プロジェクト最前線

淀川水面すれすれの鉄道橋を7m高く架け替える

阪神なんば線淀川橋梁改築工事(河川単独区間)の内土木関係主体工事(第3工区)

2026. 04. 16

営業中の路線に隣接して新たな鉄道橋を建設。新設した橋脚上では、走行式クレーンによる橋桁の架設が進む

阪神なんば線・福駅と伝法(でんぽう)駅間に架かる淀川橋梁は、堤防よりも低い位置に設置されていることから、防災上の深刻な課題の一つになっている。大林組は、地域の防災力を強化し、鉄道の安全な運行を守る橋梁架け替えの工事を行っている。

2018年、橋桁よりも潮位が上昇(提供:国土交通省 近畿地方整備局 淀川河川事務所)

淀川橋梁は100年もの長きにわたり、通勤や通学の足として周辺住民の暮らしを支えてきた重要な交通インフラだ。最大の懸念点は、この橋が淀川下流部の橋では最も低い位置に設置されていること。桁下高は国が定めた計画高潮位を約0.9m、堤防の高さを約1.8mも下回っており、想定以上の増水時には、川の水が橋桁・堤防を越えるリスクがあるのだ。さらに、現在の淀川橋梁には39本もの橋脚があり、河川の流れを阻害してリスクをより高めると認識されている。

2018年、国と自治体、阪神電鉄が共同で「阪神なんば線淀川橋梁改築事業」をスタートした。現状より7m高架化し、橋脚を39本から10本へ削減する計画で、河川内の構造物が水流に与える影響を示す指標「河積阻害率」は大幅に改善される。

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「阪神なんば線淀川橋梁改築事業」の実施前と実施後のイメージ。駅も高架化し、5カ所ある踏切を撤去する

水陸にまたがる鉄道橋ならではの特異性

事業全体の総延長は約2.4kmに及び、5工区に分かれて工事が進められる。大林組は、福駅側の右岸から淀川の中央部分までの約400m区間となる第3工区を担当している。

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第3工区(延長410m)は淀川右岸側。6年の工期で5本の橋脚は構築する
大林組阪神淀川橋梁JV工事事務所所長 伊藤良二

第3工区では、構築する下部工(橋脚や基礎)5基のうち、3基に鋼管矢板井筒基礎工法、残る2基にニューマチックケーソン工法(※1)を採用する。さらに上部工(橋桁や床版など)は、橋桁上に巨大クレーンを自走させながら延ばしていく「トラベラクレーン工法」での施工となる。

入札時から本事業に関わってきた大林組阪神淀川橋梁JV工事事務所の所長 伊藤は「現場は陸上と水上にまたがり、非常に難度の高い工区を任されたと感じました」と受注時を振り返る。キャリアの大部分を土木現場で過ごし、特に鉄道の現場経験が豊富な伊藤でも難しさを感じる工事だった。

工事の難度を高めている要因は大きく分けて3つある。1つ目は、鉄道工事全般に共通する制約ではあるが、電車の運行を優先させなければならないことだ。2つ目は、河川の増水リスクが比較的低い非出水期(※2)の約8カ月間しか河川内での施工が許されないこと。そして3つ目が、特殊な工法への対応を求められたことだ。「どれか一つでも難しいこの3つの特異性と同時に向き合わなければいけない。非常に困難なミッションになるというのが当初の印象でした」と伊藤。

  • ※1 ニューマチックケーソン工法
    橋梁の基礎や地下構造物の設置に広く使われる工法。筒状構造物の最下部に密閉された作業室(ケーソン)を現場で構築し、ケーソン内に地下水が入り込まないように圧縮空気を送り込みながら掘削を進め、所定の深さにケーソンを設置する工法
  • ※2 出水期/非出水期
    出水期は河川の水位が上昇しやすい時期、非出水期は水位が比較的安定している時期

川の水位が安定する時期に集中的に下部工を施工

悪天候によるストップが頻発

大林組阪神淀川橋梁JV工事事務所工事課長 後藤幸介、(現所属)東北支店 双葉地区中間貯蔵JV工事事務所

伊藤の予想は早々に的中することになる。工事課長 後藤は、担当した下部工の難しさについて「5基の橋脚を6年で構築する計画でしたが、毎年出水期の6月16日から10月15日は施工できません。実質的に施工できる期間は工期の3分の2しかないのです」と語る。

