プロジェクト最前線

神戸・地下鉄の上にものづくりの学び舎を築く

神戸村野工業高等学校新校舎新築工事

2023. 04. 11

神戸市を流れる新湊川と県道21号に面した新校舎。左と右奥の旧校舎は解体され、今後グラウンドと体育棟へと姿を変える(撮影:名執一雄)

1920年に創立し、兵庫県で唯一の私立の工業高校として歴史と伝統を誇る神戸村野工業高等学校は、2023年4月から「彩星工科高等学校」という名で新たなスタートを切った。大林組は、同校の創立100周年行事の一環として、複数の校内施設の建て替え工事を行っている。2023年2月に完成した校舎の新築工事では、全国でも珍しいSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)構造の基礎地中梁を採用した。新校舎の横では引き続き、体育棟やグラウンドの建設工事が進められている。


生徒と車両の動線を分ける

今回の工事は、グラウンドとして利用されていた場所に、まず新校舎を建設して旧校舎から新校舎に機能を移転。次に、旧校舎を解体してグラウンド、体育棟の整備を行う45ヵ月にわたる長期プロジェクトだ。すべての工事が学校の敷地内で進むため、生徒の安全確保を最優先に取り組んでいる。

車両の動線計画を立案する際には、神戸市営地下鉄(以下、地下鉄)の長田駅、神戸高速鉄道の高速長田駅と近く、生徒以外の人通りも多い東側の正門ではなく、南側に接する県道21号から進入する臨時搬入口の設置を検討した。

県道と敷地の間には歩道があり、そこに設置された市営駐輪場の一部を撤去しなければならなかったが、学校の協力を得て、校内の敷地一部に代替駐輪場を設置。県道側から敷地への臨時搬入口を確保した。

地下約12mに地下鉄が通る

徹底した調査と検討

この工事は、施工箇所が順次変わっていくローリング施工であり、施工箇所変更後の動線計画も着工前に検討する必要があった。動線計画は、資機材の効率的な搬出入にも大きく影響するため、工事全体の進行に関わる重要なポイントになった。

新校舎を建設する場所の地下約12mには地下鉄が通る。その地下鉄の函体(かんたい:ボックスカルバート)の上に新校舎を建設するため、地下鉄を運営する神戸市とは、着工前に多くの協議を重ねた。その結果、掘削による函体浮き上がりなどの可能性を考慮して、着手前、掘削完了、地下躯体完了、上棟、竣工の計5回の函体内のレベル計測と、函体から新校舎の基礎杭まで離隔2mを確保することが合意事項になった。

地下鉄は1984(昭和59)年に完成しているが、今回の基本設計時に示されたのが当時の図面だったため、所長の岸本は「地下鉄函体に影響を与えるわけにはいきません。図面と現況にずれがあることも想定に入れ、市から地下鉄の施工記録を取り寄せて、施工のヒントがないか探しました」と話す。

施工記録から、地下鉄函体は親杭横矢板(おやぐいよこやいた)工法(一定の間隔でH形鋼の杭を打ち、その間に板を押し込んでつくる山留め壁)による開削工事だったこと、親杭が函体から80cmの位置にあることが判明した。そこで、親杭位置を特定して函体位置を推定するための試掘を実施した。その結果、ほぼ当時の図面通りの位置で親杭が確認され、安全に工事を進める準備作業として、今回の施工図に親杭の座標位置を反映した。

現場内では、函体位置が分かるように、木杭で明示して大型重機の据え付け禁止や車両通行を限定するなど、函体への負荷を極力抑えて工事を進めることにした。現在までに4回のレベル計測を完了したが、函体に工事の影響は見られない。

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旧校舎の配置図
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新校舎(校舎棟、体育棟)の配置図
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地下鉄の函体位置特定のための試掘で、敷地下約4mに親杭を確認した

地下鉄函体を守るSRC構造の地中梁

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SRC構造の基礎地中梁の施工断面図

新校舎の基礎には、地下鉄函体への影響を考慮して、全国でも珍しいSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)構造の基礎地中梁を採用している。函体上部は、基礎杭が打てないため、杭間が11mを超える。その間をRC(鉄筋コンクリート)の梁でつなぐと、たわみが発生してしまう。このたわみを避けるために、函体上部に鉄骨の梁を入れて強度を保持する設計だ。

高さ3m、幅30cm、長さ8mの鉄骨をトレーラーに立てたまま載せて運搬し、地中梁の組み立て順に搬入することにした。受け入れる現場では、全作業員に鉄骨の取り扱いを周知徹底。搬入後の取り付け作業の円滑化のため、鉄骨のはね出し箇所に、事前にレベル調整治具を設置しておくなど手戻りのないよう準備を十分に行った。

