「なじみの店」を継承し、再構築する新店舗

#12 割烹よし田

九州一の繁華街ともいわれる福岡・天神で1963年に創業した老舗割烹料理店「割烹よし田」は、市が進める再開発計画「天神ビッグバン」を契機として、2021年2月に移転しました。移転先は、旧店舗から徒歩15分ほど離れた、飲食店が立ち並ぶ旧問屋街・店屋町(てんやまち)。個室も多く備えた5階建ての店舗です。

長きにわたり地域の人たちのなじみの店であったことを何よりも大切にしたいと考え、その歴史や、これから新たな街で刻んでいく時間が、新店舗の風合いの変化として映り込むことを目指しました。

新しくもあり、なじみのお客さんにとってはどこか懐かしくもある――そうした場所であり続けることを目指した店舗の設計手法をご紹介します。

旧店舗の色彩を受け継いで生まれたシンプルな外観は、老舗としての品位と店舗の存在の分かりやすさを両立させる(撮影:エスエス 上田 新一郎)

旧店舗の記憶をひも解く

新店舗の設計にあたり、旧店舗を象徴するものは何か、その要素を洗い出すことを試みました。

旧店舗の要素と構成をトレースし、店舗の記憶を可視化しました。旧店舗の記憶を抽象的に再構築することで、新しい「なじみの店」として、記憶のリノベーションを展開します。

割烹よし田で使用されていた紙袋から色を抽出(現在の紙袋はデザインが変更されている)
紙袋同様にべんがら色と墨色の色彩で構成されていた旧店舗
旧店舗立体図。べんがら色と墨色、お客様を迎えるように構えられた庇(ひさし)や木格子などの要素を抽出し、新店舗へと継承
新店舗立面イメージ。正面に開口部を設けないことで象徴化された壁面は店舗のアイデンティティを最大限に表現する

周辺店舗とともに活気ある街並みを形成

軒⾼2.1mの庇によってボリュームを分節することで、飲⾷店が集まる周辺地域のスケールに溶け込みつつも、活気のある街並みを形成する(撮影:エスエス 上田 新一郎)

店外から内部のエレベーターホールまで連続する左官壁に沿って並ぶ入店待ちの⾏列は、周辺店舗を含めた街のにぎわいや景観に寄与します。

旧店舗の記憶を店内へも展開

3階客間。街の食堂をイメージさせる、人々が気軽に足を運べるようなシンプルな構成とした(撮影:エスエス 上田 新一郎)
4階個室「桐」。各個室名称は旧店舗から継承した
4階個室「竹」。各個室はそれぞれの名称をモチーフとした内装を展開
4階個室「松」。テーブルや椅子などの什器にもべんがら⾊と墨⾊の構成を踏襲し、店舗としてのイメージカラーを内部でも統一して展開(撮影:エスエス 上田 新一郎)
撮影:エスエス 上田 新一郎