淀川橋梁は海と川が交わり水位や流れが不安定な河口付近にあるため、強風による休工日も多く発生する。「ひどい時では、1週間連続で工事がストップしたことも。もともと限られた期間がさらに削られていく中での進捗管理は極めて厳しい状況でした」と説明する。

第3工区の概要。既設橋梁の下流側に5基の橋脚下部工を新設。P46とP47はニューマチックケーソン工法、P48~P50は鋼管矢板井筒基礎で構築する
ニューマチックケーソン工法の掘削はオペレーターによる遠隔作業で行われる
ケーソン内の掘削を自動で繰り返す「自動掘削システム」を実証(写真は排出用バケットへ土砂を入れる様子)

堤防を挟んで河川の内外2基の橋脚は、気圧の力で地下水の浸入を防ぎながら地中を掘削するニューマチックケーソン工法で基礎を構築する。既存の橋脚と新設する2基は非常に近い位置にあり、現在の淀川橋梁の基礎に影響を与えないよう細心の注意を払いながら、地下45mまで掘削しなければならない。施工時の振動や施工スペースを抑えられるニューマチックケーソン工法が適している。

「出水期が近づくと、気象条件による突発的な休工のことも脳裏をよぎります。慎重さと迅速さの両立は非常に難しく、ギリギリで非出水期内に間に合わせた年もありました」と後藤。

さらに下部工では、橋脚基礎の新設工事と、前年に構築が完了した基礎上部の工事が同時に進められた。水陸それぞれで作業員が動き、複数の工事が並行する現場では、安全管理の面でも課題が多かった。

鋼管矢板井筒基礎。井筒形状に配置した鋼管矢板を支持層に設置する

「陸上と水上のエリアごとに、横断的かつ主体的に調整する役割を持つエリアマスターを定めました。所属会社の枠を超え、大林組をはじめとする若手職員と協力会社から選出したエリアマスターが、翌日の作業の配置や動き、搬出入の予定時刻やルートなどを互いに共有し、その情報を翌朝の朝礼時に各エリアで説明することをルール化しました。これにより、水陸のコミュニケーション不足が解消され、現場でのそれぞれの動きがスムーズになりました」と後藤。さまざまな工夫により、5基の橋脚の構築は遅滞なく完了した。

営業線を一時的に切り替える

新設下部工の躯体構築を行うスペース確保のため、河川内では約160mにわたる鉄道の営業線を一時的に切り替える「線路の仮線化」を行った。仮線化工事は鉄道運行のない深夜1時から午前4時20分までの3時間20分間に限定され、区画も細かく分けて進めた。

「私たちだけでなく、発注者、鉄道系の電気工事会社、軌道工事会社など多岐にわたる関係者が関わる工事です。それぞれが工事の全体像を把握し、すべきことを正確に理解した上で、無駄なく時間を活用して、初めて成功するものです。全関係者が立場を超え、何でも話せる関係性を育み、会社の枠を超えて団結できたことが成功につながった要因です」と伊藤は話す。

仮線化工事は、上り線(大阪難波方面)が2022年10月1日、下り線(尼崎方面)が2023年9月30日に完了した。

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営業線の線形を変えるため仮線桁を支える「かんざし桁」(緑色)を設置。仮線は既設橋梁の中心から左側(上流側)にずらした
仮線桁の設置を終えた線路(手前は既存の営業線)

10年にわたる長期工事だからこそ議論を活発に

大林組阪神淀川橋梁JV工事事務所工事課長 谷口卓哉

この現場は長期にわたり工事が続く。社員の入れ替わりが多い。現在、上部工を取り仕切る工事課長の谷口は「私は着工して約1年半後に赴任しました。担当者が替わっても、工事の流れや注意すべき点が分かるように、勉強会などで意識的に経験を共有し、みんなで考えて議論して進めていくことがポイントだと感じています」と話す。

新しく異動してくる社員に、伊藤がまず伝えるのは『明るく厳しく議論を恐れず、脳に汗して』という言葉だ。「議論を恐れていてはダメだよ。まず意見を持とうということを伝え、やらされているのではなく、自らの考えで動いてほしいと思っています」と伊藤。

二重三重の安全対策で進む上部工

すぐ隣を運行する鉄道路線を意識して、上部工では落下物の危険に最大級の注意を払っている。電車接近の合図を送る列車監視員を配置し、その合図で電車が通過する間は作業を一時停止させるだけでなく、クレーンの吊り荷が鉄道側に越境するのを自動で監視するレーザーバリアシステムを導入している。「吊り荷が鉄道側に振れないようロックをかける装置も導入するなど、二重三重の安全対策も講じています」と谷口。

