プロジェクト最前線

中央自動車道10橋の大規模リニューアルに挑む

中央自動車道(特定更新等)松ヶ平橋他1橋床版取替工事、柳樽川橋他9橋橋梁補修工事、園原橋他3橋橋梁補修工事

2020. 07. 06

長さ283mの岐阜・落合川橋(下り線)では床版118枚の取り替えなどが急ピッチで進められた

甲州街道と中山道に沿うように整備された中央自動車道。首都圏と中部圏を結ぶ高速道路本線の長野・園原IC~岐阜・中津川IC間において、橋梁延べ13橋(10橋の下り線8橋、上り線5橋)で、車両の重さを支える床版(しょうばん)の取り替えや主桁補強などを行う大規模な改修工事が進んでいる。現在、そのうち6橋(下り線)の床版取り替えが完了。前例のない大規模リニューアル工事を短期間で実現させるため、大林組は多数の新技術を取り入れて挑んでいる。

複数の橋の床版を同時に取り替える

東京方面から恵那山トンネルを抜けた約23kmの工事範囲にある10橋は、供用開始から約50年が経過している。老朽化、大型車両や貨物量の増加、凍結防止剤散布の塩害などにより床版の劣化が著しく、コンクリートの剝落や鉄筋の腐食が顕著になっていた。高速道路の機能維持と性能強化を図るためにも橋梁の改修は急務だった。

project62_5_1_2.jpg
project62_5_2_9.jpg
約23kmの工事範囲にある延べ13橋(上下線で総延長約2.5km)を改修

約65日間での急速施工をめざして

今回の工事は床版取り替えや主桁補強、伸縮装置・支承の取り替え、塗装塗り替え、検査路取り替えなどを行うものだ。その中でも床版取り替えは、社会的影響を考慮し、混雑期を避けた春と秋の年に2回、通行止めを伴う対面通行規制(以下、規制)を行ったうえで、1橋につき準備工から解除工までを約65日間で行わなければならない。また、周辺には工事用道路がなく、資機材の搬入や人員の配置は高速道路本線をメイン動線としなければならない。そこで、急速施工が可能で、かつ発注者の理解と信頼を得られる新技術を取り入れた施工方法の確立をめざした。

「工事開始までの9ヵ月間、施工条件を考慮したうえで、設計施工の利点を活かして本社の技術担当者、協力会社と事前検討を重ねました」と所長の碓井は当時を振り返る。悪天候による予備日を確保し、最悪のケースを事前に想定した対応策を決めておくなど、急速施工に向けた万全な環境づくりを行った。

橋名 下り線
施工時期:施工延長
上り線
施工時期:施工延長
中津川橋 計画中:130m
落合川橋 2019年春(済):239m
2019年秋(済):44m
2020年春:239m
2020年秋:44m
山中橋 2018年秋(済):200m
新茶屋橋 2018年秋(済):157m
松ヶ平橋 2018年春(済):297m
松ヶ平第二橋 計画中:136m
沓掛橋 2018年秋(済):155m 2020年秋:155m
上田川橋 2019年春・秋(済):125m 2020年春・秋:125m
柳樽川橋 計画中:207m
池ヶ谷川橋 計画中:287m
  • project62_2.jpg

    2018.07.03松ヶ平橋(下り線)完成

  • project62_3.jpg

    2019.12.12落合川橋(下り線)完成

  • project62_4.jpg

    2019.12.12上田川橋(下り線)完成

床版接合幅を約半分にするスリムファスナーで解決

project62_6.jpg
上田川橋のPCa床版架設工事。接合部(緑色の鉄筋)を超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート」で間詰めする

一般的に床版取替工事では、あらかじめ工場製作したプレキャスト床版(PCa 床版)が採用される。短工期での施工が可能で耐久性が高いからだ。ここではさらなる急速施工を実現すべく、大林組の技術を取り入れた。

その一つがPCa床版接合工法「スリムファスナー®」だ。PCa床版同士を接合する間詰め材には、常温硬化型の超高強度繊維補強コンクリート「スリムクリート®」を採用。圧縮強度が180N/mm²と高く、鋼繊維を混入していることから床版間に突き出した継ぎ手を短くでき、間詰め幅も従来の半分に狭められる。これにより、下面の型枠支保工、現場での鉄筋の組み立てが不要となり、迅速な施工が可能となった。

もう一つは、フルプレキャストの「EMC壁高欄™」だ。壁高欄と床版との固定や、プレキャスト部材同士の連結にボルトを使用することで据え付けが容易になり、現場でのコンクリート打設などが不要となるため、作業の省力化につながる。これら技術のメリットを最大限に活かし、床版の間詰めと壁高欄構築を24時間施工サイクルに組み入れ、多工種にして合理化を図り、工期短縮を実現した。

最初に施工した松ヶ平橋で蓄積された経験やノウハウを基に、それ以降の工事では2~3橋の床版取り替えを同時に進めている。

「橋の構造は一様ではなく、また既設構造物を相手にするため、現地条件に合った施工方法を検討する必要がありました。そこで、規制以外の期間に各橋梁の施工担当が工種や構造の課題を抽出し、『できる方法』を見つけ出しています。また、工事完了後には振り返り会を実施して良い点・悪い点を確認。次の工事に向けて改善を図っています」と所長の碓井は、工事を効率良く進めるための工夫を語った。

project62_7.jpg
主桁補強工事などは通年で実施。施工場所のすぐ横を大型車が通過する
project62_8_2.jpg
採用したスリムファスナーは、100年以上の自動車の通行を模擬した促進試験も実施。生産性、品質および耐久性が向上した
project62_11_2.jpg
EMC壁高欄はボルトが保護管などでカバーされているため、将来交換する際にも容易に取り外しが可能

利用者の安全・安心を確保する取り組み

高速道路上の工事では渋滞や事故を回避するために、一般車両へのきめ細かい工事状況の情報発信がとても重要になる。この現場ではBluetooth(近距離無線通信)を用いた情報システムを使用し、工事箇所があるIC間の通過所要時間をリアルタイムに仮設LED情報板へ自動表示している。

立ち入り禁止を示すラバーコーンなどの規制材を巻き込む事故が発生した場合は、通行止めを早期解除できるようにレッカー車や有事対応班を常時配備。24時間体制で臨んでいる。

工事長の天野は「社会的影響を最小限にするためにも、規制期間内にすべてを完了することは最重要課題です。計画通りの『想定内』で工事を完了できるよう工程管理を徹底しています」と話す。

現在、6橋の床版取替工事が完了し、2020年にも春と秋に工事が計画されている。発注者はもとより、利用者からも待ち望まれる大規模リニューアル工事。完成に向けまだまだ緊張の日々が続く。

(取材2020年2月)

project62_12.jpg
EMC壁高欄や床版パネルなどの部材一枚一枚に貼付されているカラーバーコード。橋名や製造工場、製造日、設置日などあらゆる情報がデータとして入力されており、品質管理の一元管理化を図る
project62_10.jpg

工事概要

名称 中央自動車道(特定更新等)松ヶ平橋他1橋床版取替工事、柳樽川橋他9橋橋梁補修工事、園原橋他3橋橋梁補修工事
場所 長野県下伊那郡~岐阜県中津川市
発注 中日本高速道路
設計 中日本高速道路、大林組
概要 橋梁施工延長2,540m(対面通行設置工12回、床版取替工13橋、床版防水・舗装工13橋、主桁補強工13橋、支承取替工11橋、塗替塗装工10橋、検査路取替工13橋)
工期 2017年8月~ 2024年1月(協議中)
施工 大林組、JFEエンジニアリング

ページトップへ