青森市の郊外、三方を山に囲まれた田園地帯にある新青森県総合運動公園(新運動公園)内で、大林組は、2026年に行われる第80回国民スポーツ大会(※1)(国スポ)の会場となる新水泳場の建設を進めている。国内でも有数の豪雪地域で知られる厳しい環境の中、大林組はPFI方式(※2)での運営も見据え「県民に満足してもらえる施設」の完成をめざす。
青森県初の公認、屋内50mプール
建設中の新水泳場は、観客席1,015席(車椅子席10席を含む)を備える青森県初の日本水泳連盟(日水連)公認の屋内50mプールとなる。既存の総合体育館の3施設(メインアリーナ、サブアリーナ、25mプール)に併設され、25mプールと渡り廊下(コリドー)で接続される。新運動公園内には、大林組が施工した陸上競技場(2019年竣工)もあり、公園全体が国スポの会場として整備されている。
今回の新水泳場建設は、青森県が初めて採用したPFI方式による整備運営事業で行われる。国スポの開催会場としてはもちろん、一般利用も可能な施設になり、大林組を代表企業とするコンソーシアムが2039年3月まで管理運営する。
- ※1 国民スポーツ大会
日本スポーツ協会、文部科学省、開催都道府県の3者が主催者する「国民体育大会(国体)」が、2024年から名称変更される - ※2 PFI方式
Private Finance Initiativeの略。公共施設などの設計、建設、運営、維持管理に民間の資金や技術、ノウハウを活用し、より効率的で質の高い公共サービスを実現する手法。コンソーシアムを組成し、施設整備から管理運営まで一貫して行う
厳冬期に大屋根のもとで基礎工事に着手
24時間養生しながらコンクリートを打設
当初、国スポは2025 年に開催予定で、準備期間を考慮して2023年11月末の完成が必達だった。新型コロナウイルスの感染症拡大により国スポ開催は1年延期されたが、工期の延長はない。
2021年12月からの厳冬期に掘削を含む基礎工事を進める必要があった。通常、青森県では冬に大規模な基礎工事を行わない。それでも、全体工程を考えると冬期の基礎工事は避けられず、工事ができる環境づくりに取りかかかった。
降雪による作業への影響は大きく、北海道の現場でよく利用される仮設の全天候型上屋を採用した。屋根の形状は、フラットパネルとジョイントパネルを組み合わせた切妻型で、長さは30mにもなるが、中間支柱なしで養生ができる。施工場所全体の半分以上の面積に屋根を架け、側面外周を全てシートで覆い、外部の影響を受けにくい大空間の工場のような場所を形成して、2021年12月に基礎工事に着手した。内部にはジェットヒーターを設置し、採暖しながら鉄筋工事や型枠工事、コンクリート打設を行った。
特に注意したのは、低温下でのコンクリート打設だ。所定の強度に達するまで24時間採暖養生し、コンクリートの内部温度と室温を管理し続けた。「東北の中でも県北部の山側に位置する現場の降雪量はけた違いに多く、気温も氷点下10度以下になる。低温による品質低下が心配でした」と所長の谷井は語る。
豪雪は現場のその他の作業にも影響した。工事車両の進入路確保や、現場内の作業スペース確保のため、夜間の降雪量に応じて、12月から3月まで、早い時は午前3時から除雪作業を開始し、除雪作業は冬期の間、継続して行った。副所長の片岡は「以前同じ公園内で陸上競技場の工事に従事した社員が、この場所の冬期の状況などを共有してくれ、それを基に工程遵守のための施工方法、労働災害防止対策も考え抜きました」と振り返る。
大空間を支える骨組みの組み立て
新水泳場は耐震性能が高く、豪雪地域という特徴に配慮して積雪荷重を十分に確保した構造になっている。大空間をつくり出すため、屋根架構は鉄骨トラス構造で、丸みを帯びたフィーレンディールトラス(はしごを横倒しにしたような形状)を採用した。架構から斜材を省略した形態の四角形を単位とした構造骨組みで、橋桁などの構造部材として多用される。このトラスは大林組が設計施工した、名古屋市のオアシス21の構造に採用されている。プール内部の天井はトラス11本がむき出しになり、構造体としてだけでなく、デザイン性も兼ね備えている。
厳冬期の基礎工事を予定通り終え、2022年7月からのフィーレンディールトラス設置を含む鉄骨建方に着手、その後に続く屋根工事を、2回目の冬を迎える前に完了するよう計画した。これで、本設の屋根の下で、降雪の影響を受けることなく内装工事が進められる。
