プロジェクト最前線

稼動から80年、山口・下関市民の暮らしを支える浄水場をリニューアル

長府浄水場更新事業建設工事

2026. 01. 09

手前は新たな浄水池、奥はさまざまな機能の池を備える建屋の新設が進む 
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2036年の完成予想図(全5期)。現在はその第1期で浄水施設の3分の2を新設する

蛇口をひねればそのまま飲める水道水が提供されている日本。背景には、世界トップクラスの厳しさを誇る水質検査基準があり、その水質の浄化を支えているのは、全国各地の浄水場だ。浄水場も他の公共インフラの例に漏れず、多くが高度経済成長期に整備され、運用を開始したもの。老朽化対策、浄水機能の改善、耐震性の強化といったさまざまな観点からリニューアルが進められている。

大林組は民間事業者3社と共に、稼働から80年の歳月を重ねた「長府浄水場」の大規模リニューアルプロジェクトに取り組んでいる。確かな水質を提供するための「浄水池」「ろ過池」「沈殿池」「ポンプ槽」「受水槽」「地下タンク」といったさまざまな機能を持つ浄水施設を建設するものだ。

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現在稼働する浄水場内の沈殿池。人口増加や工業の発展に対応して増設を重ね、1日当たり13万m³の浄水能力を誇る

下関市民8割の生命線となる水

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大林組長府浄水場JV工事事務所 所長 石原口一人
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現場全景。手前は稼働する急速ろ過池。通路を挟んだ奥では浄水施設(浄水池、原水ポンプ槽、管理棟など)の新設が進む 

長府浄水場は、戦後間もない1946(昭和21)年に稼働を開始し、今日まで山口県第一の人口を誇る下関市民の約8割に、水道水を供給し続けてきた。「老朽化が進む本施設の更新工事は、大部分の下関市民の日々の生活に直接関わるため、10〜20年という単位で期間をかけて慎重に検討されてきました」と語るのは、工事を任された所長 石原口だ。

石原口は長府浄水場とは深いゆかりがある。下関市の出身で、高校への通学時には電車で毎日浄水場の横を通り、もちろん浄水場から供給される水を飲んで育った。

長府浄水場の更新に関する長年にわたる議論が決着し、下関市から工事が発注され、工事に着手したのは2024年3月。本プロジェクトには、公共事業において設計から土木・建築工事、機械・電気設備工事、さらに施設維持管理までを一括して民間事業者に委託する手法DBO(Design Build Operate)方式が採用され、代表会社の神鋼環境ソリューション以下、大林組を含む4社のグループが請け負うこととなった。

リニューアル後の長府浄水場では、微生物の自然浄化作用を用いた「生物接触ろ過」が追加されるなど、夏場に発生するカビ臭の除去性能を強化。また、導水から送水までの施設・設備の耐震性能を強化するとともに、主要な浄水処理施設は3系列とし、非常時には異常のある系列を停止・分離してリスクを分散できるような災害に強い水道システムが構築される。

更新工事の完了予定は2036年。まだ長い道のりが残されているように見えるが、「工期は第5期まであり、期ごとにすべきことが細かく設定されています。第1期の完了予定は2029年9月と残り4年足らずとなり、その第1期中に浄水施設の3分の2を新設し、部分供用を開始しなくてはなりません。しかも、土木・建築工事完了後には機械・電気設備工事もあるため、私たちの担当業務に残りの期間を丸々使えるわけではないのです」と石原口。

自分たちに与えられた時間の中で、課題をいかにクリアしていくか。常にゴールまでの最短距離を模索しながら進めているという。

BIMの3Dモデルで細部まで可視化し手戻りリスクを低減

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大林組長府浄水場JV工事事務所 主任 阪本祐人

本プロジェクトの大きな課題である「短工期化」。これを実現する糸口の一つとして期待されているのが3Dモデルの活用だ。

担当した主任の阪本は、3Dモデル導入の経緯について、「本プロジェクトで建設する構造物は、何階層にも分かれているほか、各階層内にも大小さまざまな空間があり、さらに水道管や機械設備などの設置も考慮する必要があります。これを全て起こした平面図は、非常に複雑なものとなり、解釈の違いによる手戻りのリスクが高まると感じました」と説明する。

今回導入した3Dモデルは、構造物を立体的に捉えられるのはもちろん、各階層が色分けしてあり、追加や消去が簡単に行える仕様となっている。上の階を消去すれば、確認したい階層の内外を360度全ての角度から隅々まで確認できる。そのため、資機材のスムーズな搬入・搬出経路の検討や、より高効率な施工計画を立案する上での必須アイテムになっている。「足場をどこに設けるべきか、水道管をいつ壁に通すべきかなど、3Dモデル中心に進む工事検討会などでは、以前に比べて話し合いの解像度が上がり、質が高まったと感じています」と阪本は語る。

さらに3Dモデルが優れているのは、階層ごとにコンクリートの必要量の目安が算出される点だ。「今回の本体工事は構造が複雑であるため、コンクリート量の計算も一筋縄ではいかない部分がありました。一方、昨今の下関市ではコンクリートの確保が難しく、大量発注の際には2〜3カ月前から注文しておかなくてはなりません。そこで、コンクリートの必要量を瞬時に計算する機能を3Dモデルに追加しました」と阪本は振り返る。既存のツールを導入するだけでなく、現場の実情に即して適切なカスタマイズを加えることも、プロジェクトを加速させる上で欠かせない視点と言えるだろう。

