋の構築に初めて「サンドグリップバー®」を導入した。鉄筋に被覆する樹脂を通常より伸び率の高いものにし、その周囲にケイ砂を付着させることで、コンクリートへの付着度を高め、鉄筋を重ねる継ぎ手に必要な長さを15%短縮。生産性向上に寄与した。

今回採用した合理化施工では、柱頭部の長さを短縮して足場や支保工を縮小。支保工組み立てや解体に要する日数を大幅に短縮した
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壁高欄に使用したサンドグリップバー
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10日間で3~4mずつ橋桁が構築されていく

強度を高める圧縮作業で知識と経験を積む

PC橋を構築するうえで重要な作業の一つが、橋桁を構築する際の緊張管理だ。通常のコンクリートでは自動車や構造物自身の重さでコンクリートがたわみ、ひび割れてしまう。このため計画的に高強度なPC鋼材を桁の中に配置し、打設後に両側からジャッキで引っ張り、圧縮力(プレストレス)を与えることで強度を高めてひび割れを防いでいる。

鋼材の設置の許容誤差は数mm、緊張に関しても1mmの伸び誤差で、圧縮力が大きく変わる。「このように難度の高い橋梁工事を準備工事から一通り経験できる貴重な現場だ」と話す所長の永江は、若手社員が上・下部工の作業をそれぞれ担当できるようなローテーションを組み、知識やノウハウを習得できる環境も整えている。

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PC橋の緊張作業のイメージ図

鋼管を用いた橋脚で、大幅な省力化を実現

下部工では、大林組が開発した鋼管・コンクリート複合構造を採用している。一般的なRC橋脚の主鉄筋の一部を鋼管に置き換えることで、鉄筋数量を削減し、内側型枠も省略した。これにより鉄筋工および型枠工を大幅に省力化し、工期を約3ヵ月短縮している。また、鋼管周辺の開口部を溶接足場などでふさぐことで開口箇所が減少し、危険作業も軽減した。

「発注者の理解もあり、設計施工の利点を活かして、生産性向上や安全・安心につながる新たな方法や技術を採用しています」とさまざまな課題があっても、一つひとつ解決して順調に工事が進む理由を所長の永江は語った。

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鋼管・コンクリート複合構造の概要。鋼管と帯鉄筋との相互作用で高耐震性を確保
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鉄筋と鋼管が並ぶコンクリート打設前の橋脚。鉄筋の数量を大幅に削減した

現場内にサテライトオフィスを設置

効率良く業務を行う環境も整えている。事務所から現場までの移動時間を考慮して作業中の隙間時間を利活用できるように、現場内にサテライトオフィスを設置し、パソコン業務を可能にした。また、生コン打設時の伝票整理でも業務改善を実施。従来は作業後に事務所に戻って伝票のコピーやデータ整理をしていたが、伝票をスマートフォンのメモ機能を使って現場でPDF化し、共有フォルダへ送信。事務所で並行してデータ整理を行うことで、残業の縮減につながっている。

住宅地に隣接する現場として、住民との良好な関係を築いている。地元住民への見学会や定期的な清掃活動だけではなく、所長の永江が過去に担当した現場でいつも行ってきた、町道や用水路の清掃によるところが大きい。

生産性向上に向けた数々の取り組みは、早期開通を望む発注者、地域および利用者に喜ばれる高架橋の完成へとつながっている。

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スマートフォンのメモ機能で伝票をPDF化して送信
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現場から東名高速道路を望む。施工場所は民家と近接している
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(取材2019年7月)

工事概要

名称 新東名高速道路中島高架橋工事
場所 静岡県駿東郡
発注 中日本高速道路
設計 中日本高速道路、大林組
概要 上部工PC7径間連続ラーメン箱桁橋(上り線505m、下り線481m) 下部工橋脚工14基(最大橋脚高46m)、切盛工事6万8,000m³、調整池2ヵ所  
工期 2015年7月~2021年10月
施工 大林組

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