
関西国際空港は1994年、大阪湾の沖5kmの人工島(埋め立て地)に、西日本最大の国際的な玄関口として誕生した。大林組は、空港島(※1)の建設以来、ターミナルビル、格納庫といったさまざまな施設の建設に携わってきた。完成から30年以上が経過し、関西国際空港第1ターミナルビルでは、開港以来初となる大規模改修工事が進む。
※1 空港建設のために埋め立てられた人工島
国際線需要の高まりに対応


関西国際空港が開港した当初、国際線利用客は年間1,200万人、国内線は1,300万人と想定していた。2024年度の国際線における外国人旅客数は1,983万人で、コロナ禍前の2018年を上回り、過去最多を更新。高まり続けるインバウンド需要を支える玄関口の役割を果たしている。
こうした国際線利用客の増加を受け、第1ターミナルビルのリノベーションは「国際線キャパシティー拡大」「エアサイドエリア(※2)の充実」「旅客体験の向上」を基本コンセプトとして計画された。既存のターミナルビルを最大限活用し、空港全体で年間約4,000万人の国際線キャパシティー創出を目指す。
2021年からスタートした改修工事は、大きく4つのフェーズに分けられる。3つ目のフェーズ、出入国エリアの施設はほぼ完成し、2025年3月にはグランドオープンを迎えた。現在、工事は最終フェーズに入り、国際線商業エリア拡充に向けた整備が、2026年夏の完成に向けて進んでいる。
※2 保安検査場を通過し搭乗券を持つ旅客のみが入れるエリア(航空機発着場を含む)
2026年完成に向けた関西国際空港リノベーションの4つのフェーズ
フェーズ | 主な工事 | 施設/オープン |
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Phase1 国際線、国内線の配置の見直し |
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Phase2 国際線出発エリアの中央集約 |
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Phase 3 国際線保安検査の集約・拡張、 入国エリアの移設 |
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Phase4 新国際線商業エリア拡張 |
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着工時、新型コロナウイルス感染症の流行により社会情勢が一変。工程の見直しが余儀なくされるなど多難な船出となったが、各フェーズの工事は相互に関係しているため、どこかに遅延が生じれば後に大きな負担となる。どうしても先行しなければならない工事をPhase0として着手するなど、逆境の中でも現場は前進した。
空港利用客が行き交う現場
資機材の搬入に搭乗用の固定橋を活用
新築のように大型の機械を使って一気に工事を進めることができないのがリニューアルの特徴。安全の確保はもちろんだが、空港の運営に支障を来さない、つまり航空機の運航を絶対に止めてはいけないという点が最大のポイントだ。工事によって航空機に遅延を発生させてしまえば、海外の空港にも影響を及ぼし国際的なトラブルに発展しかねない。現場では、皆がその覚悟と責任感を持って工事に当たっている。
Phase1では、国内線旅客手荷物搬送システム(BHS)を稼働するBHS新築棟、国内線増築棟を担当し、Phase2では搬出入計画を担当した主任の吉岡は、難度の高い特殊な現場であることを着任時から感じていた。
「航空機を駐機するエプロンや誘導路のすぐそば、旅客荷物の搬送車が走る中で行ったので、いかに空港の運用影響を最小限にとどめつつ通行止めなどを実施するか、細心の注意を払いました」と説明する。
そして、工事を進める上で障壁になったのが、資機材の搬入だ。利用客が行き交う日中は制限され、深夜から明け方の時間帯に出し入れする必要がある。さらに、工事エリアは各所に散らばっていて、搬出入ルートの確保が問題になった。
もともとある空港動線での搬出入となると、数百メートルの横運びが発生し、時間、費用を要してしまう。そのため、通常は利用客が航空機に搭乗する際に利用する固定橋を活用した。
「発注者と合意が形成できるまで工事は開始できないので、事前調整を早期に開始して回数を重ね、懸念点を一つずつなくしていきました。工事が全て完了するまで安心はできませんが、すでに世界中から訪れた皆さんが空港を利用してくれています」とフェーズごとに引き渡し、利用者の姿を見ることができる利点を吉岡は話す。




