液状化から暮らしを守る
さまざまな条件において現実的な対策をご提供します
1964年に発生した新潟地震によって液状化現象が注目されてから半世紀以上が経過し、さまざまな対策が開発されていますが、大地震が発生するといまだに液状化による被害が報告されています。その要因の一つは、未対策の構造物が多く残されているためです。 さまざまな施設の被害防止や軽減のための大林組の液状化対策技術をご紹介します。
液状化による被害
■いつから
液状化現象が広く知られるようになったのは、1964年の新潟地震です。液状化により県営アパートが大きく傾く被害が発生したことから社会に広く知られるようになりました。
液状化現象自体は自然現象なので、地震と同様に古くから発生しています。例えば1923年の関東地震で発生したと考えられる液状化の痕跡が報告されています。それではなぜ1964年の新潟地震まで液状化現象はあまり問題とならなかったのでしょうか。主な理由として以下の3つが考えられます。
- 被害を受けるような構造物がそもそも建設されていなかった
- 液状化が発生するような場所に人があまり住んでいなかった
- 耐震設計が整備される前は地震時に建物が倒壊することによる人的被害、火災などの二次被害の規模が大きく、後述するような液状化による被害はあまり注目されなかった
ところが、高度経済成長期に入り、1923年の関東地震以降整備された耐震設計によってつくられた建物が増え、人口増加に伴って地下水位の高い平地や、埋立地などの液状化リスクの高い地盤(建設時はまだ液状化を認識していなかった場合もある)にも人が住むようになり、1964年の新潟地震でアパートが大きく傾くという被害に初めて遭遇したのです。
このように社会環境や都市環境が変わることで、これまで問題とならなかった液状化現象が、私たちの生活を脅かすような被害になってしまった。その契機が1964年だったと言えるでしょう。
その後、建物や橋などの設計において液状化の影響を考慮することが定められました。しかしながら、既に建設されている建物や埋立地盤などへの対策は困難な場合が多く、1995年の阪神大震災でも、神戸港の港湾施設が液状化を主因とする大きな被害を受け、その機能が失われました。
近年でも2011年の東北地方太平洋沖地震や、2018年北海道胆振東部地震、2024年能登半島地震においても液状化現象が報告されており、家屋だけでなくライフラインなどの社会基盤に係る設備にも大きな被害をもたらしています。
■どのような被害が起きるのか
液状化現象が発生すると、家屋などが沈下・傾斜したり、埋設管路やマンホールが浮上したりするような被害が発生します。これは例えば水の上では重いものは沈み、軽いものが浮くように、普段はあらゆるものを支えてくれている地盤が、液状化現象によって液体的なふるまいをするようになることで、密度の重いものは沈み、軽いものは浮くような状態となるためです。
さらに、こうした被害によって液状化現象は、二次的な問題を発生させます。例えば、給排水の制限や緊急車両などの交通障害や事故の誘発などです。 建物が沈下することで、接続されている上下水道の管路が切断されたり、引き裂かれたりもします。切断部分から土砂が入るため、液状化していない地域にも影響がでてしまいます。また、道路では噴砂が交通障害を与えるとともに、道路に埋設されているマンホールなどの地中構造物が浮き上がることで、その段差が交通障害を引き起こします。その他、噴砂が乾いた場合に、粉塵として舞い上がり、衛生面での障害が生じることもあります。
これらの被害は主に住宅地で見られる被害ですが、液状化は河川周辺や海岸付近でも生じやすく、このような場所では側方流動といわれる地盤全体が大きく横方向に移動する現象が発生します。護岸やその背後地盤が川側あるいは海側に数mオーダーで移動することで、建物の杭基礎や埋設管路が破壊されたり、橋が落ちたりすることもあります。また、橋と接続する道路の沈下で段差が生じ、通行ができなくなります。現在では主要な橋は液状化対策(落橋防止工等)が施されているため、その危険性は少ないと考えられます。
液状化のメカニズム
■どのような場所で起きるのか
液状化はどこでも起こるわけではありません。したがって、地震が起きる前からある程度の精度をもって予測が立てられるため、各自治体では液状化に関するハザードマップが公開されています。液状化現象は以下3つの要因がそろったときに発生する可能性が高くなります。
1 緩い砂地盤
