プロジェクト最前線

熊本の大地と水、緑あふれる大規模複合施設をつくる

熊本駅ビル(仮称)新築他工事

2021. 04. 23

災害拠点としての機能も重視し官民一体の再開発事業が進む熊本駅周辺。2019年に新駅舎が完成した熊本駅に隣接する大型複合ビルの建設が進む

2021年4月、熊本駅で進めてきた大型複合ビルが竣工を迎えた。完成をめざして取り組んだ建設現場(取材:2020年11月)を振り返る。

自然を体感する交流拠点

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熊本らしい自然を体感できる、憩いとにぎわいの空間「水と緑の立体庭園」断面イメージ図

熊本の「陸の玄関口」といわれる九州旅客鉄道・熊本駅。駅周辺の再開発事業では都市の活性化と駅利用者の利便性向上をめざし、人々が集まり、にぎわいを生み出す新たな場の創出が行われている。この事業の中核を担うのが、今回、大林組が建設する商業施設やホテル、結婚式場、シネマコンプレックスが入居する大型複合ビルだ。

今回の工事は、工事期間の短さや在来線への近接、周辺の整備工事との調整などの課題が多く、意匠性に富む建物であるため施工難度も高い。中でも1階から7階までを吹き抜けにした立体庭園と9階チャペルの工事は、関係者の多くが初めて手がけるものだった。

巨大吹き抜け空間に滝をつくる

エントランスホールの吹き抜け空間に建設する「水と緑の立体庭園」には、小国町(おぐにまち)に実在する「鍋ヶ滝」を模した落差10mの滝や水辺、植栽を配置することで「居心地が良く、また来たくなる空間」をめざしている。

発注者や設計者、水景設備会社、石材や造園工事などの専門工事会社を交えた分科会では、最大の課題である滝の水を「きれいな一筋の線のように流す」ための検討と原寸大模型での検証を何度も重ねた。

水の流れは、吐水部の石の加工形状や水量などで大きく異なるため、一つひとつの石材の位置を測定しながら接着して据え付ける。天然石の接着では表面の凸凹に小さな異物が紛れ込んだり、接着剤が硬化する時に収縮したりするため、正確な位置に設置するには工夫が必要だった。

試行錯誤の結果、位置を保持するためスペーサーを接着部分に設置したり、一度石材を置いて仮組みしてから据え付けるという手順を繰り返すことで解決した。

「問題が発生するたびに関係者が集まり、何度も原因究明と検討を繰り返すなど、できることはやり尽くしました。本施工の据え付けは計4回行いましたが、最終据え付け精度は水平レベル±0.5mm、前後±0.3mm以内。滝の仕上がりは関係者全員が満足できるものとなりました」と担当の江藤は話す。

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原寸大模型を製作し、石の配置や水量などを変えて水の流れを繰り返し検証した
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立体庭園の最上階に設置したガラス壁泉。きれいな水紋になるよう、水の流れ方や水量を何度も検討・検証した
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植物の特性に合わせて水やりを調整できる自動灌水システムを採用
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建物3階から一筋の線のように流れる滝

四角錐の屋根を持つチャペルに挑む

もう一つの山場となったのが9階チャペルの施工だ。四角錐状の形状で、屋根先端を支える柱がなく、45度傾けた片持ち立体トラス梁で建物全体を支える特殊構造となっている。担当の髙橋は「複雑な形状のため、二次元図面では鉄骨接合部やガラスカーテンウォール支持部材などの細かい部分の納まりが把握できませんでした」と語る。

そこでチャペルの図面検討、施工計画には三次元モデルの中に寸法、材質、構造などの情報を持つBIMを活用。BIMを導入している鉄骨製作会社の担当者と共に、BIMモデルを完成させた。発注者や設計者に対しても、複雑な干渉部分を視覚的に説明でき、理解を得やすくなった。

鉄骨製作でも新たな解を見つけた。チャペルには、一般的な建物と異なり鉄骨が水平、垂直に接合する部分がほとんどない。鉄骨を交差部で接合させる部材であるガセットプレートを、どの角度で鉄骨のどの部分に取り付けるのか、さらに溶接が可能なのか、ゆがみが発生しないのかなどを徹底的に検証し、クリアにしなければ完成しない。BIMだけで解決できる課題ではなかったため、鉄骨製作会社の担当者や熟練した溶接工も交え、工場での打ち合わせを何度も重ねた。

そこでまず、取り付けパターンごとにテンプレートを作成。溶接手順や方法を事前に検証した。その結果、正確にガセットプレートを鉄骨に取り付けることができ、複雑な接合部の精度確保に成功した 。

2,000枚以上のガセットプレートを使用したが、鉄骨建方の際には不具合もなく、すべての鉄骨をスムーズに組み上げることができた。「BIM活用はもちろん、鉄骨製作会社の抜群の精度管理によって、この複雑な形状の鉄骨工事が完成しました」と髙橋は語った 。

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BIMを活用したことで、内外装仕上げと鉄骨の関係性や取り合い部分などの問題点が整理された
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複雑な鉄骨接合部。ガセットプレートは、取り付け位置や角度などを徹底的に検証して、一つひとつ溶接した
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チャペルには屋根先端を支える柱がない。鉄骨を組み上げるためにBIMを活用し、関係者の力を結集した

受け継いできたすべてを活かして

「振り返るとこの工事は、未知の分野への挑戦でした。全関係者の熱意があったからこそ、ここまでたどり着けたと思います」と副所長の中武は話す。「竣工まで残りあとわずか。発注者や訪れる人たちに喜んでいただける建物の完成に向け、このプロジェクトを最後までやり遂げたい」と意気込みを語る。

所長の土山は、上司から学んだすべてをこの工事にぶつけるつもりだ。「熊本出身の私が、熊本城復旧工事とこの工事に連続して携われる巡り合わせに使命を感じています」

平成28年熊本地震から5年がたった春に、チーム一丸となって造り上げた熊本の新しいシンボルが誕生する。

(取材2020年11月)

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工事概要

名称 熊本駅ビル(仮称)新築他工事
場所 熊本市
発注 九州旅客鉄道
設計 日建設計
概要 S造、B1、12F、2棟、 総延11万20m²、203室
工期 2019年3月~2021年4月
施工 大林組

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