プロジェクト最前線

大阪・関西万博の舞台「夢洲」に地下鉄をつなぐ

北港テクノポート線インフラ部整備工事

2024. 03. 08

大阪湾の人工島夢洲(ゆめしま)で、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)が開催される。現在、この会場への主要交通ルートとなる地下鉄の延伸計画が進む。臨港鉄道・北港テクノポート線の工事を担当する大林組は、軟弱地盤や埋め立て地の地中障害物などの課題を解決しながら、駅やトンネルの構築に取り組んでいる。

道路トンネルに鉄道を通す

北港テクノポート線は、コスモスクエア駅を起点に、別の人工島である夢洲・舞洲を経由し、ゆくゆくは新桜島駅までを結ぶ新たな鉄道路線となる
シールド工事で上下線2本を構築し、開削工事で駅部と線路専用部を構築する

夢洲への鉄道延伸を含むアクセス工事は、2000年に咲洲(さきしま)~夢洲間でスタートし、2009年に両島をつなぐ海底トンネル「夢咲トンネル」が完成した。当時の鉄道延伸計画は大阪オリンピックも視野に入れていたが、招致が実現しなかったことなどから、事業は中止。トンネルは道路部分のみ利用されていた。

しかし、2017年に大阪府、大阪市と経済界が策定した「夢洲まちづくり構想」、2018年の大阪・関西万博誘致決定やIR(統合型リゾート)計画に向け、鉄道整備のための計画再開が決定した。今回の工事で延伸する北港テクノポート線は、大阪・関西万博の計画来場者数の約55%(1日当たり12.6万人)を輸送する主要交通ルートになる。

工事の特徴は、駅部の開削工事と駅部から夢咲トンネルへのシールドトンネル工事、鉄道軌道工事を同時進行し、さらには超短工期(3年9ヵ月)であることだ。埋め立て地特有の難条件下で、通常は倍程度の工期が必要な工事であるため、発注にはECI(Early Contractor Involvement)方式が採用された。

ECI方式では、設計段階から施工者が技術協力して仕様が決定されるため、早期着手を可能にし、手戻りのリスクを低減する。2020年4月、大阪・関西万博の開催に合わせた鉄道延伸計画が再び動き出した。

埋め立て地「夢洲」での工事

軟弱な地盤の改良

工事区域の地盤は建設工事に伴う掘削残土、大阪港や河川の浚渫(しゅんせつ)土砂が主な埋め立て材である。また、埋め立て後20年以上が経過して圧密沈下が進み、地盤内の排水はほぼ完了している。しかし、人工地盤であることには変わりなく、自然に堆積した地盤に比べると非常に軟弱だ。このため、埋め立て地特有の軟弱地盤への対策を行った。

まず、駅部の開削工事で懸念されたのがヒービング(土留め壁の背面の土が内側に回り込み、掘削底面の隆起、周辺地盤の沈下が生じる現象)の発生だ。土留め壁の変形を抑えるため、埋め立て地盤の下にある沖積粘性土の旧海底面以深まで確実に土留め壁を到達させることとした。

さらに、土留め壁で囲んだ掘削底面をより強固にするため、セメントミルクと掘削土を混合・攪はんさせて地盤改良を実施した。開削部底面の全面を地盤改良することで、軟弱地盤でも安全に施工できる準備が整った。

開削工事の横断図。根入れを伸ばして、土留め壁の外側から内側に土が矢印方向に回り込むことを抑える
土留め地中連続壁を構築した後、底盤全面を地盤改良した

地中障害物の撤去

土留め壁を構築しながらかき出す(開削工事)

機械高が低いTRD機。地中に建て込んだチェーンソー型のカッターポストを横方向に移動させながら溝を掘削し、地中連続壁の構築を行う

開削工事では、土が崩れないように壁をつくる土留めにおいて、掘削しながら壁をつくるTRD(Trench cutting Re-mixing Deep wall)工法を採用した。TRDには等厚な連続壁で止水性が高いという利点がある。

埋め立て地には水を抜くためのPBD(Plastic Board Drain:地盤深くまで鉛直に設置するプラスチック製の排水材)が多数埋まっている。今回、地中に残るこのPBDへの対応を第一に考えた。地盤内には、PBDが1.3~1.8m間隔で残置されている。このため、施工の障害物となるPBDの撤去が開削工事、シールド工事共に大きな課題となった。

TRD工法で構築した地中連続壁の形状

土留め工事では、まず地中に建て込んだTRD機のチェーンソー型のカッターポストを横方向に移動させ、溝の掘削、固化液の注入を行い、土と混合・攪はん、地中連続壁を構築する。さらに今回は、TRD機のカッターポストにPBDをかき上げるための特殊な爪状の部品を搭載し、地中連続壁構築と同時にPBDをかき上げて排出することにした。この部品を埋め立て地で大規模に適用した事例は少なかったが、想定通りPBDを取り除くことができた。

