プロジェクト最前線

線路上空で圏央道の橋を安全に架ける

東海道本線戸塚・大船間横浜環状南線交差部上部工新設

2020. 12. 24

JR京浜東北線や横須賀線などの線路を越えて重さ2,500tの橋桁を架けるため、仮受け台の構築が進む

9本の線路またぐ橋桁の架設に向けて

東京都心を中心に半径約40~60kmを環状に結ぶ首都圏中央連絡自動車道(以下、圏央道)。全長は約300kmに及び、全線が開通すれば東名高速、中央道、関越道などの放射状に延びる高速道路や都心郊外の主要都市をつなぎ、首都圏の広域的な幹線道路網を形成する。大林組は、圏央道の一部を形成する横浜環状南線(神奈川県)の橋梁の主桁架設工事を行っている。

横浜環状道路の南側区間にも該当する横浜環状南線(以下、横環南(よこかんみなみ))の建設には、横浜市中心部に集中する交通によって発生する慢性的な渋滞を緩和し、横浜市郊外の相互連絡を容易にして、市の一体化を図る目的がある。

さらに、横環南が東名高速や中央道に直結することで、横浜港から首都圏内陸部への所要時間が短縮され、物流効率の向上、地域間交流や沿線への企業進出などの経済効果も期待される。

横環南は延長約8.9km。横浜横須賀道路の釜利谷JCTと国道1号線を結び、約7割が地下構造となる。当工事では地上部の栄IC・JCTとなる高架橋の主桁を新設する。

今回の工事の最大のポイントは、東日本旅客鉄道の京浜東北線や横須賀線、東海道本線、東海道貨物線おのおのの上下線と根岸貨物線の5路線9線の線路上に主桁を架ける作業。道路の上下線でそれぞれ1回、合計2回を予定している。安全かつ迅速、確実に作業を行うため、万全の準備を整えている。

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JR大船駅の程近くに長さ約150mの橋梁を建設
主桁(ピンク色)架設後のイメージ図

100mの主桁を送り出す

橋梁の主桁の構築に採用される最も一般的な工法は、上部工を仮受け台で支持しながら順次、桁下に設置したクレーンで架設していく「クレーンベント工法」だ。しかし、鉄道の営業線上での工事は桁下にクレーンを設置できないため、「送り出し工法」を採用した。

送り出し工法とは、主桁を送り出すスタート地点側に構築した仮受け台上にレールとなる軌条(きじょう)桁を設置し、その上部で組み立てた主桁を、軌条桁に沿って延ばして据え付けるもの。現場では現在、主桁の組み立てを行っている。

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主桁を送り出すスタート地点から据え付け場所まで運ぶため、レールとなる軌条(きじょう)桁をクレーンで設置

送り出しによる架設作業は、9線全線の線路を閉鎖して実施するため、約100分という深夜の限られた時間内に完了させなければならない。少しでも遅れると、当該路線の運行だけでなく首都圏の交通網をまひさせることになり、その影響は計り知れない。

また主桁は、送り出す先の橋脚に到達するまで片持ち状態となるため、落下防止や線路上での立ち往生回避のために、確実に作業を進める必要がある。「発注者である東日本旅客鉄道から特に要望されていることは、営業線の安全確保です」と所長の高橋は語る。

仮設備の組み立てから主桁の設置完了までの各工程において、ありとあらゆるリスクを徹底的に洗い出し、一つずつ対策を立てて実行している。これには地震の発生や動力故障などの不慮の事象も含まれており、耐震設備の増設や予備動力の二重対策の徹底によって、安全の確保を図っている。

仮受け台の上で組み立てが進む主桁
仮受け台は全部で18台製作予定。仮受け台の製作から構築には2年以上かかる

BIM・CIMの活用で工事の流れを可視化

(動画再生時間:26秒)

「安全確保や生産性向上につながることは、何でも試しています」と語る所長の高橋。力を入れているのがBIM・CIMの活用だ。工事の施工開始から完了までに至る一連の流れを可視化し、施工手順や工事の進捗状況などの確認に活用している。発注者からも好評を得ており、施工面でも、危険作業や危険箇所を事前に確認できることで、工程管理が効率化された。

現在はさらなるBIM・CIMの活用も行っている。主桁を架ける作業は、線路を閉鎖する約100分で完了させるため、翌日運行する列車の運転士の視界には前日と全く異なる景色が広がる。

「運転士目線の3次元モデルを作成し、主桁架設後にどのように見えるかをシミュレーションしている。架設後の安全な列車の運行にも貢献していきたい」。鉄道関連工事の現場経験が多い高橋は考えている。

また、バックホウやクレーンにはすでに取り付けられている、人の接近を検知して重機との接触を防止するクアトロアイズ®のフォークリフトへの応用も検討している。

基本的な安全対策も怠らない。橋梁工事は、ほとんどが高所での作業となるため、重大事故につながりやすい。そこで現場内に安全帯訓練設備を設置し、定期的な訓練によって、安全帯の正しい使用方法を学び直すなど、関係者全員が基本に立ち返ることができるようにしている。

新規入場時や安全帯強調月間中は、フルハーネス型安全帯での訓練も行い、安全への意識を高めている

1回目の送り出しに向けて連携を強化

鉄道の営業線直上での約100mの主桁送り出し工事の事例は多くない。この工事を確実に進捗させ、成功に導くにはJV構成会社と橋梁専門工事会社との連携が重要になる。施工検討会などでも、工事関係者間で密に情報交換し、橋梁施工のノウハウ、知識を共有している。この現場でのノウハウや技術を、関係者全員が今後の工事で活かしてほしい、という高橋の思いがあるからだ。

さまざまな社会的効果が期待され、地域や利用者からも待ち望まれているプロジェクト。1回目の主桁送り出しに向けて、できることは何でも試し、着実に工事を進めていく。

(取材2020年5月)

施工検討会では土木工事部、橋梁技術部、協力会社を交え、協議を重ねる
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工事概要

名称 東海道本線戸塚・大船間横浜環状南線交差部上部工新設
場所 横浜市
事業主体 国土交通省
発注 東日本旅客鉄道
設計 ジェイアール東日本コンサルタンツ
概要 桁制作重量2,697.9t、桁架設重量3,616.6t、橋長155.5m、桁長154.6m (P(橋脚)6~P7 径間60.1m、P7~P8 径間94.5m)
橋梁形式 鋼3径間連続鋼床版箱桁橋
工期 2017年3月~2021年2月
施工 大林組、奥村組、戸田建設

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