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生物接触ろ過池、薬品沈殿池、急速ろ過池を備える浄水棟は、細かな部屋に分かれ、配管が張り巡らされる複雑な構造体。施工ステップは細かく分かれる

断水せずに工事を進める工夫

工期と並び、本プロジェクトの難度を上げているのは「浄水場を稼働させたまま、その敷地内で新設工事を行っていること」や「施設が住宅地に近接しているため騒音に配慮する必要がある」といったさまざまな制約である。

こうした課題の解消について、基礎工事や仮設計画を行う中で模索しているのが主任の宮宗だ。例えば、断水せずに水道管を交換するための「不断水バルブ」は、長府浄水場内の全ての電力をつかさどる「受変電設備」のすぐ隣に設置する必要があった。

受変電設備のフェンスからの離隔はわずか10cmほど。限られたスペースへの鋼矢板の打設には、無振動・無騒音の打設機械を採用した。このプロジェクト全体では約1700本もの鋼矢板の打設が必要になるため、場所に応じて先行削孔と鋼矢板圧入を使い分け、工期とコストの最適化を図っている。

また、海に近い長府浄水場は地下水位が高いため、掘削効率が悪い。そこで井戸を設置し、地下水を揚水することにより、周辺の地下水位を低下させるウェルポイント工法(※1)、スモールディープウェル工法(※2)を併用し、なるべくドライな環境を整備した。

宮宗は「基礎工事と同じで、浄水池の仮設工事でもいかに無駄なくスムーズな計画ができるかが勝負です。工期はもちろん、収益にも直結するので、現場の状況を踏まえ、関係者と密にコミュニケーションを取って進めます。仮設計画には正解が用意されていないので、技術面で社内の強力なサポートを得ながら、最適解を追い求めています」と説明する。

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大林組長府浄水場JV工事事務所 主任 宮宗哲也
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浄水場内の全電力を賄う受変電設備(左側)横での鋼矢板の打設には、無振動・無騒音の打設機械を活用
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浄水池の躯体を構築するため約9m土砂を掘削 
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浄水池の築造では、作業効率向上のため大林組土木部門による設計でグラウンドアンカーと切梁を併用した支保工を採用。広い作業空間を確保した

※1 地盤に多数のウェルポイント(吸水管)を打ち込み、真空ポンプで強制的に排水して地下水位を低下させる工法
※2 小口径の揚水井戸(ディープウェル)を掘削し、水中ポンプで地下水を汲み上げて水位を低下させる工法

「CHOFU PRIDE」に込めた思い

多くの課題と制約があり、難度の高い本プロジェクトだが、比較的若い社員が現場の軸となって活躍している。「これからはどこの現場でも若い社員たちがリードするようになります。人手不足が叫ばれる中、若手には少しでも建設業の魅力を感じてもらいたい。だから、プロジェクトを前進させるための芯の部分の仕事は若手に任せ、それ以外のひたすら地味で膨大な作業を自分たちベテランが引き受けるといったようなことは意識しています」と石原口。

こうした所長の粋な計らいは、若手にどのような影響を与えているのだろうか。阪本は「所長の思い、期待に応えられるよう現場に向き合い、日々悩み続けています。このプロジェクトをやり切ったらものすごい経験値を得られると思うので、自分のすべきことを積み重ねていきます」と語る。宮宗も「私たちに仕事を任せ、通常は所長がやらないような仕事を担っていただいていることはみんなが分かっています。その心遣いに、期待以上のものを返して応えたいです」と熱く語る。二人の若手は、所長の思いをしっかりと受け止め、心を奮い立たせるエネルギーに代えているようだ。

かつての通学路が通勤路に変わった石原口。「まさか自分にこんな未来が待っていようとは思いもしませんでした。この業界に身を置く者として、自分自身を育んでくれた地元に仕事で恩返しできるのは大変光栄なことです。両親をはじめ、この水を使用する人の顔が目に浮かぶということは、大きな責任とやりがいにつながります。横断幕に掲げた「CHOFU PRIDE」のスローガンには、働く人が誇りを持てる現場にしたいという思いを込めました。建設業が果たす役割の大きさとやりがいを感じながら、チーム一丸となってこのプロジェクトを前に進めていきます」と決意を口にした。

大林組が誇る問題解決力に、石原口の地元への思いも加わった本プロジェクト。その思いを共有する若手の柔軟な発想と飽くなき向上心が、待ち受ける多くの壁をどう乗り越えていくのか、今後も注目したい。

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(取材2025年9月)

工事概要

名称 長府浄水場更新事業建設工事
場所 山口県下関市
発注 下関市上下水道局
設計 日水コン
概要 コンクリート構造物3万6,000m³、構造物撤去2万m³、
場内配管一式、管更生73m 、推進工(泥濃式)24m 、
場内整備一式、仮設一式、地盤改良一式、事前調査業務
(地質調査、埋設物調査、アスベスト調査、土壌汚染調査)、
仮設設計
工期 2022年8月29日~2036年11月30日
施工 神鋼環境ソリューション(代表企業)、大林組

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