プロジェクト最前線

復興から再生へ、神戸の新たな玄関口を築く

神戸阪急ビル増築工事

2021. 03. 09

阪急神戸三宮駅に隣接する「神戸阪急ビル」は東館と西館に分かれており、阪神・淡路大震災で被災した東館はその後再建され営業を続けていたが、2016年から大規模な建て替え工事が始まっている
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神戸三宮駅・三ノ宮駅周辺。今回の工事では東館の建て替えに加え、竣工当時の姿を留める西館の改修も行う

阪神・淡路大震災で大きな被害を受けた兵庫県神戸市三宮。神戸の商業や観光などの中心となる三宮には、阪急電鉄(阪急)や阪神電気鉄道(阪神)、西日本旅客鉄道(JR)が接続する神戸最大のターミナル駅、神戸三宮駅・三ノ宮駅があり、毎日約11万人が利用する。

現在、大林組は阪急神戸三宮駅と隣接する東西の駅ビルで工事を行っている。ここでは、高さ120mの超高層複合ビルへと生まれ変わる東館の工事を追う。

創建時のフォルムを再び

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1936年建設の神戸阪急ビル東館(旧ビル)。異人館や旧居留地がある神戸の玄関口にふさわしい西洋建築を感じさせるデザインだった
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阪神・淡路大震災被災後に再建された神戸阪急ビル東館(暫定ビル)。右奥に見えるのが西館

1936(昭和11)年、大阪と神戸の中心地同士を結ぶために阪急神戸本線が延伸され、その際に神戸駅(現在の阪急神戸三宮駅)と一体で建設されたのが、神戸阪急ビル東館(以下、旧ビル)と西館だ。

旧ビルは1995(平成7)年1月に阪神・淡路大震災で被災。その後、駅機能の復旧に合わせて暫定的に再建されたビル(以下、暫定ビル)として、営業を継続してきた。今回、暫定ビルを解体し、商業施設やホテル、オフィスなどが入居する29階建ての超高層複合ビルに建て替える。

複合ビルの低層部には、旧ビルの円筒形の形状やアーチ状の窓などのフォルムを活かすとともに、現存する西館外壁の一部を手がかりに外壁材の素材や色彩を調査して、当時の外壁を再現。外観を踏襲することで長年親しまれた旧ビルの歴史を継承する。

高層部は、縦のラインを強調するデザインで、低層部を引き立てながら建物に一体感を持たせる。最上階に設ける展望フロアからは、神戸の山や海はもちろん、フラワーロードや北野坂など、港街神戸の景観が楽しめる。

また今回の工事では、高架軌道の阪急神戸線とJR神戸線、神戸市営地下鉄西神・山手線3駅の相互乗り換えの利便性向上や、バリアフリー対応など、駅機能の整備も一体的に行う。

既存インフラを守る

施工場所を含む周辺一帯には供用中の電線やガス管などのインフラ設備と、供用終了後残置されたインフラ設備が混在していた。まず既存設備の調査から始まった。発注者から提供された旧ビルの竣工図や設備図などをもとに、一つずつ現地で位置確認をし、使われていない設備の撤去作業などを実施。万一、誤って重要な電線を切断すれば、列車運行に支障を来し、自動改札が機能しないなど大問題に発展する危険がある。

これを防ぐ工夫として供用中の設備には黄色のスプレーを塗布し「通電中配線注意」などの表示札で注意喚起。一方、供用終了の設備には赤色のスプレーを塗布して「撤去可能」と示すことで、残置するものと撤去するものとを明確に判別し、リスクを回避している。「現地での厳密な確認や多くの関係者との調整に加えて、可視化することで事故防止の徹底に努めています」と所長の高木は語る。

既存インフラ設備の損傷防止のため、可視化を徹底

近接鉄道への安全確保

鉄道近接工事は作業時間に制限を受けるため、関係者との綿密な打ち合わせが重要だ。終電から始発までの約3時間で作業を完了させなければ、翌朝の列車運行に影響を及ぼす。

特に、線路内や列車運行用の電力を停止して行う工事は、発注者の許可を作業の1ヵ月前までに得ることが必要で、2ヵ月前には計画を立案して説明を始めなければならない。日々の確実な工程管理が非常に重要になってくる。

周辺地盤への影響も考慮しなければならない。最大約16mの大深度掘削に際しては、周辺地盤や近接する鉄道線への影響が懸念された。そこで、リアルタイムで地盤の変動を監視するとともに、地盤の変形や変動を予測する数値解析技術を取り入れた。現在も安全を確保しながら工事を進めている。

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工事中の建物に列車が最も接近する場所。間隔は約1mしかない(写真左側が今回新築した建物)
新築建物と地下鉄通路を地下2階で接続するために、既存床から2m下に新たな床を構築。掘削は既存床版を仮受けしてから進められた

駅利用者への配慮

工事には、阪急神戸三宮駅と接続している通路の再整備も含まれる。工事期間中であっても利用者の安全な旅客動線を確保する必要がある。そこで、安全と効率的な施工を両立するため、工事を3工期に分けて通路の切り替えを行っている。

旅客動線の切り替え日程は、事前に利用者への周知が必須。決定後は日程を変更できないため、工事を確実に遂行しなければならない。

現場周辺には、鉄道の駅員が仮眠・休憩をする施設や営業中の飲食店があり、細心の配慮が欠かせない。毎日の騒音・振動管理はもちろんのこと、粉じんや臭いが発生する作業で列車運転手の体調や飲食店の営業に支障がないよう、事前に近隣への工事内容の周知を徹底した。

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駅利用者の改札からの安全な動線を確保するため、工期に応じた通路の切り替えを行った

難工事を乗り越えた先に

「施工場所が狭あいなことに加え、重要なインフラ設備を供用したまま、鉄道営業線や商業施設に近接する工事は、今まで経験してきた中でも難度が高いと感じています」と所長の高木は話す。それでも、現在まで工程に遅れがなく、順調に進捗しているのは、工事に携わる一人ひとりが責任感を持って作業に当たっているからだ。

「若い社員には、この現場で得たノウハウや知識を今後、大いに役立ててほしい。末長くお客様に安全で安心して使ってもらえる、そして多くの人に利用してもらえる建物にします」と思いを語る。

神戸の玄関口として生まれ変わる新たなビルは、旧ビルと同様、多くの人に親しまれる建物となるだろう。

(取材2020年7月)

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工事概要

名称 神戸阪急ビル増築工事
場所 神戸市
発注 阪急電鉄
設計 久米設計、大林組
概要 建築:【東館】SRC造・S造、制振構造、B3、29F、PH4F、延2万8,812m²、209室
【西館】改修工事SRC・RC造、B1、2F、6,872m²
土木:開口設置工事、版下げ工事
工期 2016年2月~2021年3月
施工 大林組

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