国際空港ならではの保安体制
前例のない工事エリアの切り替えで実現したクリーンエリア


国際線の利用者が保安検査を通過した後に入るエリアは「クリーンエリア」と呼ばれ、最上級のセキュリティーレベルが設定されている。工事の大部分がこのクリーンエリアであり、作業員が行き来する際に手荷物チェックが求められるなど、国際空港ならではの厳重な保安維持体制が、工事のハードルを引き上げた。
「そこでクリーンエリア内でも仮囲いでセキュリティーレベルを維持しつつ、工事エリアを確保できるルールをつくれないかと、半年以上をかけて空港側と協議を重ねました」と前例のないルール作りを担った工事課長 石田は語る。
まずは図⾯を片手に、延32万m²を超える現場中を隅々まで歩いて、建物の理解に努めた。「簡単に覚えられるわけではなく、途中で迷ってしまって警備員の方に案内してもらったこともあります」と石田は笑顔を見せる。
仮囲いの高さや隙間のふさぎ方、入り口を設ける場所など一つひとつ懸念点を地道に洗い出し、確認と改善を繰り返したことで、工事エリア切り替えのルールは現在では当たり前になっている。ルールができたとはいえ、工事エリアはフロア全体に及ぶこともあれば、ほんの一区画であったり、搬入経路やエレベーターなどの既存設備の活用を踏まえて細かく区分けしたりと、場所の変遷が生じる。常に先を見据えて、どのタイミングで、どんなエリア切り替えを行うのか、検討する日が続く。

直近のPhase3工事では、発注者と1年かけて計画を立てたが、詳細な動線や搬入ルートの検討を続ける中で、石田にはより良いプランが浮かんできた。所長をはじめ協力会社の同意を得て、工事の2カ⽉前に発注者に再提案して変更した。「改修は特殊な条件下で、ルールにのっとって工事をするため、現場監督の指示や判断が工事の進捗に与えるインパクトは大きく、責任の重さとやりがいを感じています」と石田は話す。「現場主体で動き、完結させていくことが求められる工事」と石田が言うように、現場発のアイデアが、困難なミッション達成の後押しとなった。
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2023年12月以前の国際線保安検査場
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スムーズな保安検査を目指した増床と、インバウンドのお客様が必ず通る入国審査場の整備(2025年2月6日)
緊張感の中で責務を全うする設備工事
設備工事を担う工事係長 類家は「設備職が十数人規模で配属される現場はまれだと思います。それだけ設備職の果たすべき責任が重い、難しい工事だと痛感しています。電気の線を1本誤って切断してしまったら空港内の機能が停止するかもしれない、そんな作業が着工から今まで連続で、緊張感が途切れることはありません」と説明する。
例えば、1階から3階を貫くロングスパンのエスカレーターの設置も通常ならクレーンを使用するが、ここでは部材を分割して人が運ぶ必要がある。さらに、設置には天井に穴を開け、そこに吊り下げるための金具の溶接も必要だ。天井には配管や電気の線などが無数に走っているため、「数週間前から調整の上、施設を停電し配線や盤を切り替え、液体窒素で配管を凍らせて切り替えるなど、施工スペースを確保し続けることが必要でした」と、類家は説明する。
日々困難を乗り越え続ける社員の頑張りが、空港に新たな輝きを加える。ものづくりの楽しさを感じながら、成長を続ける社員がそこにはいた。




発注者の声「関西エアポート」

今回のリノベーション工事で大林組は、技術的な視点、利用者の目線、その両方から課題解決に向けて幾度となくチャレンジしてくれています。一緒に議論を尽くしてものづくりに取り組んだからこそ、乗り越えられた壁もあったと感じています。
国際線需要の高まりに対応するためのリノベーション工事ですが、大阪・関西万博に訪れる方々が最初に降り立つ場所。周囲には大阪湾、見上げればイタリアの建築家、レンゾ・ピアノ氏が手掛けた印象的な大屋根。関西国際空港は、いわば万博の「ファーストパビリオン」であり、帰る際に再び立ち寄る「ラストパビリオン」でもあるとの思いも込めた、リニューアルプロジェクトです。

(取材2025年3月)
工事概要
名称 | 関西国際空港第1ターミナルビルリノベーション工事 |
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場所 | ⼤阪府泉佐野市、泉南郡田尻町 |
発注 | 関西エアポート |
設計 | ⽇建設計、大林組 |
概要 | S造・SRC造、B1、4F、最高高さ:GL+36.54m、軒⾼:GL+36.54m、 延61万3,436m²(ターミナル1:延32万2,171m²) |
工期 | 2021年6⽉1⽇〜2026年10⽉31⽇ |
施工 | 大林組 |