プロジェクト最前線

日本初の高層純木造耐火建築物をつくる

OY プロジェクト

2021. 11. 09

完成予想図(2022年3月竣工予定)OY プロジェクト特設サイト

大林組は、脱炭素社会の実現や環境保全に向けた取り組みの一つとして木造・木質化建築物の建設、技術開発を行っている。現在、神奈川県横浜市で、柱・梁・床・壁の構造部材すべてに木材を採用した大林グループの研修施設を建設中だ。建設現場では、日本初の高層純木造耐火建築物(OY プロジェクト)の完成に向けた挑戦が続いている。

建物は、自由闊達(かったつ)なコミュニケーションを誘発し、イノベーションや企業文化を生み出すことをコンセプトとする次世代型研修施設。木造建築とすることで、利用者に自然を感じさせるとともに、五感を刺激して心身の健康や集中力、快適性を高める効果が期待されている。

「木」を理解する

エンジニアリングウッドと樹木の特性

構造上の安全性を確保するために、建物の要となる柱と梁には、加工木材であるエンジニアリングウッドのLVL(Laminated Veneer Lumber)をボルトやビスでつづり一体化した、耐火木造技術「オメガウッド(耐火)」を採用している。

LVLとは、丸太をスライサーなどで厚さ約4mmの薄い板にした後、乾燥させて、繊維方向を平行にそろえて積層し、圧着したもの。一般的な木材に比べ、強度にバラツキが少なく、含水率が基準値内で正確に管理されている。さらに、ねじれや割れ、反りが発生しにくく、構造材としては鉄骨などに比べると軽量なのが特長だ。

しかし、一般的な集成材やCLT(※1)、合板では特に問題とならないが、LVLの断面からは雨や空気中の湿気からも吸湿・吸水することが分かった。製材⼯場に保管していたLVLの寸法には変化が生じていた。さらに、事前の柱と梁の接合実験では、雨に濡れた部材の接合部の穴の位置がずれ、鉄筋が差し込めず接合できない現象も発生し、LVL断面の吸水対策が必要になった。

原因は、樹木や植物が根から水分を全体に行き渡らせる「道管」の存在だ。「木」はLVLの製造過程で過乾燥状態となる。道管の方向が平行にそろえられたLVLの場合、切断や穴開けなどの加工によって表面にさらされた道管が吸湿・吸水することで膨張し、寸法変化が起こる。

  • ※1 CLT(Cross Laminated Timber) 丸太から取ったひき板(厚板)を、繊維方向が直交するように積層接着した製品
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LVLの製造方法

吸湿、吸水、雨を防ぐ

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雨を直接受ける上面にはシリコンシールをすり込み、養生フィルムを貼って、吸湿・吸水を完璧に防ぐ

工事で使用するすべてのエンジニアリングウッドは、吸湿・吸水により寸法変化が起こった。そこで、大林組の木造・木質化建築プロジェクト・チームや製材加工専門の協力会社を交えて、検討・検証を重ねた。

道管からの吸湿・吸水を防ぐため、撥水剤や木工用ボンドなど6種類の物質を選定し、それぞれを切断面に塗布して水をかけ、状態を確認したところ、長時間の防湿・防水効果があったのはシリコンシールをすり込む方法だった。しかし、すべての切断面にこの方法を採用すると、時間とコストがかかる。そこで、柱天端(てんば:上面)、梁端部、梁天端、床それぞれに適した対策を行った。

また、階段室やエレベーターなどの設備シャフトの竪穴開口部は、仮設の屋根やビニールシートなどでふさいでいる。さらに工事の進捗に合わせて4階と8階が止水フロアになる。雨水は建物外周部に設置する仮設庇(ひさし)と軒樋(とい)を通じて建物外へ排水。雨水浸入の防止を図っている。それでもエンジニアリングウッドが濡れてしまった場合は、送風機で徹底的に乾かしてカビや腐朽菌などの発生を防ぐ。

所長の青山は「木はどんなに加工してもその本質を失わない『細胞の塊』。性質を理解し、それに合った施工を進めることが成功につながります」と語る。

シリコンシール使用時の撥水性を確認。水は表面で吸収されず、塊になる
梁端部に合わせて加工した角材と長尺ボルト
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梁端部は柱と接合するまで角材と長尺ボルト(上)で拘束することで、膨張を防ぐ

