自然災害の多い日本において、ダムをはじめとするインフラ構造物の整備は必要不可欠だ。しかし、現状では建設業における熟練技能労働者の高齢化や新規入職者数の減少による技能力の低下、人手不足などが懸念されている。大林組では、長年のダム建設で蓄積してきた施工技術とICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)といったデジタル技術を融合し、生産性と安全性の向上、品質管理の高度化を図っている。実証現場となっているのは、三重県伊賀市の川上ダムだ。
計画から50年。完成が待ち望まれるダム
川上ダムの建設が進む上野盆地は、木津川、服部川、柘植川の合流直後に川幅が狭まる岩倉峡があり、昔からたびたび洪水による浸水被害を受けてきた。その一方で、伊賀市は既存の水道水源だけでは安定した取水の確保が難しいという課題を抱えている。
川上ダムは、洪水被害を軽減し、安定した水道用水を確保するために計画された。1967(昭和42)年に予備調査を開始して、50年経った2017(平成29)年、工事に着手。現在は、ダム堤体の基礎掘削を終え、コンクリート打設を進めている。発注者のみならず、地域からも早期完成を切望されている。
施工上の最大の課題は、ダム本体のコンクリート打設の工期が短いことだ。現場では、工期短縮や品質確保のためのさまざまな工夫を行っている。
あらゆるプロセスをデジタル化し、遠隔、自動、自律化を導入
ダム建設には、土工、河川、トンネル、道路、橋梁、コンクリートなど、土木工事のあらゆる要素(工種)が含まれる。ダム建設に多く携わってきた大林組では、それらの経験と情報化施工技術を集約した「ODICT™(オーディクト:Obayashi-Dam Innovative Construction Technology)」を構築。あらゆる段階で施工の効率化を図っている。
準備工事では、地上の形状をドローンで3次元測量して作業時間を削減。定期的な測量により、CIM(Construction Information Modeling/Management)で構築する3次元情報と現況に相違がないかを確認した。
急斜面で複雑な形状ののり面の基礎掘削工事では、オペレーターの効率的な作業のために、マシンガイダンスやマシンコントロールといったガイド機能を搭載した建設機械を導入。施工の目印として設置する丁張りが不要となるため、作業員の待機時間の削減と安全性が確保できた。
コンクリート約45万m³を打設するダム本体工事では、打設位置(運搬先)を指示するとタワークレーンがコンクリートを自動で運搬するシステムや、コンクリートの締固めを振動解析で最適に判定するシステムなど、工事全体で遠隔化、自動化および自律化の技術を多く採用している。
加えて、5年という長期間にわたるダム建設の膨大な情報を効率良く利活用するために、CIMとクラウドサーバによる一元管理システムの構築にも取り組んでいる。大林組のi-Construction推進のモデル現場として蓄積、改善されたノウハウは、ダムに限らず多様な工事に展開されていく。
川上ダムで活かされる大林組ダム情報化施工技術「ODICT™」
- ドローンを使用して地形を写真測量
- 3次元モデルであらゆる情報を管理するCIM(Construction Information Modeling/Management)
- 建設機械のオペレーターを衛星システムでサポートするマシンガイダンス、マシンコントロール
- 建設機械を無人で運転する汎用遠隔操縦装置「サロゲート®」
- 三次元画像処理設備による地盤材料の連続粒度管理手法
- 赤外線カメラを用いた車両管理システム
- 骨材の表面水を正確に補正する計量システム「コンクリート製造名人」
- ダムコンクリート自動運搬システム
- タワークレーンを用いたコンクリート自動運搬システム
- ダムコンクリート締固め判定システム
- コンクリートの高遮熱性湿潤養生「アクアサーモ®」
- 作業員向け体調管理システム「Envital®」
- 盛土の締固め度をリアルタイムに判定する「αシステム」
- 運土管理の省力化と工事車両の安全運転 「トータル運行管理システム」
- AIを活用した画像解析によるひび割れ自動検出技術
コンクリート自動運搬を可能にした設備配置
約45万m³のコンクリートを効率的にダム本体に打設するため、コンクリートを練ってすぐ打設できる体制にした。材料は、調整ビン(3)からコンクリートを製造するバッチャープラント(1)へ全長約1kmのベルトコンベア(2)で運搬。車両への積み替えを少なくし、品質と工程の確保を実現した。さらに、設置するタワークレーン2基を計画時より大型化することで、一度に打設できる量を増やして工期短縮をめざした。
周辺環境との調和
建設場所には特別天然記念物のオオサンショウウオをはじめ、希少な動物や植物が生息・生育している。そのため準備工事の際に生息調査を実施し、川への濁水の流出防止や場内道路の清掃などを徹底して行っている。
注目が集まるこの現場では多くの見学会が行われる。また、大規模工事の全貌が見えるよう、発注者が堤体右岸側に展望台を設置。さらに川上ダムのウェブサイトでは工事状況がライブカメラで配信されている。
2019年12月15日には無事定礎式を迎え、式典には、国土交通省関係者、県副知事、近隣小学校の児童クラブの子どもたちなど約300人が参加した。大林組のダム建設の未来をも担う工事は完成に向けて着実に進んでいる。
(取材2019年12月)
工事概要
名称 | 川上ダム本体建設工事 |
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場所 | 三重県伊賀市 |
発注 | 水資源機構 |
設計 | 水資源機構 |
概要 | 重力式コンクリートダム(堤高84m、堤頂長334m、湛水面積1.04km²、総貯水容量3,100万m³)、提体基礎掘削工16万7,430m³、提体コンクリート工45万4,990m³、減勢工1万5,730m³、左右岸端部処理工1,660m³、基礎処理工(コンソリデーショングラウチング4,982m、カーテングラウチング9,670m) |
工期 | 2017年9月~2023年3月 |
施工 | 大林組、佐藤工業、日本国土開発 |