2022. 12. 09

つくるを拓く人 # 3 坂田尚子 赤松伯英

木造建築

木でつくる、の先へ

東京スカイツリー®の建設など、数々の大型建築を手がけてきた大林組。大林組はなぜ今、木造建築に注目しているのか。大型木造建築に挑戦する坂田、森林循環利用・林業高度化の検討を進める赤松が語る。

坂田尚子
大林組設計本部設計品質管理部 担当部長、木造・木質化建築プロジェクト・チームほか。建築設計(意匠)で実施設計を多数担当。現在は設計の品質向上の業務を行うとともに、木造・木質化の推進に従事。2017年、森林と共に生きる街 「LOOP50」建設構想を企画。 2019年の木造プロジェクトチーム発足以来、コンセプト作成や耐久技術の開発などを手がけるワーキンググループにメンバーとして参画。(写真左)

赤松伯英
大林組技術本部環境・エネルギーソリューション部 担当部長、木造・木質化建築プロジェクト・チームほか。大阪で都市開発に携わった後、2016年からスマートシティの推進に従事。大林グループの技術を活用した循環型森林利用ビジネス参画に向け、中山間地域との関係構築を進め、ICT技術を利用した林業高度化や地域創生に取り組むとともに、地域における「LOOP50」のコンセプト実現にチャレンジ。(写真右)

大林組の木造建築

大林組は木造建築と向き合う際、ただ「木でつくる」だけのものとは考えていません。「木を植える・育てる」「木を加工する・流通させる」「木でつくる」「木を活かす」。この循環が持続的に行われることが、これからの木造建築には非常に重要だと考えています。それは山も街も守ることのできる持続可能な未来のため。その理想型として「LOOP50」建設構想をはじめ、木造建築に関わる具体的な技術や提案を大林組は積極的に行っています。

坂田尚子氏

木を植える・育てる

「木を植える」という面では、人工光型の苗木栽培を行っています。大林組には植物工場運営の実績があります。その経験を、苗木の育成にも活かせないかと考えたのが出発点です。人工光で照らす棚をつくり、そこで育てた苗木を山に植えていくことで効率的に強い木が育てられると考えました。
現在は実際に、鳥取県日南町をフィールドにカラマツの苗木を育て、伐採後の再造林に活用できないか模索しています。

赤松伯英氏

「木を育てる」で進めているのは、スマート林業です。そもそも林業は手間がかかる産業。安全面での問題もありますし、効率化が必要です。そういう面では建設業と似ている部分もある。建設で培ってきた遠隔化や自動化、安全性などでの先端技術を林業に活かせないかと考えました。
協定を結んでいる埼玉県飯能市では、地域の皆さんと共に、実際にさまざまな技術や機械を導入しています。レーザ計測により森林資源データを取得し、効率的な伐採や販売に活用します。

木を加工する・流通させる

「木を加工する」場面では、大林組だけで何かを行っているというよりは、携わる人たちのネットワークの核となってそのつながりを強化しています。もちろん、加工は完全にお任せというのではなく、品質管理まで入り込み、部材メーカーの皆さんと協力しながら、クオリティを担保しています。

そして、そのネットワークを使って「木を流通させる」。
一般的な商品は、需要に応じて商品をつくりますが、木材は違いました。木は成長に時間がかかるため、その間の需要の変化によって当初の予想とは関係なく伐(き)られることも、伐られないこともありました。在庫の管理も難しい面がありますし、そもそも流通にかかわる段階が多いために、それぞれの木がどこで何に使われているか、生産者が知ることができないこともある。林業の世界を知って、最初は驚きました。

だから大林組は、森林の循環利用や林業を、改めてビジネス化することも視野に入れています。山のレーザー計測をして在庫の管理を行う。川上の育てる人と川中の加工する人、川下の使う人の認識をすり合わせ、適材適所に木材を流通させる。建設は、実は人と人をつなぐ力も必要なんです。あらゆる人の力がないと、大きいものや新しいものはつくれませんから。それが加工・流通の場面で大きく活かされていると思います。

木でつくる

積極的に「木でつくる」。成長した木を使うことにより、再び植林して森を若返らせ、循環していくことにつながります。活力のある森林は多くの二酸化炭素を吸収し、また地盤を強固にすることで地域を災害から守ります。だから私たちは、どうしたら社会全体が、より、木を使うようになるか、考えながら挑戦を続けてきました。

大林組の社員は本当に多様で、伝統木造の分野で挑戦する人もいれば、耐火木造の分野で挑戦する人もいる。あるいは新しい木構造を開発する人もいれば、木の劣化を遅らせる塗料を開発する人もいる。私たちも、坂田は大型建築を出発点に、赤松は循環型森林利用・地域創生を出発点に木を見てきました。

その挑戦が集約されて、新たな木造建設のかたちが次々と生み出されています。その一つが、宮城県で大林組の仙台梅田寮。「CLTユニット工法」という新たな工法が適用されています。簡単に言うと、壁と天井を組み合わせた、部屋を輪切りにしたようないくつかのパーツを工場でつくり、現地でブロックを積むようにそれらを組み立てる方法です。短期間で品質の高い建築をつくることができ、安全性も高いのが特徴。大林組はこれ以外にも新たな木造建築の工法を提案していますが、いずれも社会として「木でつくる」動きをより大きくする効果があります。

木を活かす

大林組は、エネルギー利用というかたちで「木を活かす」方法を考えています。木材として一度使われた廃材や、森を育てるために発生した間伐材・伐採材まで捨てずに活用するのが目的です。

もともと大林組は再生可能エネルギー事業を専門とする部署やグループ会社があり、その技術を活かして木質燃料を燃焼させてエネルギーをつくる「木質バイオマス事業」に取り組んでいます。

さらにエネルギー以外でも、伐採材を活用することで斜面の緑化を行える「チップクリート緑化工法」や、木質バイオマスを添加することでCO2を固定できるコンクリート「リグニンクリート™」など、育てた木を無駄にしない方法を模索し実行しています。

木でつくるだけでなく再生可能エネルギーや緑化にまで及ぶ幅広い挑戦は、大林組のリーディングカンパニーとしての責任だと考えています。脱炭素が建設の分野で必要とされれば、大林組がやらなければという思いがある。社会の流れや要請にいつでも応えられるように、常日頃からあらゆる研究に手を伸ばしています。そして、日本初の高層純木造耐火建築物を建てるなど、最大限に難しい挑戦を決断するのも、大林組のDNAかもしれません。

大林組のWOOD VISION

ただ木という資源で大型木造建築をつくるだけではなく、使った分だけ木を植える。使った木はエネルギーとしても再利用するという、「循環」を目標に掲げています。

しかし、まだ大型木造建築は業界が成熟していません。木を植える人、木を伐り出す人、建築をつくる人。それぞれプレイヤーが限られているんです。植える・育てる、加工する・流通させる、つくる、活かす。どこかが欠けてしまっても、循環は実現しません。大林組が積極的に木造建築を進めていくことで、林業や製材・加工など木に関わるあらゆるプレイヤーに還元し、提携していく。そうして業界を育てていくことは、大林組の使命だと考えています。

森林大国である日本では、木と真摯に向き合うことが豊かな生活や脱炭素につながります。強制し我慢を強いるのではなく、普通の生活の中で森林や地球をよくできる、木と共にある暮らし。そんな世界を大林組らしいやり方でめざしたいですね。

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