高層を可能にする技術

柱と梁を一体化

今回の工事は、高層建築であることも課題だ。木造の建物を、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物と同様に高層化し、安全性を確保するためには、柱と梁の接合部の高剛性と高耐力が必要だ。

木造・木質化建築プロジェクト・チームは新たな部材として、軽くて加工精度が高い木材のメリットを活かした、柱と梁を一体化する「剛接合仕口ユニット」を開発。接合部の高剛性、高耐力はもちろんのこと高じん性も確保した。加えて、免震構造やオメガウッド(耐火)を組み合わせることで、地震や火災にも強く、安全性の高い構造を備える建物の施工が可能となった。

回転式の架台が、狭い土地での柱の立て起こしを可能にしている

剛接合仕口ユニット

大林組が新たに開発したのが、柱と梁を一体化する「剛接合仕口ユニット」。接合具と接着剤で木材を接合するGIR工法(Glued in Rod)と、柱と柱を貫通させて連なる貫構造を組み合わせた3層構成で、柱と梁の接合部の剛性・耐力・じん性を確保する。

さらに、接合部の木材はシンプルな構成となっているため、あらかじめ工場でのユニット化を可能にし、構造性能のバラツキの抑制と高い施工性を実現している。大林組東日本ロボティクスセンターで行われた組み立て試験では、実物大の剛接合仕口ユニットを使用して取り付け制度や施工手順を確認した。

木に外装部材を取り付ける

内装や外装の部材の取り付けでも工夫が必要だ。鉄骨造であれば、柱や梁に溶接して部材を取り付けるが、火気厳禁の木造ではできない。そこで、木には耐火上認められた太さの木ビス(以下、ビス)を使用する。

外装部材を取り付ける梁には耐火被覆の石膏ボードが巻かれており、カーテンウォールの荷重を直接負担させることができない。そこで、梁に打ち込んだ支圧用ビス頭に支持プレートを載せ、留め付け用ビスで固定し荷重を分散させた。これらのビスは引き抜きの力には強いが、曲げや横の力に弱いため、カーテンウォールを取り付けた後の鉛直荷重に加え、風などによる横からの水平力も負担できるように支持プレートをL型にした。

さらに、梁内部にすでに打ち込まれている接合用のドリフトピン(鋼棒)などと干渉しないように、BIMを活用して木造躯体製作図を作成。図面にビスの打ち込み位置を重ね合わせて調整した。

石膏ボードの上から支圧用ビスを打ち込む
L型支持プレートの採用により、最終的に取りつけられるカーテンウォールの安全と品質を確保

現場に課せられた使命

木から学ぶ、人から学ぶ

日本初の高層純木造耐火建築の工事を順調に進めるために、大事なことが3つある。1つ目は木造建築の経験が豊富な協力会社の採用。木は思い通りにいかない繊細な材料だからこそ、その扱いに熟達しているとび職人の技術やノウハウに加え、経験に基づく勘が重要となるからだ。

2つ目が信頼関係の構築。所長の青山は社員をはじめ現場関係者全員に、「目配り・気配り・思いやりの精神」で人に接するように伝えている。相手の気持ちを汲み取り対処すれば、信頼関係を強めることができると考えているからだ。

最後は自分たちが木の知識を習得すること。「図面通り、指示通りの作業を」と、一方的に押し付けるのではなく、協力会社の職人の話をよく聴き、木を実際に手に取って理解することが大切だ。

現場に着任するに当たり所長の青山は、木造建築の知識を得るため、材料や道具を一通り購入し、自宅用の家具を製作した。「多くのことを学びました。人の話を聴くのも大事ですが、自分で試してみて初めて気付くことがあります。この経験が現場で活かされています」と話した。

大林組が開発したビジュアル工程管理システム「プロミエ」で、3DのBIMモデルをベースに工事進捗を管理

新たな企業価値を創造

本工事は実験的な施工といえる。単に完成させるだけでなく、木の性質を理解して得た知見を施工部門、設計部門へ展開することが、この現場に課せられた使命だ。「技術力と現場力を遺憾なく発揮し、やり遂げます」と、所長の青山は工事への決意を力強く語った。

(取材2021年3月)

工事概要

名称 OY プロジェクト
場所 横浜市
発注 大林組
設計 大林組
概要 純木造、免震構造(耐火建築物)、B1、11F、延3,620m²、宿泊室32室
工期 2020年3月~2022年3月
施工 大林組

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