プロジェクト最前線

天神と博多をシールドトンネルでつなぐ

福岡市地下鉄七隈線中間駅(仮称)西工区建設工事

2021. 06. 04

国道202号線の直下、博多川など2本の川を横切る長さ670mのシールドトンネルの建設が進む
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駅新設と延伸工事の概要

2005年に開業した福岡市地下鉄七隈線(ななくません)は、福岡市の西南部にある橋本駅から中心部の天神南駅までを結ぶ延長約12kmの路線だ。利用者の利便性向上や交通渋滞の緩和を目的に、天神南駅~博多駅間の七隈線延伸工事は、約7年にわたって進められている。

大林組JVは、天神南駅と博多駅の中間地点に新設される「中間駅(仮称)」の天神側約3分の2の躯体を構築する開削工事と、そこを発進基地としてトンネルを構築するシールド工事、シールドマシンが到達する天神南駅との接合工事を行う。

工事延長約670mの地上には、JR博多駅につながる国道202号などの主要道路や那珂川(なかがわ)、博多川、歓楽街の中洲があり、多くの商業ビルや住宅などが存在するため、騒音や振動、地盤沈下、生活用水となる地下水などに配慮が必要だ。

文化財調査に伴う施工計画全体の見直し

本工事で課題となったのが、工程の変更に伴う施工計画の見直しだった。受注直後に、開削工事をするエリアのほぼ全域で埋蔵文化財調査が行われることになり、本格的な工事開始に影響が及んだ。

工程短縮を最重要課題とし、現地の状況や条件変更に適した施工計画を策定するために、構造計算から設計を見直した。切梁構造から広い作業スペース確保が可能になるグラウンドアンカー構造への変更、シールドマシンや資機材を搬出入するための仮設開口部躯体の受け替えなど、発注者と協議を重ねた。

開削とシールド工事の並行作業

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新設する中間駅に設けられたシールド発進部

当初計画では、まず中間駅構築のために開削工事を行い、中間駅の躯体完成後にそこを発進基地としてシールド工事を行うというものだった。しかし、施工計画全体の見直しにより、開削とシールド工事を並行して進めることになった。

そこでシールドマシン発進に必要なスペースを確保するために、発進基地となる中間駅の躯体構築の工区を6分割し、発進側3工区を先行して施工。シールドマシン搬入・組み立ての開口部や最低限の資材置き場などを確保して、シールド工事に着手した。

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開削する地上部には騒音や粉じんを防ぐための防音ハウスを設置。狭あいな場所に合わせた縦長の構造
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開削工事で構築した中間駅の一部をシールド発進立坑に利用した

資機材搬入と掘削土搬出を徹底管理

「資機材の物流管理は工程に与える影響が大きく、効率良く作業が進捗するように工夫しました」と所長の田代は語る。必要な資機材に加えて、シールド工事による搬出土量は1日当たり約300~500m³。10tダンプ12~17台がそれぞれ1日5回往復するほどの量だ。

そこで、駅構築に伴う開削とシールド工事の作業時間帯をずらし、複数ある産業廃棄物処分場までの往復時間のデータを収集・分析してダンプ不在の隙間時間を資機材の搬出入に当てた。

さらに、近隣との協定で夜間搬出入ができないため、資材の仮置き場や土砂ピット内汚泥の数量管理を徹底。資機材の配置を工夫することで、翌日の作業効率を向上させる環境を整備した。円滑な物流管理を実現した結果、開削とシールド両工事の並行作業がクリアできた。

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効率良く作業を進めるために綿密に計画し、セグメントや圧送配管などを使用順に仮置きする
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シールド工事に使用した直径約5.5mのシールドマシン。1日の掘進距離は直線区間では最大約14m
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躯体が完成した新駅のプラットホーム。開業後は、多くの人がこの場所を利用する

シールドマシンの到達地点・天神南駅での出水対策

施工計画の見直しによってもう一つ大きく変更したのは、天神南駅到達部の出水リスクへの対応だ。本工事ではシールドマシン到達部に従来設ける地上部への連絡立坑がなく、仮壁を境に営業線が運行している。そのため、シールドマシン到達時の万が一の出水による営業線への影響は、絶対に避けなければならなかった。

当初の設計では、止水隔壁を仮壁撤去後に設置する予定だった。しかし、撤去作業時だけでなくシールドマシン解体時の出水リスクも考慮しなければならない。そこで施工手順を見直して仮壁撤去前に隔壁を設置する設計に変更。仮壁撤去からシールドマシン解体まですべての作業を止水隔壁の内部で実施し、営業線への影響回避と作業の安全確保を図った。

止水隔壁の部材運搬は終電後に営業線を利用した。ボルト1本落としただけでも翌日の運行に支障を来す。「さまざまな制限がある中で作業の安全には細心の注意を払う必要がありました」と工事長の田中は語る。

止水隔壁を四角い構造から円形構造に変更し、構造を見直したことで、当初に比べて部材重量が半分になり搬入回数も削減した。数々の工夫によって、最後まで営業線の運行に影響を与えることなく、トンネルの構築を成功させることができた。

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天神南駅側から見た止水隔壁。掘削に伴う出水を完全に止める

【シールドマシン到達部の止水隔壁施設と撤去のステップ図】

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    1 到達部防護

    天神南駅側の仮壁裏に土留壁を設置し、その裏の土壌への薬液注入などを行いマシン到達部を防護

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    2 止水隔壁設置

    仮壁に止水隔壁を設置し、仮壁の一部を撤去。土留壁裏の止水を確認

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    3 シールドマシン到達

    マシンを土留壁の直前まで掘進させ、チャンバー内の土砂を排出し、土留壁を撤去

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    4 止水隔壁撤去・残置壁撤去

    止水隔壁を撤去した後、残置した仮壁を撤去

工事開始から7年。完成への思い

「2019年11月から続く無事故無災害記録の達成をめざします」と所長の田代は語る。約7年という長期にわたる工事の努力と成果を無駄にしないように、現場では緊張感を持った施工が続く。皆が待ち望む路線の開通は間近だ。

(取材2021年1月)

工事概要

名称 福岡市地下鉄七隈線 中間駅(仮称)西工区建設工事
場所 福岡市
発注 福岡市
設計 福岡市
概要 施工延長670m(各工法の重複区間37m)
【トンネル部】施工延長 569m(泥土圧シールド工法 単線並列)
【駅舎部】施工延長 138m(開削工法)
工期 2014年3月~2021年7月
施工 大林組、熊谷組、大本組、東田中建設

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