プロジェクト最前線

大阪「うめきた」再開発エリアの地下に長大構造物をつくる

東海道線支線南1地区T新設他工事

2022. 09. 08

新設される駅ホームへとつながる接合部を地下函体(かんたい)から見る
地上を走るJR東海道支線(写真の敷地左側)を大阪駅(敷地右側)に寄せて地下化(白い曲線)

大阪駅北側に広がる再開発地区「うめきた」で、官民が周辺地域と一体になって進めるまちづくりが「うめきた(1期地区、2期地区)プロジェクト」だ。

2013年、大林組はうめきた先行開発区域(1期地区)に誕生した「グランフロント大阪」に、開発事業者、設計者、施工者の立場で携わった。

グランフロント大阪に隣接する、かつて梅田貨物駅が営業していた場所は、現在うめきた2期地区となり、2024年夏頃の一部先行まちびらき、2027年度の全体まちびらきをめざした開発が進められている。2期地区のプロジェクトにもさまざまな形で携わっており、このまちの基盤となるJR東海道線支線の地下化事業の1工区である、約420mの地下函体(かんたい)の構築も担っている。


大阪駅前で進む開発事業

地上の在来線を地下へ

このまちづくりの基盤となるのが、敷地の最西端を南北に走行しているJR東海道線支線約2.4kmの地下化事業。地下化による、線路踏切の除却、高架橋によって高さ制限が設定された道路との交差部の解消などが目的だ。

さらに、関西国際空港へのアクセスや鉄道広域ネットワークの強化を図るため、新たな駅「うめきた(大阪)地下駅」の設置事業も同時に進められている。これらの事業は、一部先行まちびらきより一足早く2023年春の開業をめざしている。

今回の工事は、供用中の道路の下を斜めに横断する地下函体(以下、函体)を開削工法で構築する。加えて同エリアでは、本工事に付随する道路のう回、下水や電気共同溝などのインフラ整備のほか、既存施設や大阪駅から「うめきた(大阪)地下駅」に続く地下通路などの工事を、大林組と大林組JVが担っている。大林組JV所長の泉谷は、これらすべての工事の指揮を執る。

「地下化事業の中でも、本工事の施工範囲は、うめきた2期地区のヤード外が大半を占めていました。交通量の多い供用中の幹線道路や阪神高速道路の出入り口などで、施工には多くの工夫が必要でした」と泉谷は語る。

地下函体(赤枠内)をはじめ、うめきた2期地区ヤード外となるう回路や地下通路などを構築

既存インフラを移設しながら構築

工事のポイントとなるのは、道路下に敷設されている電気・ガス・水道などの各インフラ設備のうち、工事に支障を来す部分を移設することだ。函体を道路に対して直角平行に構築する場合、移設範囲は限定的だが、この函体は道路や各インフラ設備を緩やかに斜め横断する。そのため、移設方法が複雑になる。「各インフラ設備が効率良く移設できるよう、大阪市やインフラ会社と何度も協議して調整しました」と副所長の山口は当時を振り返る。

まずは、幹線道路を仮設道路に切り替え施工ヤードを確保した。そのうえで、インフラ各社からの要望も取り入れながら新ルートを確定させて、交差する3つの短い函体を先行して構築。函体上部にインフラ設備を移設した後、分断された3つをつなぐ函体を構築する6分割施工で行った。「土留め、掘削、構築、埋め戻しを短期間に何回も行うため、緻密な工程管理が必要でした」と工事長の藤田は語る。

地下函体を6分割で構築する工事ステップ図

  • 幹線道路を仮設道路に切り替え、下水管の移設に伴い13.5mの函体(先行函体1期)を構築

  • 電気などの埋設管を移設

  • ガス管の移設に伴い11mの函体(先行函体2期)を構築し、ほぼ同時期撤去予定の日通倉庫部に26mの函体を構築

  • 函体3期として先行函体1期と先行函体2期をつなぐ約103mと、阪神高速道路の梅田ランプ前の35mの函体2つを構築

  • 施工範囲最南部の筑前橋部に函体を構築するとともに、雨水放流渠(ほうりゅうきょ)を移設

  • 日本通運大阪支店の旧建屋跡地で、本工事に支障を来す地下躯体を撤去後、127mの函体(日通社屋部)を構築

不定形の長大構造物

約420mの函体に10パターンの断面構造

地下構造物の函体は、4本の線路の接合部となる駅部分から中央で一度細くなってまた広がり、最後は単線になる形だ。そのため、函体の断面構造は10パターンにも及ぶ。特に、一度細くなる所はシーサースクロッシング(※1)部で、縦横無尽に線路上で列車を走行させるため、間柱のない長いスパンの函体にする必要がある。函体上の土圧を受けるには、この部分の躯体コンクリートを厚くしなければならない。

このように、10パターンの断面構造にはそれぞれ、コンクリートの厚さ、使用する鉄筋の径や長さなど、さまざまな違いがある。中でも特にコンクリートについては、構造ごとに打設日の気温などを想定し、温度変化によるひび割れを事前に確認するため温度応力解析などを行った。

また、インフラ設備の移設や杭打ちなどで、1年ぐらい函体を構築しない期間もあるため、函体を構築する都度、事前に協力会社を交えての勉強会も実施した。「断面がシンプルな長方形ならば、型枠工も鉄筋工も同じ工程を繰り返せばいいが、今回の工事ではそれができない」と工事長 藤田がその難しさを話した。所長 泉谷は「難しい施工条件だからこそ、大林組にこの工区が任せられたのだと思っています」と語る。

  • ※1 シーサースクロッシング:隣り合う軌道間渡り線が交差する軌道構造
断面図(左から)単線部分、列車が縦横無尽に走行する部分、駅部分
コンクリートを打設し、適宜、土留支保工を解体しながら函体を構築していく

