都市の中の自然、高層純木造建築

#5 Port Plus 大林組横浜研修所

2022年3月、神奈川県横浜市に誕生したPort Plus大林組横浜研修所は、宿泊機能を併設した自社の研修施設です。普段の業務から離れ、自宅でも職場でもない場所で新しい体験や学びを得られる「これからの知を育む場」をめざしました。

耐震、耐火、施工性などのさまざまな課題を解決し、地上部の柱、梁、床、耐震壁、屋根の主要構造部は全て木造で実現した、高さ44m、11階建ての日本初の高層純木造耐火建築物です。

建築物の木造化は、CO2を固定することでカーボンニュートラルに貢献するだけでなく、「使う・植える・育てる」という森林循環の観点からも注目を集め、これまでに延べ8,000人超が見学に訪れています(2024年4月時点)。

建物の外部から内部への熱負荷(外皮負荷)を最小化するダブルスキン・ファサードを採用し、街並みに木構造をみせる外観(撮影:株式会社エスエス 走出直道)

新しい純木造建築をめざして

吹き抜けのテラスから光・風・緑・木といった自然を取り込む心地よいワークスペース(撮影:株式会社エスエス 走出直道)

フロア中央に階段やエレベーターホールなどを配置し、北側に宿泊スペース、南側に奥行約10mの無柱の研修スペースを配した回遊性のあるプランニングとしました。

南側の研修スペースは吹き抜けやテラスを介して上下に立体的につなぐことで、都市の中の狭小敷地でありながらも自然を感じられる、ウェルネスな木造空間を創出しています。

回遊性のある基準階平面構成
吹き抜けやテラスを介して立体的につながる研修スペース断面構成

高層純木造建築を実現する構造技術

高層純木造建築の実現のため、自社開発のオメガウッドの技術を応用し、金属仕口を介さず柱・梁が一体となった「剛接合仕口ユニット」を新たに開発しました。あらかじめ工場で部材を組んでユニット化することで構造性能を確保するとともに、高い施工性を実現しています。宿泊室の一部屋のサイズと製作サイズ、工場で製作したユニットを現地へ運び込む運搬サイズを考慮し、2.8m×4mという剛接合仕口ユニットのサイズを導きました。

LVL(※1)などの木材をGIR(※2)やドリフトピンで接合した剛接合仕口ユニット
剛接合仕口ユニットによる構造モデル
  • ※1  LVL(Laminated Veneer Lumber)
    丸太をスライサーなどで薄い板にした後、乾燥させて、繊維方向を平行にそろえて積層し、圧着したもの
  • ※2  GIR(Glued In Rod)
    接合具と接着剤で木材を接合する工法

地下1階柱頭免震構造を採用し、大地震に対しても、木の構造体が損傷しない安全な設計としています。木造の耐火仕様は、構造支持部材である木部、燃え止まり層である石膏ボード、燃え代層である木表面材の三層構成とする個別大臣認定技術のオメガウッド(耐火)を採用し、外部に面する1階柱には国内で初めて3時間耐火仕様を適用しました。

オメガウッド(耐火)の構成
耐火被覆施工前の木造躯体
誰でも木造建築に触れられるよう、街に開放したピロティ。柱には国内初の3時間耐火仕様を適用(撮影:株式会社エスエス 走出直道)

木造・木質化による施工のメリット

Port Plusの施工では、工期短縮や現場の省力化・省人化、安全性の向上、近隣環境への負担軽減など、木造化によるさまざまなメリットを検証・実現しています。

柱梁の剛接合仕口ユニットをあらかじめ工場で製作することで、安定した構造性能の確保や現場施工性の向上を図りました。また、地上部のコンクリート打設や現場での木部材の加工がないため、現場で生じる粉じんや騒音の軽減にも寄与しています。

柱梁の剛接合仕口ユニットの施工。工場で製作したユニットを現場で組み立てていく
床のCLT(※3)パネルの施工
  • ※3 CLT(Cross Laminated Timber)
    丸太から取ったひき板(厚板)を並べた層を、各層が互いに直交するように積層接着したもの

木質空間を活用したウェルネスな研修・宿泊スペース

8階にある研修スペースでは、ヨガなどのウェルネスな研修プログラムを実施(撮影:株式会社エスエス 走出直道)

建築物の木造・木質化は、心身の健康や集中度・快適性を高めるウェルネスな木空間をつくり出します。8階の研修スペースでは、天井室内緑化、森林環境音と香り空調を設置し、五感を活性化する空間をめざしました。従業員のウェルビーイングにつながる空間として、さまざまな用途に利用しています。

各研修エリアでは、タッチディスプレイにエネルギー消費量などの情報を表示し、簡単にブラインドと照明の操作が可能な仕組みとしたことで、利用者自らが心地よい空間に整えることができます。

宿泊室では、各室に備えたiPadを用いて宿泊者自身が室内環境を制御できます。また、iPadには睡眠の質の計測、睡眠スコアを表示することで、宿泊者へ健康への気付きを促しています。

各研修エリアに設置された、建物情報を可視化するタッチディスプレイ
木の温かみを感じながら心身を整える宿泊室
宿泊室利用者のためのiPad。室内環境の調整や睡眠測定のほか、セルフウェルネスケアなどの機能を有する

Port Plusは、省エネルギーや環境影響などへの取り組みを総合評価する国際的な制度「LEED認証」の「ゴールド」をはじめ、健康・快適性を支援する建物を評価する国内認証制度である「CASBEEウェルネスオフィス」の「Sランク」や「WELL認証」の最高ランク「プラチナ」、WELL Health-Safety Ratingを取得しています。

木造・木質化によるカーボンニュートラル

Port Plusは、1,990m3の木材を使用したことにより、約1,652tのCO2、換算すると約450tの炭素(※4)を固定しています。565m2という狭小敷地に建つ木造建築で実現したこの固定量は、約4万5,000m2の杉の人工林が50年間で吸収する炭素量(※5)と同等であり、いわば都市に「第二の森林」をつくり出したといえるでしょう。

LCA試算(※6)では、鉄骨造と比べ、約1,700tの二酸化炭素の排出を削減しました。さらに、建物の空調負荷を下げて太陽光・太陽熱・地中熱・自然光・自然換気などの自然エネルギーを積極的に活用することで、消費エネルギー量を50%以下まで削減するZEB Readyを実現しています。木造・木質化による炭素固定に加え、省エネルギー化により、カーボンニュートラルに貢献します。

  • 木材使用量 1,990m3
    木構造体:1,675m3 木内装材:315m3
    CO2固定量
    (木造利用によるCO2固定量)
    1,652t(※4)
    CO2削減量
    (一般的な鉄骨造との比較削減量)
    1,700t(※6)
  • 二酸化炭素換算値の比較
  • ※4 林野庁の森林づくり・木材利用の二酸化炭素吸収・固定量の「見える化」ガイドラインに基づく試算
  • ※5 森林総合研究所の森林が吸収(固定)する炭素の平均的な量に基づく試算
  • ※6 LCA(Life Cycle Assessment:ライフサイクル評価)試算
    製品の原材料の採取から廃棄またはリサイクルに至るまでの過程(ライフサイクル)において環境へ与える影響を定量的に評価する手法
9階にある研修ホールの天井は、ダイナミックなCLTパネルで構成(撮影:株式会社エスエス 走出直道)
「Port Plus」 コンセプトムービー(動画再生時間:3分33秒)
「Port Plus」 竣工ムービー(動画再生時間:3分52秒)