“ものづくり”の原点に戻る未来のオフィス

#4 大林組大阪本店オフィス

大林組は、2023年に大阪本店を大阪・中之島から日本生命淀屋橋ビルへと移転しました。移転を計画した2019年に部門横断型のオフィス改革プロジェクトチームを立ち上げ、社内公募により24人の社員が集結しました。オフィスの在り方や働き方についての話し合いは約10ヵ月にわたり、その終盤には緊急事態宣言が発令されて未曽有のコロナ禍に突入。不要不急の外出自粛やテレワーク推進が叫ばれる中、いやが応でも「オフィスに集う理由」について考えを深めるきっかけとなりました。

話し合いを経て、プロジェクトチームが導き出した移転コンセプトは「FAN&FUN」。社員が「おもろく」働く姿で、大林組の「FAN」を獲得する。「おもろい」は関西弁で面白い、楽しいを意味しますがそれだけでなく「魅力を感じること」「独創的であること」も意味する言葉。そのサイクルで大林組の魅力を高めたいという思いを込めています。

また、仕事の専門化・分業化が進み、設計者が自ら「もの」をつくり上げる機会が少なくなっている背景を受け、このプロジェクトにおいては、設計者が自らの手で造作家具をつくったり、建設用3Dプリンターで受付カウンターを製作したりと、"ものづくり"の楽しさをより感じられるプロセスを試みました。

部門を越えたコミュニケーションを促すため、全執務エリアをつなぐ大型の内階段を設置し、"FUN" の「U」を取って「U-core(ユーコア)」と名付けました。

社内のみならず、社外関係者も交えた打ち合わせに活用できるスペースを全階の執務エリアに設置し、"FAN" の「A」 を取って「A-lounge(エーラウンジ)」と名付けました。

3階に設けた食堂・カフェ兼打ち合わせスペースでは、社外関係者と社員が一緒に打ち合せや食事をすることが可能です。4階の受付・応接フロアには、お客様や社外の関係者に大林組の歴史を紹介する大林歴史回廊を設置しています。

オフィス空間の内装には、建設現場で使用される仮設材や下地材を、「仕上げの主役」として使⽤しています。建設会社としてなじみのある材を活かすことで「現場らしさ」を感じられるデザインをめざしました。また、足場用の単管パイプや足場板などの仮設材を使⽤することで、建築コストを大幅に抑えるとともに、建設現場の記憶を継承したオフィス空間を実現しています。

「A-lounge」の仕上げに仮設材や下地材を活用することで、工事関係者をはじめとする社外関係者が訪れた際に愛着を持ってもらえる空間をめざした
内装仕上げに使用した仮設材と下地材。足場板は少し削れば新品同様になるだけでなく、表面をわずかに研磨することで、乾燥が進んでそりの少ない仕上木材としてアップサイクルできる
  • マツ合成足場板を用いて装飾した「A-lounge」の天井
  • 「A-lounge」内の棚は社員自らがDIYして棚板を追加
オフィスの造作家具は、足場などに用いる単管パイプや下地合板を活用。単管パイプはブラケットなど汎用付属部品が多いので、カスタマイズが容易
「U-core」周囲に配置された棚

造作家具は、社員自らが考え、自らの手を動かしてデザインを決定しました。大林組の社員の多くは工事現場勤務を経験しているため、現場で慣れ親しんだ材料を採用し、将来的に社員自らが改造可能な仕様とすることで、「"ものづくり"の楽しさ」を体感できるデザインとしています。

モックアップ製作の様子
大林組の設計部員がモックアップをつくりながら検討(動画再生時間:21秒)
大林グループ社員がテーブルを製作する様子(動画再生時間:37秒)
全執務室を貫く内階段「U-core」は部門を越えた連携を強め、偶発的な出会いを促す。壁面には象徴的な杉の大木が原寸大でプリントされ、この階段のまわりに人々が集い、つながることを表現している
大林組と縁が深い高野山にある杉を撮影して使用
チームでの共同作業や個人の集中作業、ミーティングルームやオープンな交流スペースなど、「多様な働く場」のある執務室
社内外問わず、一日を通してさまざまな人々が集まることができる、3階の食堂・カフェ兼打合せスペース「O-cafe(オーカフェ)」。大林組のコーポレートカラー「ブライトグリーン」をテーマとし、緑あふれる空間となっている
昼食時には社員が一堂に会する、「O-cafe」内の喫食エリア。従来、建物が完成すると隠れてしまう下地材を仕上げの主役として利用し、クロスヴォールトの天井として構成することで、奥行のある空間の一体感を強めている
「O-cafe」断面図
大林組のコーポレートカラーである「モーニングブルー」をテーマとした4階の受付空間。CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)の壁を青色に染色塗装している

モルタル製の受付カウンターは、大林組技術研究所にて建設用3Dプリンターで製作したものです。設計図として作成した3Dデータがそのまま形になっています。

3Dプリンターを用いた受付カウンター製作の様子(動画再生時間:30秒)
明治時代に大阪で誕生した大林組の歴史を紹介する大林歴史回廊(4階)には、構造材としても利用できるCLTを積極的に利用し、展示用の自立壁をつくった