海岸・河口付近や埋立地、河川の扇状地に多くあり、地盤の硬さを示すN値(※1)が20以下(※2)で、土の粒子の大きさが0.01~2mm程度の砂地盤(※3)。
2 地下水
地下水位が地表面から10m以内で、浅いほど被害が大きくなります。
3 大きな地震の揺れ
震度5弱以上(※4)といわれますが、揺れている時間が長くなると震度4でも液状化する可能性があります。
■どのようにして起きるのか
液状化しやすい砂地盤を例にご紹介します。ここでは、砂粒を球形として取り扱います。
- 地震が来なければ:砂粒同士が隙間を伴いながら緩くかみ合い、その隙間は水で満たされています。地盤は砂粒同士が接触していることで強さを保っています。つまり地盤にかかっている力はすべて砂粒のかみ合いによって支えられている状態です。
- 地震の時は:地震の揺れにより地盤全体が変形すると、砂粒が砂粒間の隙間に落ち込むように動き、砂粒同士のかみ合いが緩み砂粒が水に浮いたような状態となります。するとこれまで、砂粒同士のかみ合いで支えていた力は、砂粒の隙間を埋めている水が受け持つようになり、隙間の水圧が高くなります。隙間の水圧が高くなると、さらに砂粒同士が接触する力を弱めて地盤全体が「泥水」のような状態になります。
- 液状化が発生すると:地上にある建物などの重いものは沈降し、地下の水道管などの軽いものは浮上します。
圧力の高くなった地下水は「噴砂」や「噴水」として地表面に噴き出だします。地震の揺れのあと「泥水」中の土粒子が沈降し地盤が沈下します。
液状化対策技術
■どのように防ぐのか
液状化への対策は、地盤に施す場合と建物や施設に施す場合があります。地盤に施す場合は液状化させないことが基本で、施設に施す場合は液状化しても必要な機能を保つことが基本になります。
一般的な対策方法とその特徴を表に示します。液状化をさせないということは、メカニズムで述べた3つの要因の内、一つを取り除くことを意味します。地震そのものは防ぐことが出来ないので、「緩い砂地盤」と「地下水」に対して対策を講じることになります。
考え方 | 地盤の対策 | 施設の対策 | ||
基本原理 |
地盤を |
地盤を |
地盤から |
杭などを強化 |
適用対象 |
新設構造物 直下地盤 |
新設構造物 既設構造物 直下地盤 周辺地盤 |
新設構造物 既設構造物 直下地盤 |
構造物基礎 岸壁 など |
一見すると、対策方法は明確で簡単なように見えます。しかしながら、いずれの対策工法もこれから建設する場合であれば適用も容易ですが、既に建物が建っている場合などは、その下の地盤を補強することは容易ではありません。
既存の建物や施設直下の地盤に施工できる工法もありますが、特殊な機械を使用すること、建物や施設に影響を与えないように計測管理や防護措置が必要になることから、一般に新設時の工事と比較して大幅にコストアップします。
大林組の液状化対策技術
上述のように液状化現象の対策方法は明確ですが、対策するためにはさまざまな制約条件がある場合が多く、一般的な対策工法を採用できないようなケースがあります。例えばコンビナートのような敷地面積が広く、対策のためとはいえ施設の操業を止められないようなケースも考えられます。 大林組ではボーリング調査などの地盤データに基づき、施設内で液状化リスクが高いところを可視化し、施工条件などの制約条件にも対応可能な対策工法を高度な解析技術や実験技術を用いて提案することが出来ます。
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高度な解析技術の例
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高度な実験技術の例
■対策工法
- ※1 N値とは、所定の方法で地盤に差し込んだ鉄製の棒状器具を用いておもりを落下させ、一定の深さに打ち込むために必要な落下回数を表したものです。
- ※2 N値が大きいほど地盤が硬いことを意味します。目安として、軟弱な砂地盤はN値が5以下で、大きな建物を建てるときに杭が不要なほど硬い砂地盤はN値30以上です。
- ※3 粘土地盤では液状化は発生しません。
- ※4 2011年の東北地方太平洋沖地震や、2024年の能登半島地震では、震度5弱の地域で大規模な液状化が発生しました。揺れの長さはマグニチュードに比例するので、マグニチュードの大きな地震では揺れる時間が長くなり、液状化が発生する可能性が増えます。