施工効率をさらに上げるため、高さが3.5mある地中梁配筋のスターラップ(梁に配置する、せん断力に抵抗する鉄筋)を、計画時の2分割から3分割に変更。3分割に細分化することで、長い鉄筋を避けながら鉄骨組み立てを行うより、現場内での作業効率が格段に上がった。

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SRC構造の基礎地中梁の施工手順。①まず底面にコンクリートを打設し、地中梁配筋のスターラップを設置。その後クレーンで鉄骨を吊って梁をはめ込む
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②次に、梁をH鋼でつなぎ、底面以外の上部のスターラップ配筋、型枠工事、コンクリート打設を行うことで、基礎地中梁が完成する

現場が一体になり進めた工期短縮

新校舎の鉄骨納入が予定より1ヵ月ほど遅延し、工期の短縮が不可欠となった。また岸本は、学校の新校舎への引越しが1ヵ月という短期間であることが気にかかっていたため、新校舎の引き渡しを1ヵ月早めることを含む約2ヵ月の工期短縮を目標として、工程の見直しにとりかかった。

まず、新校舎をワンフロア最大5工区、全体で16工区に分けた。次に、細分化した各工区で鉄骨組み立てを最優先にしながら、組み立てが終了した部分ですぐ躯体工事が開始できるよう綿密な工程調整を行った。つまり、危険を伴う上下作業を回避しながら鉄骨組み立てと躯体工事の同時施工を可能にすることで、時間的ロスを削減したのだ。

さらに、追い風になったのが協力会社同士の連携だ。効率的に工事を進めるためにどうすべきか、とび工や鉄筋工、型枠工など担当工種の異なる協力会社同士で自発的な話し合いが行われた。岸本は「我われが気付かない改善提案もあり、提案を取り入れることで、最終的に2ヵ月の工期短縮ができました。自分のことだけを考えるのでなく、現場全体での最適を考えて動いてくれました」と現場の一体感に胸を張る。

有機系接着剤張り工法で施工した外壁タイルの校舎1階部分(上)では、LiDAR付き携帯端末を用いた下地補修記録を採用した(下)
建物全体を16工区に分けて進めた鉄骨建方工事。躯体工事だけでほぼ2ヵ月の工期短縮を可能にした

学校づくりの一端を担う

この現場で施工管理を担当する社員は若年者が多いため、とにかく現場に出て、協力会社の作業員の仕事を見て、その声を聞くことを重視している。他人の立場を理解し、相手がしてほしいことが分かるようになるためだ。岸本は「専門知識の有無にかかわらず、相手を思いやることができれば、自然と人を動かせる人間になれると思います」と言う。

岸本がもう一つ大事にしているのが、感謝の心を持って仕事をすること。「難しいと思われた2ヵ月もの工期短縮は、協力会社をはじめ関係者の力がなければ達成できませんでした。新校舎の引き渡し後も2年ほど工事は続きます。感謝の心を持って、互いに協力して成功に導いていきたいです」と今後の意気込みを語った。現場が一体となって難工事を進め、学校がめざす「夢を追求できる環境づくり」の一端を大林組が担っている。

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(取材2022年11月)

「夢を追求できる環境づくり」をめざしています

彩星工科高等学校 村野利樹 理事長

旧校舎や実習棟は、1931(昭和6)年に竣工したものです。1995(平成7)年に発生した阪神・淡路大震災の大規模な復旧工事を含め、増改築を重ねて利用してきました。建て替えの理由は施設の老朽化ですが、イメージアップにつながる、時代に合わせた学校にすることが最重要課題でした。そこで、新校舎の利用開始に合わせて2023年4月、校名を「彩星工科高等学校」に変更しました。「夜空を彩る満天の星」を意味する彩星には「生徒一人ひとりが、可能性を輝かせて未来に進むことができる、オンリーワンのスーパースターになってほしい」という願いが込められています。

4つの工業科と普通科の授業は、今まで科ごとに縦割りで、実習室も別でした。今後は、科の垣根を越えた学校内でのコラボレーションを活発化させたいと思っています。目玉となるのが、新校舎1階の中央に配置した「ものづくりラボ」です。科に属さない施設で誰でも利用できるので、生徒には友人との協働によるものづくりを通して、つくる楽しさや生み出す喜びを感じてもらいたいです。

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    個別ブースに分かれた溶接実習室

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    大スパン空間で車など大型機械の加工に対応できる1階の実習室

新校舎(校舎棟)1階の中央にある「ものづくりラボ」
図書室(撮影:名執一雄)
新校舎(校舎棟)外観(撮影:名執一雄)

工事概要

名称 神戸村野工業高等学校新校舎新築工事
場所 神戸市
発注 学校法人神戸村野学園 彩星工科高等学校(旧:神戸村野工業高等学校)
設計 東畑建築事務所
概要 校舎棟:SRC造一部S造、6階、延1万7,310m²ほか5棟、総延1万9,127m²
工期 2021年3月~2024年12月
施工 大林組

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