京町家の歴史と価値を継承するホテル

#19 THE HIRAMATSU 京都

かつて伝統的な町家や茶屋が多く立ち並んでいた京都市中京区。低く抑えた軒が通りに面して連続する京町家のたたずまいは、建て替えが進んだいま、ほとんど見られなくなりました。

THE HIRAMATSU 京都は、そのような立地にあり、伝統的な京町家を保存・再生して2020年に誕生したホテルです。「はんなり」という言葉に象徴される、京の町で培われてきた美意識と空気感の継承を計画の中心に据え、京町家の平面構成を踏襲し、町家建築の光と風、緑の演出要素を最大限に引き出しました。また、仕上げには木材や土壁、和紙など、京都らしい素材を多用し、昔ながらの人の手技の力を頼りに空間をつくりあげていきました。

京都ならではの美しい空間性と生活様式を追体験できる現代の施設として再構築した、その設計手法をご紹介します。

かつて京の都の中心であった室町通りに面する東側外観。明治32年(1899年)に建てられた表家(※1)と高塀はそのまま保存・活用した(撮影:フォワードストローク)
  • ※1 表家
    京都の町屋では、道路に面した部分に「表家」と呼ばれる建物を、その奥に居住用の建物を別々の棟として建て、両棟の間を中庭で隔てて細い玄関棟でつなぐ形式が多く見られた

美しい空気感とともに京町家を残す

既存建屋解体前を上空から撮影。画面下が室町通り(2017年10月)
解体後も表家(点線枠内)は保存した(2018年1月撮影)

室町通りに面する表屋と高塀は構造補強して現況を保存し、その他の部分はそれに倣う形でファサードを構成し、間口約33mの町家のたたずまいをつくり出しました。

高層部のファサードは室町通りからセットバックして通りへの圧迫感を抑えています。

1階平面図
断面図
東側(室町通り側)立面図
保存改修部 復元新築部 新築部

残すための工程

既存建物の調査を行いながら解体を進め、材料選定、埋蔵文化財の調査を経て、建築工事に着手しました。築100年超の京町家をホテルとして機能再生して長く使うために、生かし取り(※2)材の腐朽修復などが必要な箇所を見定め、一つひとつを修復加工して新設建屋に取り込みました。

  • ※2 生かし取り(いかしどり)
    既存の建築材料を丁寧に撤去し、再利用すること
  • 【調査】
    既存塀の調査
  • 【解体】
    生かし取り材の状態確認
  • 【生かし取り材加工】
    修復・加工、材料選定
  • 【新設建屋取り込み】
    納まりや接合部の検討・調整
保存した表家内のフロント(撮影:フォワードストローク)

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新と旧を重ねる

京の町の新しい景色をつくる

新築部外観は木を1本も使わずに「和」を表現。アルミキャストルーバーと木目調の打ち放しコンクリートを採用したことで、町並みとの調和を図った(撮影:フォワードストローク)

保存した伝統的な京町家の表家を主とし、新築した高層部は従として、京町家の背景となるように設えました。そうすることで、まるでこの建物がずっと以前からここにあったかのような存在感と京の町の空気感を残しながら、それでいて新しい雰囲気を創出しました。

ブロンズ色のアルミキャストルーバーは、表面に凹凸を施す「なぐり加工」とした
新築した壁面のコンクリートは、素地の杉板の型枠で打ち放したことで、木目の風合いを残す仕上げとした
保存した表家(左)と新築部(右)を前庭から見る(撮影:フォワードストローク)

新と旧が入り混じる空間

既存建屋の踏み石、雨どい、瓦などの生かし取り材は修繕して再利用しています。また、保存した表家からレストラン脇を通り、奥の蔵(バー)までを走り庭でつなぎ、それぞれに町家の柱梁の生かし取り木材による架構を再現。新と旧を融合させながら新たな価値や空間性を模索しました。

新築したレストラン。木組みは生かし取り材を再利用し、インテリアの一要素として構成した(撮影:フォワードストローク)
2層吹き抜けの走り庭(撮影:フォワードストローク)
復元した蔵の中にあるバー(新築)。架構は元あった蔵の部材を再利用した(撮影:フォワードストローク)

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京町家の美意識を継承し、内と外をつなぐ

レストランから前庭を見る(撮影:フォワードストローク)

敷地の東西には、松籟(しょうらい:松に吹く風やその音)を表現した前庭と、竹林を通して光を室内に取り入れる奥庭をそれぞれ配置。空間に光や緑などの自然を取り入れ、京町家の生活空間に流れる美意識を継承しています。

表家内のフロントから前庭を見る(撮影:フォワードストローク)
竹林を備えた奥庭を隔てたレストラン(左)とバー(右)(撮影:フォワードストローク)
2階廊下。奥庭に面する地窓(低く抑えた窓)をたどって客室へ(撮影:フォワードストローク)
客室から坪庭を見る(撮影:フォワードストローク)

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全29室の客室は約50~100m2の広さで展開(撮影:フォワードストローク)
木材や土壁、和紙など京都らしい素材で仕上げた「はんなり」とした空間が広がる(撮影:フォワードストローク)
(撮影:フォワードストローク)