エスコンフィールドHOKKAIDOは、2023年に北海道北広島市に誕生した、プロ野球・北海道日本ハムファイターズが本拠地とする球場です。3層にわたって配備した観客席には、約3万5,000人を収容します。周辺環境との調和を第一に考え、北海道になじみのある切妻型の大きな屋根、建物中層部に複数配置したテラスなど、地域に溶け込むデザインをめざしました。
細部にまでこだわり、日本初、日本最大級の開閉式屋根、フィールドには天然芝を採用。みずみずしい草の香りや色鮮やかなグリーンを目にすることで、観戦する側もまた癒されます。五感で心地よさを感じることができる、プレイヤーファーストとファンファーストの両立をめざした球場です。
「世界がまだ見ぬボールパークをつくろう」というコンセプトを実現するべく検討した、その設計プロセスをご紹介します。
北海道の文化を踏襲してデザインした切妻型の大きな屋根
メジャーリーグの球場のノウハウは取り入れながらも、北海道や日本の風土、文化などを落とし込んでデザイン検討を進めました。まず計画地の文化・条件を徹底的に整理し、屋根デザインは北海道になじみのある切妻屋根が特徴的な外観としました。外壁には煉瓦調タイルを採用し、北海道の新たなシンボルとなることをめざしています。
国内では珍しい左右非対称、「すり鉢」の球場
ホームチームエリアには最大限の座席を確保し、一方でビジターチームエリアにはホテル・サウナなどの付加価値を与え、結果的に国内の球場では珍しい左右非対称のデザインとなっています。
フィールドを360°囲う観客席は、どの場所からでもプレーが見やすいよう「すり鉢」状の断面構成としています。下段は段差が緩勾配で、上段は急勾配となるよう、最下段の段床は1段当たり高さ31cm(階段15.5cm×2)、最上段の段床は1段当たり高さ49.5cm(階段16.5cm×3)として、フィールドに近く一体感と臨場感がある座席レイアウトを実現。各段床の高さ・奥行は、3Dモデリングソフトでプログラムを組んで検証し、視認性と施工性に配慮した最適化を行いました。
国内初の可動屋根付き天然芝球場
エスコンフィールドHOKKAIDOは、開閉式屋根を備えた野球場において国内で初めて天然芝を採用しています。降雪・寒冷地である北海道で天然芝を育てるため、開閉式屋根を採用するとともに、南側を一面のガラスウォールとすることでフィールドへ日光と風を取り入れています。その他にも芝の光合成と呼吸に最適な条件を整えるため、さまざまな検証を経て設計を行いました。
飛球経路分析のシミュレーション
観客の安全への配慮から、防球ネットの範囲・形状・仕様、打球の衝突が想定される箇所のガラスなどの素材の検討を行いました。バックネット後方は、スタンドからの視認性と安全性を両立させるため、比較的危険性の低い打球は対象とせず、危険性の高い打球の大部分をカットできるよう高さ約20mの防球ネットとしています。
世界最大規模、総面積約3,400m2のチームエリア
総面積約3,400m2のチームエリアは、メジャーリーグの球団施設と比較しても最大規模です。効率的なパフォーマンスを発揮することができるよう、選手、マネージャー、スタッフなどチーム関係者それぞれの効率的な動線としてウェイトルームやトレーナー室などを配置しています。
球場を核としたまちづくり
エスコンフィールドHOKKAIDOを含めたエリア、北海道ボールパークFビレッジは、単なる野球の試合を観戦するためだけの施設ではなく、球団ファンやパートナー企業、地域住民が一緒になって、地域社会の活性化や社会貢献につながる"共同創造空間"をめざして計画されました。パートナー企業も、ヴィラ、レジデンス、グランピング、認定こども園のほかに、レストラン、農業学習施設、キッズエリア、ドッグランなど多様な用途を2023年春に同時開業しました。野球のホームゲームは年間80試合程度ですが、球場を核としたまちづくりは、非試合日にも多くの来場者が訪れ、国籍、年齢、性別を問わず、多くの人が集うクリエイティブなコミュニティスペースを実現しています。
約1万tの可動屋根を動かす構造計画
長さ167m、水平投影面積約2万5,000m2の可動屋根は、開閉式屋根として世界最大です。主架構である12本の一方向トラス梁が、重量約1万tの屋根を支持しています。屋根の開閉には、走行路132mを約25分かけて水平に移動。トラス梁の両端は24台の走行台車によって支持され、この台車が架構上をゆっくりと移動します。
建物の南東側に位置するガラスウォール架構は、天然芝育成のため、光の透過性を重視しました。構造は鉄骨造とし、最高高さ約70mのガラスウォールと屋根を支えています。
前例のないスタジアムの施工
前例がないスタジアム形状・巨大な可動屋根やガラスウォール・天然芝、他にもコロナ禍・北海道の厳寒期による雪や寒さなど、あらゆる課題が山積みの中、32ヵ月という工期でスタジアムをつくり上げる必要がありました。延べ60万人以上の人々に支えられながら多くの困難を乗り越えながら工事を進め、エスコンフィールドHOKKAIDOは完成しました。