プロジェクト最前線

生まれ変わる京都競馬場

京都競馬場整備工事(スタンド工区)

2023. 03. 06

リニューアルオープン間近のセンテニアル・パーク京都競馬場(撮影2023年2月)

京都市内中心部から京阪本線で大阪方面に向かうと、淀駅の手前に、ひときわ目を引く建設現場が見えてくる。大林組はここで、2023年4月にグランドオープンする京都競馬場の整備工事を進めている。


100年の伝統を未来につなげる

完成予想イメージ。京都競馬場は、2023年4月にセンテニアル・パーク京都競馬場としてリニューアルオープンする

京都競馬場は、1908(明治41)年に現在の京都市下京区島原で近代競馬が開催されたのを発端とする。京丹波町への移転を経て、1925(大正14)年に、現在の伏見区葭島渡場島町の地に開設された。2025年に開設100周年を迎えることから、記念事業プロジェクトの一環として、スタンド改築をはじめ厩舎(きゅうしゃ)、馬場を含めた施設全体の整備工事が進められている。

3分割された工区のうち、大林組はスタンド工区を担当している。新スタンドは、今回解体するスタンド(以下、グランドスワン)と同じ35mの高さだが、各階の天井が高くなり、ゆとりや開放感を感じられるつくりになる。また、馬券購入のキャッシュレス化によりバックヤードを縮小。利用者用のエリアが拡張されて利便性が向上した最新の競馬施設に生まれ変わる。

新スタンドの馬場側は、25mの片持ち架構となる層間トラス構造で力強い水平線で構成される。コース内全面にある池と相まって、雄大な景観を形成する。スタンド背面のパドック(出走馬の調子や状態をレース前に観客に見せる場所)側は、天然木と鉄骨のハイブリッド構造で、水平ブレースの大庇、優美な曲線でデザインされた階段状の緑化テラスが特徴的な建物となる。

京都競馬場(左:改修前)の施設は、完成後(右)新たな名称で呼ばれる

競馬場利用を最優先に

解体するスタンドの機能を移転

グランドスワンの解体が始まる2020年11月から約2年間、京都競馬場でのレースは休止となる。しかし、この間も毎週土日には、パークウインズ(競馬開催を行っていない競馬場での場外発売の愛称)が行われる。そのため、解体しないビッグスワンだけで馬券発売ができるように、各種機能移転やインフラ切り替えなどの改修工事を行う必要があった。

さらに、改修工事中もパークウインズが実施されるため、毎週金曜日に全国の競馬場と連携する馬券発売システムの動作確認が必要で、作業日が月曜日から木曜日に限定されるなど制約が多い工事になった。

週末、ビッグスワンを利用者に開放するため、グランドスワン解体工事は、現場への搬出入動線や作業エリアが制限される中進んだ

川に挟まれた地での水位調査

軟弱地盤と地下水との闘い

水圧対策として薬液注入の機械を並べ、地盤を改良。そのほかにも地盤安定化のため、遮水壁やシートパイル、アンカー工事を行った

京都競馬場は、宇治川と桂川に挟まれた場所にある。新スタンドの地下工事での水対策を確実にするために約6ヵ月かけて事前に、圧力を受けている地下水(被圧水)の水位調査を実施した。その結果、水位が当初受領していたデータより想定以上に高い時期があり、特に宇治川の水位の影響を受けて変動していることが判明。時期によっては、盤ぶくれ(地下水層下面に上向きの水圧が作用し、掘削底面が浮き上がる現象)の恐れがあった。

必要な対策として、地盤に固化剤の薬液を注入し、安定した地盤にする改良を行った。広大な敷地で、薬液注入のための機械を100台ほど稼働し施工を行った。工期短縮は最重要課題だが、大事故につながる盤ぶくれに対し、妥協せず、万全の対策を行い、工事を進めた。

ビッグスワン建屋内のエレベーター新設工事では掘削の際、ウェルポイントという吸水管を取り付けたパイプを地盤に打ち込み、水を吸い上げながら底盤コンクリートを打設した

資機材・工法を徹底的に見直す

東西方向に255mと長大なスタンドの内部では、観客席の工事が着々と進む

工期短縮の実現に向け、資機材、工法など当初計画からさまざまな変更を行っている。新スタンドの基礎工事では、競馬場の駐車場を利用して、杭鉄筋の加工・組み立て、基礎梁鉄筋の先組みユニット化を行った。同所で配筋検査も行い、完了後に施工場所に運び、設置していく。施工場所で行わなければならない作業と、他の場所でもできる作業に分けることで、後工程の作業進捗の影響を受けずに各自のペースで作業ができる。作業員の待ち時間を減らし、現場を止めないための工夫の一つだ。

また、スタンドの大屋根と大庇の仕上げ工事に使う足場を、移動式の部分足場から全面つり足場に変更した。これにより、多くの作業員が上下だけでなく、横方向でも同時に作業できるようになった。「マンパワーには限界があるため機械で補う」という現場方針のもと、クレーンの設置台数を、当初計画の8台から13台に増やし、設置期間を予定より長くすることで工期短縮を図った。

現場内では複数の工事が同時に進む。災害やロスの原因を減らすため、作業配置図を毎日書き直しながら、効率的な施工を追い求めた。

基礎梁配筋をユニット化し、駐車場で組み立てたものを施工場所に運び、クレーンで設置
現場各所にWeb カメラを50台設置し、広いエリアをリアルタイムで確認できるよう工夫
パドック側の大庇。システム化された高強度の部材を組み合わせ、床を先行して施工するフロア型システムつり足場を用いて施工

1,500人のワンチームで生産性を高める

2022年11月の取材当日は大林組93人、協力会社1,300人が働いていた。現場は最盛期を迎え、一番多い時は協力会社だけで1,500人を超えていた。工程厳守の工事で、多くの関係者とベクトルを合わせ、生産性を向上させる必要があるため、現場では『極短』をキーワードに掲げている。

打ち合わせ時間の短縮、素早い判断など、とにかく効率良く仕事することを徹底している。「ただの時短ではなく、『極短』であらゆる業務を見直し、一人ひとりが生産性を高める意識を持つ。真の働き方改革を実践し、品質の良い建物を提供します」と、厳しい工事を統括してきた所長 前田は語る。

(取材2022年11月)

工事概要

名称 京都競馬場整備工事(スタンド工区)
場所 京都市伏見区
発注 日本中央競馬会
設計 安井建築設計事務所、JRAファシリティーズ
概要 【増築・改築】ゴールサイド:S造・RC造、B1、7F、6万5,073m²、他8棟、総延6万7,785m²
【改修】ステーションサイド:S造・RC造・SRC造、B1、7F、5万2,491m²、他4棟、総延6万3,088m²
工期 2020年2月~2024年3月
施工 大林組

ページトップへ