区を挙げた街づくりに取り組んでいる池袋(東京都豊島区)では、2035年を目標にさまざまな再開発事業が進行しています。2023年に誕生した「ロクマルゲートIKEBUKURO」は、国内有数の歩行者通行量を誇るサンシャイン60通りの入口に位置する、地下2階・地上11階建てのテナントビルです。
入札コンペからスタートしたこのプロジェクトでは、歩行者からの見え方を意識した象徴的な外観デザインを提案し、立地にふさわしい競争力のあるテナントビルであり、なおかつ活気あふれる街並みの核となる建物をめざしました。
日々変化する池袋という街にふさわしい建物とは――。
その問いに対する一つの回答として完成した「ロクマルゲートIKEBUKURO」の設計プロセスをご紹介します。
床面積を最大限広げ、テナントビルとしての価値を高める
計画当初は低層部と高層部に分かれたデザインを検討していましたが、床面積を最大限広げるとともに、街の新たなシンボルとなることをめざし、天空率を適用(※1)して象徴的な形態に変更しました。それにより、地上12階から11階に減らすことで工事費は抑えながらも、床面積は当初案よりも約150m2増床させました。さらに、事務所・店舗・診療所・遊技場と幅広い用途に対応できるよう要件をクリアすることで、テナントビルとしての価値向上に寄与しました。
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計画当初は低層部と高層部に分かれたデザインを検討していた -
点と点を結ぶように、低層部と高層部を結ぶ斜めの外壁・柱を採用する -
床面積を広げるとともに、幅広い用途に対応できるテナントビルとした
- ※1 天空率の適用:
天空率(空が見える割合)が高く、採光、通風などが一定条件以上確保される場合、建築基準法で定められる従来の高さ制限(斜線制限)を緩和できる制度
歩行者の視点によって表情を変えるファサード
池袋駅東口方向からサンシャイン60通りへアプローチすると、ロクマルゲートIKEBUKUROが目に留まります。多方向から見える交差点角地という立地特性を活かし、象徴的な多面体のボリュームに3次元に傾斜するストライプデザインを組み込みました。歩行者の視点によって表情が変わるこのストライプデザインは、日々変化する池袋の街並みにふさわしい軽快なファサードを実現しました。
汚れを防ぐために配慮した3次元外装ディテール
傾斜した外装パネルは垂直面に比べ汚れやすいため、防汚対策を施しました。一枚一枚のパネルの間に排水ルートを確保したスリットを設けることで、汚れた雨水が下のパネルに伝わらないよう工夫しました。
また、パネルの間に設けたスリットには着脱可能なアルミフィン(薄いアルミ板)を設置しています。このアルミフィンの採用により、通常時はパネル間のスリット幅を最小限に細く見せることで伸びやかなストライプラインをより強調するとともに、シーリングのメンテナンス時には取り外すことで、必要最低限の作業スペースを確保しました。
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外装パネル断面詳細図 -
アルミフィン脱着時の原寸模型でのシーリングメンテナンス検証
美観を維持し、建物を長く使っていくための維持管理についても配慮しています。
繁華街で特殊な外装を実現するためのBIM活用
外装の傾斜角度に合わせた傾斜柱は地震力(横方向の力)に強いため、耐震性能の向上にも寄与しました。無柱空間の実現のみならず、斜材としての利点を最大限活かしています。
構造BIMモデルを活用して傾斜柱と外装の取り合いを検証したことで、3次元部材の製作・精度管理に大きく貢献しました。
さらに、施工シミュレーション用のアニメーションの作成や移動昇降式足場の安全確認にもBIMデータを活用しました。人通りの多い繁華街に位置するロクマルゲートIKEBUKUROの工事では、移動昇降式足場を採用したことで、複雑に足場を組むことなく、工期や安全上の課題をクリアしています。
外観の多面体デザインを内部へも展開したインテリア
3次元に傾斜したデザインは、外観だけでなく建物の内部へも展開しました。街で見た建物のユニークさを内部でも感じることができる、軽快でシャープな空間を演出しています。