イノベーションを生み出す街スケールの開発拠点

#6 クボタ グローバル技術研究所

クボタ グローバル技術研究所は、農業機械を中心に建築材料、鉄管、環境機器などを製造する大手メーカー・クボタの研究開発拠点施設として、2022年7月に完成しました。以前は関西を中心として全国に分散していた研究開発施設を大阪府堺市の埋め立て地に集約し、「制約のない開発活動を実現するプラットフォーム」となることをめざしました。研究開発を効率化させるため、研究所のみならずテストコースや実験場、24時間連続自動運転可能な試験装置などを集約した約34.6万m2の広大な敷地内では、約3,000人の従業員が働いています。

研究所の中枢である設計研究棟は、「CROSS INNOVATION FIELD -あらゆる分野が交差するイノベーションが生まれる場」をコンセプトに掲げています。「人と人」「知と技」「内と外」がクロスすることで新たな可能性が生まれ、創造の種を育んでいこうという思いが込められています。

このような技術研究所の実現に至った設計プロセスについてご紹介します。

眼前に広がる海辺、風通しが良く、日当たりに恵まれた場所に姿を現した研究所は白亜の巨大船が遠く世界の中心を見据えているように壮観で先鋭的(撮影:井上登写真事務所)

分散していた国内の研究施設を一つの敷地へ集約

全国各地に分散していた研究施設を、約34.6万m2の広大な一つの敷地に集約しました。これにより、以前は開発活動で生じていた開発人員数のキャパシティ、研究施設間の長距離移動、耐久試験の準備にかかる時間などの制限を取り払い、「制約のない開発活動」を可能にしています。

各部門を集約したことで効率的な連携が生まれ、研究開発を加速させる
制作企画から試作機組み立ては設計研究棟で実施し、性能・耐久試験は台上棟・圃場(ほじょう:農作物を栽培するための場所)・テストコースにまたがって性能・耐久試験を実施する
圃場(ほじょう)
テストコース
南側全景。大林組は敷地造成から各施設建設までを手がけた

偶発的なコミュニケーションが生まれるワンフロアのワークプレイス

柱が少ないワンフロアの大空間を実現した開発・設計フロア(撮影:井上登写真事務所)

多様な専門家を集めた設計研究棟では、部門間の相乗効果により新たなイノベーションを創出するべく、執務スペースにも工夫を凝らしています。中でも2,000人の研究者が一堂に会する設計・開発フロアは、平面180m×80m、天井高さ7.5mを誇る、1フロア約2万m2の大空間としました。積層型オフィスとは異なり、一体感や偶発的なコミュニケーションが生まれやすい仕掛けとなっています。

この巨大なワークプレイスを都市に見立て、「部門エリア=街区、部門エリアを取り囲む通路=街路、さまざまな研究者のコミュニケーションの場=公園・広場」として、整備しました。整備することで、部門ごとの個性を引き出し、それらが集積することで多様性のある密度の高い楽しい「まち」をつくりだしています。

都市的スケールを持つ多様性のあるワークプレイス
大空間のワークプレイスでは部門を越えた出会いや交流が生まれる

ワークプレイスの各所には大小さまざまなコミュニケーションスペースのほか、上下階をつなぐ階段、通路などが配置され、多様なオフィス空間を生み出しています。多くの研究者、設計者が一つの大空間に集まることで一体感や帰属感を高め、革新的なグローバル・イノベーションを促進します。

フロア間の交流を促すコミュニケーション広場
6階創造エリア
7階集中エリア
6階創造エリア
7階ミーティングラウンジ

設計者と研究者をつなぐ中央吹き抜けとコミュニケーション階段

各階の中央部にある、自然光が差し込む吹き抜けとコミュニケーション階段(撮影:井上登写真事務所)

設計研究棟の中央には1階まで光を届ける吹き抜けを配置するとともに、コミュニケーション階段を設けることで、上下階の移動だけでなくコミュニケーションを促す仕組みとしています。吹き抜け周辺や1階には、研究者が集い、相乗効果を生み出すことをめざした打ち合わせスペースを設けました。