  • 埋立地一帯に残置されたPBD(施工直後)

  • 地中に深く差し込むカッターポストに爪を搭載。残置されたPBDをかき上げ、排出しながら土を掘削する

  • かき上げられ、排出されたPBD

TRD工法で構築した土留め壁。駅部開削工事部分

シールドマシンの工夫で障害物を直接切削(シールドトンネル工事)

工事の安全性確保から、掘削外径6.95mのシールドマシンを上下線で2台稼働。工事期間の短縮やトラブル時にも対応できるよう考慮し、順調に掘削が進んだ

シールド工事では、シールドマシンの工夫でPBD、鋼管矢板、岩塊の3つの障害物を撤去した。シールドマシンは上下線で2台稼働とし、想定外の事象に備える計画としたが、一つ目の障害物、PBDに起因する停止がないよう仕様検討にも多くの時間をかけた。過去にもPBDを切断する専用カッターを装備したシールドマシンはあったが、掘削と同時に高速回転させるため、刃の摩耗が激しく頻繁な刃の交換が必要になり、不具合の防止が課題となった。

検討の結果、シールドマシン前面に、PBDを切断する時だけ出てくる「押し出し式のPBD切断専用カッター」を付けることにした。現場に適用すると、想定通り掘削停止中(セグメント組み立て中)にPBDを切断でき、刃の交換も発生しなかった。こうして高速施工が実現した。

2つ目の障害物は、シールドマシンが既存の夢咲トンネルに到達する直前の位置にある鋼管矢板だ。掘進方向全面を横断する形で残置された鋼管矢板は同トンネル施工時のもので、安全面からシールドマシンで直接切削することを検討した。掘削断面の一部に鋼材がかかり、それをシールドマシンで切削した事例は多いが、掘削断面全面の鋼材を切削するのはほとんど例のない試みだった。

鋼材切削用の特殊カッタービットをカッターヘッドの全面に配置し、シールド機中心部から徐々に外周側へ切削して鋼材切削を行う。また、切り込み量(カッター1回転当たりの前進距離)を少なくできるよう、カッターヘッドを高速で回転できるようにした。これらの工夫により、シールドマシン工事最後の難関となった鋼管矢板の切削は、下り線2昼夜、上り線3昼夜かけてトラブルなく成功した。

3つ目の障害物は地盤に埋まる岩塊だ。埋め立て当時、土砂の受け入れサイズは直径30cm以下とする基準があったが、それを超えるサイズの岩塊も想定することにした。シールドマシンが掘削した土砂を後方へ送り出すスクリューコンベア内に岩塊が詰まると、取り除くための時間がかかる。そこで、コンベアに軸のないリボン式を採用し、直径60cmまでの岩塊を回収できるようにした。実際に直径30cmに近いサイズの岩塊を問題なく排出することができた。

シールドマシンのカッターヘッド。掘削停止中(セグメント組み立て時間)にPBDを切断する伸縮式のカッター(左)と夢咲トンネル近くに残置された直径1.4mの鋼管矢板を切削するために装備した特殊カッタービット(右)
障害物として懸念されたのは①発進部:土留め壁(シールドマシンで切削可能)②内護岸の鋼矢板)③到達部:夢咲トンネル施工時の鋼管矢板
シールドマシンで切削して排出された鋼管矢板の切削片
シールドマシンの縦断図。軸がないリボン式スクリューコンベアは止水性は劣るが、粘性土が主体で地下水が少ない本工事区域には適用できた

大阪・関西万博での供用をめざして

2023年5月末に2台のシールドマシンが最終地点に到達した。現場の徹底した計画、準備の成果が実を結びつつある。所長の河田は「大阪・関西万博までの完成、供用に向けて関係者全員が一丸となって取り組んでいます。国家プロジェクトに携わっている誇りを胸に、最後まで気を引き締めていきます」と熱い思いを語った。

高速施工が可能な内面平滑型セグメント「ワンパスセグメント」を採用。位置決めとボルト締結の2工程を同時に行い、継手金物がセグメントに内蔵された平滑なトンネルを構築した

(取材2023年7月)

工事概要

名称 北港テクノポート線インフラ部整備工事
場所 大阪市
発注 大阪市高速電気軌道(事業主:大阪港湾局)
設計 大阪メトロサービス
概要 準備工一式、鋼杭鋼支柱工:188本、ソイルセメント壁工:2万4,000m²、
桟橋工:1,000m²、掘削工:13万7,000m³、地盤改良工:780本、土留支保工:3,000t、
躯体コンクリート工:3万9,000m³、埋戻工:1.7万m³、シールド工(施工延長:1,500m、外径6.8m、単線並列、 泥土圧式2機)、復旧工一式
工期 2020年7月~2024年3月
施工 大林組、熊谷組、東急建設、東洋建設

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