内装工事の進捗もプール着工に大きく影響するため、引き続き工程厳守が求められた。鉄骨組み立てステップの計画には、BIMを活用して最適な計画を策定。長さ約40mのトラス梁を受ける両側の鉄骨の建て入れ直しには、トータルステーションを活用して3次元測量による精度管理を行った。
ICTも活用したが、鉄骨建方には画期的な最新技術があるわけではなく、担当者が正確に、手を抜かず地道な努力を重ねた。こうして屋根工事は完了し、内装工事に進んだ。
日水連の公認を得る
当初の計画通り、2023年4月には、プール設置工事に着手した。新水泳場は、日水連の公認取得が必須で、3回の検査を受けて合格しなければならない。まず行われたプール設置工事前の「公認ベンチマーク検査」では、プール測量の基準点を確認した。完成までに、プール測量検査とスタート台などの設置検査が予定されている。なお、公認取得に当たっては、公認ルールの正確な理解や検査への確実な対応が求められる。
公認取得までの定められたスケジュールを厳守するため、プールの施工にも十分な事前準備を行った。今回、プール本体はステンレスパネルを使うが、プールを区切って使用するための可動壁はイタリア製、さらに利用形態に合わせて水深を変える可動床はオランダ製だった。そのため、施工図作製から施工計画策定に至る事前の調整では、海外メーカーとの意思疎通が課題となった。
そこで必要に応じて、通訳を介したオンラインによる打ち合わせや、海外の現地工場まで直接出向き、製品の動作確認や出来栄えの検査を行った。 こうしてメーカー担当者に直接確認することを徹底し、不安点を一つひとつ排除しながら、工事を進めている。
PFI事業 国内最多の実績を活かして
1999年9月のPFI法施行を受け、大林組は国内のPFI事業に参入し、現時点で国内最多の実績(2023年6月末時点55件)を誇る。新潟県長岡市のダイエープロビスフェニックスプールや、東京アクアティクスセンターで培ったプールの設計、施工の知見やノウハウなど、大林組の強みが発揮できること、またそれらを次世代につなげていくために本件に取り組んでいる。
今回のPFIの事業範囲には、新水泳場の建設の他に、新水泳場を含む新運動公園全体の運営、維持管理が含まれる。さらに、直線距離で10km以上離れた青森県総合運動公園の運営、維持管理も行うスキームだ。大林組の豊富なPFI実績や、厳しい条件下での陸上競技場の施工実績などへの信頼、両運動公園の指定管理者で公園の特性を熟知する鹿内組とコンソーシアムを組成できたことが評価された。
新水泳場の設計、施工はもちろん、2ヵ所の運動公園の運営、維持管理まで、大林組にはプロジェクトの代表企業として事業全体のマネジメントが求められる。これまでの経験やマネジメント力を発揮して、より良い施設をつくることをめざしている。
県民に満足してもらえる新水泳場
この現場では、毎週火曜日の朝礼後に所員全員参加で、現場パトロールを実施している。2時間程度かけて、特に安全品質をはじめとする施工管理全般に関し、是正すべき点はないか全所員で現場を巡る。担当者が見落としていることの指摘や、次工程の作業前に注意すること、発生しやすい災害などを共有し、問題点は全員で議論する。施工管理には目で確認することとコミュニケーションが不可欠だ。
大林組がQMS認証(ISO9001)を取得して25年が経過した。QMS(品質マネジメントシステム)遵守の徹底が品質向上、不具合防止の全てだと考える所長の谷井は、日々決められたことをきちんとやり抜くことの重要性を指導している。「現場一丸となった丁寧なものづくりには、全員が同じ思いを持つことが大切。県民の皆さんに満足してもらえることを第一に考え、完成をめざしています」と工事へ思いを語った。
(取材2023年5月)
工事概要
名称 | 新青森県総合運動公園 新水泳場等整備運営事業 |
---|---|
場所 | 青森市 |
発注 | 青森県(事業者:PFI青い森スポーツパーク) |
設計 | 梓設計、大林組、熊澤建築設計事務所 |
概要 | S造・RC造一部SRC造、2F、延8,171m²、屋内50mプール(国内一般プール・AA公認) |
工期 | 2021年9月~2023年11月 |
施工 | 大林組、鹿内組 |