1階まで光が届く中央部の吹き抜けと夏至の光の角度に合わせた傾斜壁(撮影:井上登写真事務所)
吹き抜け1階の打合せスペース(撮影:井上登写真事務所)

静寂さを求められる設計室の下で多数のクレーンが縦横無尽に走行する

16m×10mの構造スパンのグリッドで構成した研究現場では、平面112m×180mの大空間を113台のクレーンが縦横無尽に走行します。その研究現場の直上に、振動騒音に配慮した巨大な設計・開発フロアを設けるという、動と静の相反するものが同居する建物構成です。

断面構成図

静寂さが求められる設計・開発フロアの床厚は、通常より厚く20cmとし、上部に音や振動が伝わらないように配慮しました。クレーンの走行により大きな振動が発生しますが、クレーン自体にも防振ゴムやウレタン車輪を採用するなど、振動騒音対策を徹底しました。その結果、設計・開発フロアでは、振動騒音の指標である居住性能評価で最も高い性能を確保し、体感上も揺れを感じない環境を実現しました。

静寂さが求められる設計・開発フロア
クレーンが縦横無尽に走行する研究現場

さまざまな技術を取り入れた、国内最大規模のZEB取得建築物

設計研究棟では、さまざまな省エネ技術を導入しました。その結果、延べ⾯積約10万m2の建物全体で1次エネルギー消費量を75%削減する「Nearly ZEB」(※1)、さらに事務所⽤途での部分評価でも、1次エネルギー消費量を100%以上削減する「ZEB」(※1)を達成し、国内最大規模のZEB取得建築物となりました。

  • テラスの庇(ひさし)による日射遮蔽(しゃへい)
  • 地中熱交換杭による自然エネルギー活用
  • 卓越風(※2)を利用した自然換気
  • 日射遮蔽にも寄与する太陽光発電パネル
  • 作業スペースごとに照らすタスクアンビエント照明で省エネルギーに貢献
  • 自然採光と外気冷房を兼用する天井トップライトを採用
  • 5つの気流を組み合わせて空調効率と快適性を向上させるエアラップフロー
  • 生体リズムを整えるムービングフロー(左)と作業後の体を冷やすクールスポット(右)
    • ※1 「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」とは、省エネルギーによる50%以上のエネルギー消費量削減に加え、省エネルギー・創エネルギー合わせて100%以上のエネルギー消費量削減を実現する建築物
      「Nearly ZEB」とは、ZEBに近い建築物として、省エネルギーによる50%以上のエネルギー消費量削減に加え、省エネルギー・創エネルギー合わせて75%以上のエネルギー消費量削減を実現する建築物
    • ※2 ある地域で特定の期間(季節や年)に吹く、最も頻度が高い風向の風

エアラップフローの仕組み

  • 5つの気流を組み合わせてワーカーを包み込むような空調計画。5つの気流のうちの一つである「パーソナル床吹き出し口」により、大空間でも個人の満足度を高める
  •  1 
    パーソナル床吹き出し口(新鮮外気)
     2 
    センシング機能付天井カセットエアコン
     3 
    部屋ごとに温度コントロール可能な天井カセットエアコン
     4 
    ノズル吹き出し(エアコン)
     5 
    上昇気流による排熱・排気

埋め立て地の浄化と再生を担うレインガーデン

敷地内のレインガーデンに雨水が溜まっている様子

レインガーデンとは、降雨時の雨水を一時的に集水し、時間をかけて地下へと浸透させることで植栽の育成に寄与し、埋め立て地の土壌を少しずつ改良していく機能をもつものです。敷地外への雨水流出抑制の機能も果たすため、「グリーンインフラ」としても近年注目を集めている技術です。事前にモックアップを作成したうえで、適切な貯留浸透量となるように浸透基盤材内の骨材の大きさや密度検証を行い、決定しました。

レインガーデンの仕組み