プロジェクト最前線

LRV工法で北陸新幹線の高架橋を架ける

北陸新幹線、福井開発高架橋

2021. 07. 16

2021年7月、福井県で進めてきた北陸新幹線の高架橋工事が竣工を迎えた。完成をめざして取り組んだ建設現場(取材:2020年9月)を振り返る。

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全線が開通すれば上信越、北陸地方を経由して東京~大阪間を結ぶ北陸新幹線。2015年までに東京~金沢間が開通し、2024年春の金沢~敦賀間の開通に向けて、現在、急ピッチで工事が進む。大林組は、北陸新幹線の鉄道高架橋の建設において、RC(鉄筋コンクリート)造の柱・梁を接合するLRV工法を土木工事で初めて適用する。

LRV工法とは、高層建築用に開発した技術で、コンクリート製の柱や梁部材をあらかじめ工場製作(PCa化:プレキャスト化)し、現場でのコンクリート打設をなくして超短工期施工を実現する工法だ。複雑な配筋作業や柱・梁の接合部(仕口)の制作を工場で行うことで、高い品質を確保できる。

今回の工事は、住宅や通学路などを横断する市街地部と、JR北陸本線・えちぜん鉄道の営業線に挟まれた部分(以下、営業線近接部)に分かれ、営業線近接部は工期内での完成が厳しい状況だった。そこで、大幅な工期短縮を実現できる新しい工法が求められた。

既存技術を応用した橋梁技術の開発

近年の鉄道土木工事では「短工期での工事完了」とともに、建設技能労働者不足を背景にした「省力化による生産性の向上」も求められている。そこで、大林組では2010年から、建築部門がRC造高層住宅用に開発した「LRV工法」を土木工事にも適用し、鉄道ラーメン高架橋(※1)のフルPCa化に向けた研究開発を進めてきた。

中でもPCa化が最も難しい、配筋が密で複雑な柱と梁の接合部については、鉄道総合技術研究所との共同研究を行ってきた。試行錯誤の結果、2015年12月にLRV工法によるプレキャスト鉄道ラーメン高架橋の設計・施工方法「高架橋LRV工法」を確立した。

  • ※1 橋梁形式の一つ。主桁と橋脚を剛結構造としたもの

高架橋LRV工法での施工に向けて

今回、高架橋LRV工法を下部工の施工に初適用するにあたり、実際の工事における設計・施工の課題を事前に抽出するための試験工事を実施した。

試験工事は、営業線近接部の施工開始1年前から、従来工法で施工する市街地部の高架橋の一部を利用して実施。クレーン旋回時に施工ヤード範囲を越境すると警報が鳴るレーザーバリアを導入するなど、営業線近接部と同様の施工環境をつくって行った。

高架橋LRV工法では、ブロック状に分割された梁や柱などの複数のPCa部材を、現場で組み立てて高架橋を構築する。PCa化した柱と梁の接合部については、工場での実証実験を経て、試験工事でも問題なく一体化できることを確認した。「問題が発生すれば、その都度、検討・対策を講じて、設計・施工に反映させました」と工事長の光森は語る。

2019年11月から営業線近接部での施工を開始したところ、従来工法で施工した場合と比較して、工期を約5ヵ月短縮し、大幅な工期短縮を実現することができた。さらに、部材の品質と生産性の向上も実現。現在も順調に工事を進めている。

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クレーンの移動を繰り返しながらPCa化した部材を据え付ける
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柱・梁の接合部(仕口)に横梁を接続
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さらに重ねる工夫

PC(プレストレスト・コンクリート)上部工を設置する主桁の架設においても、工場で分割したPCa桁を現場に搬入し、現地で一体化する「プレキャストセグメント工法」を採用。約5~7mの長さに分割した桁は、一般道での運搬を容易にし、作業効率の向上に寄与した。「下部工が完成した所から桁架設を順次進めることができ、当初計画から約2ヵ月の工期短縮を実現できました」と所長の砂野はその効果を話す。

ほかにも、コンクリート打設時の温度変化に伴うひび割れ対策として「フレックスクーリング工法」を橋脚基礎の工事で初めて採用した。

コンクリートは水とセメントの化学反応で硬化する際に熱を発生させる。特に生コンクリート打設後数日間は、急速に大量の熱が発生するため、内外の温度差によりひび割れが生じることがある。その対策として、コンクリート内部に鋼管パイプを配置し、コンクリート打設後に水を循環させて内部を冷却することでひび割れを抑制するパイプクーリング工法が一般的だ。

フレックスクーリング工法では、鋼管パイプの代わりに、軽量で長尺、さらに人力で自由に曲げられる合成樹脂可とう電線管を使用。これによって作業時間を約70%、材料、加工などのコストを約40%削減できた。

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PC上部工の夜間クレーン架設の様子。主桁をセグメント化することで、一般道への搬入や現地組み立てが容易となった
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フレックスクーリング工法は、入り組んだ箇所への配置や、鉄筋と干渉したときの調整を容易にする

徹底した安全対策

営業線近接部で作業を行う場合、並行する営業線の鉄道関係者と協議のうえ、作業時に注意すべきルールを詳細に決める。作業の際には1日に10人以上の列車見張り員と重機誘導員を配置。施工場所の600m手前から見張り員が無線合図を誘導員に送ることで、列車が通過する前にクレーンを停止させ、営業線へのトラブルを回避している。現在までトラブルは発生していない。

常時200人以上の作業員が従事する現場で、2020年6月には無災害記録100万時間を達成した。「日々のコミュニケーションを欠かさず、全員が一つのチームと感じられるような雰囲気づくりを大切にしています。現在も継続している安全成績を維持したまま、この工事を完成させます」と所長 砂野は決意を語った。

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工事への期待や注目度が高く、見学会が頻繁に開催された
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高架橋LRV工法の説明には3Dプリンターで作製したブロック式の特注模型を使用。児童にも分かるよう工程を組み立てながら解説した
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(取材2020年9月)

工事概要

名称 北陸新幹線、福井開発高架橋
場所 福井市
発注 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
設計 鉄道建設・運輸施設整備支援機構
概要 施工延長 2,321m(LRV高架橋11連、RC高架橋6連、PC橋梁19連、RC桁56橋の橋梁上下部工)
工期 2017年4月~2021年7月
施工 大林組、名工建設、道端組

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