交通インフラが密集するエリア

大阪の大動脈を止めずに進める

施工での山場は、阪神高速道路の梅田ランプの出入り口付近での地下工事だった。夜間に車線規制を行いながら工事を進めることになった。

道路規制時間は夜9時から翌朝6時まで、準備、撤去を考慮すると実働6時間しか工事を行えない。毎晩、高さ約30mもある杭打ち機を運び出し、狭あいな場所で土留壁の築造、仮覆工、掘削、土留支保工の設置、函体構築、土留支保工の撤去、道路復旧を実施した。「綿密なタイムスケジュールを組みながら工事を進め、大阪の大動脈を止めることなく完了できました」と所長 泉谷は話す。

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2021年12月末で道路復旧作業は完了。写真は2022年1月時点での梅田ランプ出入り口付近
阪神高速道路の梅田ランプ出入り口での夜間工事では、施工場所の横ギリギリを大型バスが走行する。敷地の地下に土留め壁を構築するため、高さ約30mの杭打ち機を設置した

未来を見据えたインフラ設備の移設

大阪の中心部を大雨による浸水から守るための設備である雨水放流渠(うすいほうりゅうきょ)も、函体に支障を来すので移設の必要があった。しかし、設計が決まり工事着手直前のタイミングで問題が発生した。

別事業として進む関西高速鉄道なにわ筋線は、将来、「うめきた(大阪)地下駅」に乗り入れる計画で、その新路線にも雨水放流渠が支障を来すと判明したことだった。

このため、本来ならば移設に必要な立坑は本工事に必要な深さで構築すればよいが、新路線と接する側の立坑は、本工事より深度がある新路線の工事を考慮して構築することになった。「この工事で一番深い掘削となりましたが、今後の周辺工事を考慮し、先を読んで実践することが大事なのです」と所長 泉谷は語った。

発注者の対外協議にも積極的に参加し、協力会社の英知も結集して、雨水放流渠内の水を抜ける12〜2月の渇水期に効率良く工事を進めた。

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本工事の単線の函体(左側)と将来なにわ筋線が接続する側の函体(右側)の間の立坑は本工事で最も深度がある

どこでも作業ができる環境づくり

工事事務所では、一人ひとりが1日の残業時間を30分削減する「1日マイナス30分運動」を心がけて、どこでも作業ができる環境づくりに取り組んでいる。

例えば、作業場所に乗り付けられる「オフィスカー」の導入だ。工事事務所から作業場所まで距離があるため、往復の移動時間の有効活用を目的としている。

さらに、地下の函体には携帯の電波が届かないため、Wi-Fiを設置。チャット端末やスマートフォンでのビデオ通話などができる。また、列車の営業線や道路と近接交差する場所での施工では、騒音の中でも通話が可能な骨伝導イヤホンマイクを試験的に導入している。

どこにいてもすぐに情報を共有できる環境を整えることが、残業時間の削減をはじめ、社員や作業員のコミュニケーションに役立っている。

Wi-Fiが設置されたオフィスカーには、パソコンやプリンター、ポータブル電源、小型冷蔵庫などが完備
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騒音の中でも通話が可能な骨伝導イヤホンマイクを活用

先を読む力を身に付ける

安全の見える化

大林組は、社員や作業員自らがリスクに気付けるよう「安全の見える化」に力を入れている。

「計画と実際の作業とにズレを感じたら、いったん立ち止まり、再計画してから再スタートできる『考働力』を身に付けること。そしてリスクを『自分ごと化』するよう働く人全員に伝えています」と所長 泉谷が語る。

また、災害防止のための行動目標として「安全5(ファイブ)」を定めている。「必ず使おう安全帯」「全員参加で手順の確認」といった定型以外に、協力会社にもオリジナルの「安全5」を作成してもらい、安全看板に掲示。一人ひとりの安全知識・意識の向上を図っている。

協力会社が作成したオリジナルの「安全5」

創業の地で信頼をつなぐ

「真面目な安全管理や品質・出来高管理、工程管理の積み重ねは、お客様の満足を生み、信頼にもつながります。そのためには、安全管理には妥協を許さず、細かいところにまで気を配り、現場にいる誰もが気付かなければなりません」と所長の泉谷は安全の見える化に取り組む思いを語った。加えて、発注者に納める構造物に対しては「品質にこだわり」を持って仕事を行うこと、発注者の「開業目標2023年春」は必達事項と考え、JVが一丸となって工程短縮の知恵や工夫に取り組むことが大事だと続ける。厳しい施工条件下でも工事が順調に進んでいる。

大林組創業の地・大阪で注目を集めるうめきた2期地区の開発事業において先陣を切る本工事。その後の工事の受注にも大きく貢献している。「大阪最後の一等地と呼ばれる場所で、大林組の土木と、複合施設などを施工中の建築が協働して、まちびらきに向け大きなプロジェクトに挑戦しています。これからも、発注者はもちろん、事業主体が望んでいること、困っていることは何かをいち早く察知して解決策を提案し、工期順守で完成させることで、スーパーゼネコンとしての意義を社会に示していきます」と語る所長 泉谷からは、この現場に懸ける熱い思いが伝わってくる。

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(取材2022年1月)

工事概要

名称 東海道線支線南1地区T新設他工事
場所 大阪市
発注 西日本旅客鉄道
設計 ジェイアール西日本コンサルタンツ
概要 施工延長約420m、躯体コンクリート約2万4,000m³、土留壁2万6,000m²、掘削工(深度約16m、約9万m³)
工期 2016年6月~2023年1月(予定)
施工 大林組、淺沼組

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