電車が通過する際はクレーンを停止させ、運行の隙間での作業となる。取材時も4~5分間隔で電車が通過し、その都度作業が停止した

橋桁を架ける上部工の施工は、2つの工法により進めている。陸上から岸に近い曲線形のトラスは「トラッククレーンベント工法」を、河川内のトラスは「トラベラクレーン工法」を採用している。

  • トラッククレーンベント工法

    上部工をベント(仮受け構台)で支持しながら、移動式クレーンによって架設。橋梁の架設において最も一般的な工法

  • トラベラクレーン工法

    自走式クレーンを橋桁上の軌条に設置し、クレーンを前進させながら連続的に架設

トラッククレーンベント工法は、地上に設けたベント(仮受け構台)上でトラス桁(※3)を連結し、その後橋脚に据え付ける。一方、トラベラクレーン工法は、橋桁上に設置した自走式クレーンで片側から次の橋脚までトラス桁を運搬・架設し、つなぎ合わせながら橋を伸ばしていく特殊な工法だ。

谷口は「橋の先端からクレーンで橋桁を延ばすトラベラクレーン工法では、橋が張り出せばたわみが大きくなり、根元の支点に作用する荷重も増加します。次の橋脚に届くまでのたわみ量を正確に計算した上で、一カ所への荷重が最大で300t以下になるようコントロールすることが欠かせません」と語る。

  • ※3 トラス桁
    三角形を基本とした骨組み構造(トラス)によって支える桁の形式
阪神なんば線淀川橋 架設ステップ説明動画(動画再生時間:3分37秒)

作業の無事を誓う「I・愛(あいあい)運動」

垣根のないコミュニケーション。これこそが、伊藤がこのプロジェクトを成功に導くために力を入れてきた、打開策の核心と言える。

この現場でアイデアを出し合って生まれた独自の取り組みが多くある。代表例が「I・愛運動」だ。トラックの荷台を覆うシートに子どもが書いたメッセージなどを掲げることで事故が減ったという運送会社の事例に着想を得て、大林組と協力会社の職員とで知恵を出し合いながらアレンジした。現場で独自のワッペンを作り、その裏に各自の愛する人や愛する物を書く。朝礼時、それらに15秒間思いをはせ、今日一日無事に作業を終えて家に帰ることを誓うというものだ。「この取り組みの導入以降、現場運営がさらに円滑に進むようになりましたし、安全への取り組みに対する自分ごと化が進んだように感じています」と伊藤。

新淀川橋梁への切り替え完了は2032年とまだ先は長い。「当初のぼんやりした竣工のイメージが、ようやくその輪郭を捉えられるところまで来た」と伊藤は現在地を分析する。

高潮の際には列車の運行を止め、陸閘で線路をふさいで堤防機能を維持(手前が堤防、奥が線路)

「線路を横切る可動式の防災施設『陸閘(りっこう)』が2018年、39年ぶりに閉鎖され、その直後に工事は着工しました。それに際して近隣の住民の皆さんにご挨拶に伺った時、本事業に対する切実な願いを寄せられたことを覚えています。あれから7年、決して全てが順調なことばかりではありませんでしたが、いろんな壁を乗り越え今に至ります。前任の所長をはじめ、ここまで支えてくれた皆さんの協力を無駄にせず、また、地元住民からの思いと発注者からの期待に向き合い、関係者同士で団結しながら竣工まで走り続けたいと思います」と決意を述べた。

(取材2025年12月)

工事概要

名称 阪神なんば線淀川橋梁改築工事(河川単独区間)の内土木関係主体工事(第3工区)
場所 大阪市
発注 阪神電気鉄道(事業者:国土交通省)
設計 日本交通技術
概要 【下部工】鋼管矢板基礎3基、ニューマチックケーソン基礎2基、仮橋台2基、
高水式盛土約1万3,500m³、かんざし杭・桁8連、工事用仮桟橋、工事用通路整備、仮線桁
【上部工】工事用仮桟橋、仮受ベント基礎8基、曲弦トラス・単純トラス、連続トラス架設
工期 2018年7月25日~2028年3月31日
施工 大林組、ハンシン建設、東洋建設

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