生物多様性の保全

大林組では、事業活動の研究開発、設計、施工、保守などの各フェーズにおいて建設現場や周辺地域における環境負荷の回避または低減に取り組むとともに、多様性に富んだ生態系を保全・創出する技術開発に取り組んでいます。

生態系の保全

建設工事の着工前には、営業部門が環境リスクに関するチェックシートを作成し、着工会議などにおいて関係者へ保全すべき生態系などについて情報共有を行っています。計画地においては、必要に応じて事前調査を行い、保全対象種の生育生息状況の確認を行います。代替地の整備や保全対象種の移植・移動などの保全計画を立案し、その保全計画に基づいた施工計画を立て、確実な保全対策を実施します。施工中および竣工後には、保全対象種の生育生息状況についてモニタリング調査を行い、必要に応じてさらなる環境整備を実施します。

※開発を行う際に、環境への影響を最小限に抑えるための代替となる処置を行うこと

生態系保全に向けた取り組み事例

ビオトープの整備・維持管理

大林組JVが施工した山梨県市町村総合事務組合立一般廃棄物最終処分場(かいのくにエコパーク)建設工事では、2018年に生物・自然環境の保全を目的としてビオトープ(※1)を2ヵ所整備しました。大林組を含むJVでは竣工後20年間の維持管理を請け負っており、事業地周辺での生息が確認されたホタル類、トンボ類、カエル類などを保全対象とし、継続的に維持管理と生物相調査を行っております。計画地の地形と周囲の植生などの特徴を活かして、池やせせらぎ、湿地、草地などをビオトープに配置することにより、生物の生息環境の多様性確保に努めました。調査の結果、保全対象とした生物は毎年確認ができており、環境条件の異なる2ヵ所のビオトープ整備と定期的な管理によって、事業地周辺の生物多様性の維持向上につながっていることが確認できました。

※1 ギリシャ語のbios(生命)とtopos(場所)を組み合わせた造語で、「生きもの(動植物)が生息する空間」のこと

クマタカなどの希少猛禽類の保全

大林グループの大月バイオマス発電の発電所建設では、環境省レッドリストで絶滅危惧種に指定されているクマタカの営巣地が計画地近くにあったことから、クマタカの敏感度が最大となる抱卵期(2月~6月)は大規模な工事を避け、建設機械の集中稼働を低減し騒音レベルを抑制するなど、繁殖期に配慮した工程で工事を行いました。
工事中のモニタリング調査では、騒音などの工事の影響により、クマタカが工事箇所を注視し警戒声を発するなどの異常行動は見られませんでした。また、供用開始後3年間のモニタリングにおいて、クマタカが3年連続で繁殖に成功したことを確認できました。

絶滅危惧種キンランと雑木林の保全

大林組では1998年から、雑木林や国内絶滅危惧Ⅱ類のキンランなどを保全するため、大林組技術研究所内のキンランの個体数や分布、生育状況などのモニタリングを実施しています。ササやつる草を適度に刈り取り、落枝や倒木を除去するなど、林床を明るく、風通しをよくすることは、雑木林だけでなく、栄養を与える菌類にとっても適度な環境を保つことになります。24年間管理を継続することで、キンランの個体数は233個体から727個体に増加しました。

六花の森再生プロジェクト

北海道帯広市に程近い株式会社六花亭の製菓工場建設プロジェクトにおいて、1997年から敷地調査を始め、計画地周辺の豊かな自然環境に調和した工場づくりをめざし、10年の歳月をかけて約10haの広大な土地を「六花の森」として再生しました。
河川跡を再生してせせらぎと池を作り、水辺の草花や水辺を囲む緑の回廊を作りました。水辺には植物が蘇生して、小動物も集まるようになりました。

洋上風力基礎設置による周辺海域の魚類への影響調査

洋上風力の設置による周辺海域の魚類への影響を把握するため、実証実験で設置した洋上風力発電施設の基礎である「スカートサクション®」の施設周辺において、自社開発した水中点検ロボット「ディアグ®」や環境DNA(※2)を用いた生息魚類の調査を行いました。調査の結果、基礎が漁礁のような役割を果たし、イシダイやマダイ、ホッケなど沿岸域の魚類が集まってきていることを確認しました。また、基礎部には、ゴカイやヨコエビ、カニなどの魚の餌となる生物も観察され、魚の餌場となっている可能性も示されました。

※2 生物の体液やふんなどから水中、土壌中、空気中などの環境中に放出されたDNA

保有林の維持管理

大林グループでは、林野庁から認可を受けて約450ヘクタールの森林を維持管理しています。樹木の下の雑草などを刈り取る「下刈」や、適当な間隔で木を伐採する「間伐」、幼齢林のために不要な樹木を切り除く「除伐」などで管理し、健全な森林生態系を維持しています。

生物多様性の創出

大林組では、生態系の保全だけではなく、生態系評価技術により生物多様性の創出にも取り組んでいます。

主な生態系評価技術

開発や建設計画地の生物多様性を確保または回復させ、自然環境の質の向上を目的とする生物誘致環境評価システムです。
計画地の自然環境特性や生物情報データベースから、対象地の潜在的な生物環境特性を評価。それをもとに、計画地に呼び込むことができる生き物の抽出とその誘致方法を示すことができます。

都市の緑地において、生物が好んで訪れる場所や移動経路を予測し、見える化できる技術です。実際に、鳥、トンボ、チョウが留まっ た場所や移動した経路の環境条件を、地域や季節ごとに詳細に調査した結果に基づいています。緑地の設計前に生息地評価モデルを活用することで、生物が出現しやすい環境を創出することができます。

生物多様性の創出に向けた取り組み事例

都市の屋上緑化(なんばパークス

大阪市の再開発複合施設「なんばパークス」の屋上庭園約1万1,500m²のほぼ半分の面積で、約500種、約10万株の樹木・草花、鳥類34種、昆虫類152種の豊かな生き物環境を形成し、都市の中に人と生物が共存する場を創出しました。
また、緑が都市環境にもたらす効果を確認するため、サーモグラフィーによる熱環境評価をはじめ、夏の微気候(樹林による冷却)、省エネルギー、CO2固定などを調査しています。

都市の屋上緑化(oak omotesando

大林組が開発した「生物の生息地評価モデル」を活用して、鳥が好む要素を配置し、都市を巡る鳥の休憩地となるよう整備しました。屋上緑化単独としては初となるJHEP認証(※3)を取得しています。

※3 公共財団方針日本生態系協会による、生物多様性の保全への貢献度を、客観的・定量的に評価、認証し、可視化できる国内唯一の認証制度

鳥類調査

都心に緑地が整備されることにより都市の生物多様性が向上しているかどうかを検証するため、大林組施工物件である赤坂インターシティAIR品川インターシティなどを含む複数の緑地や街路において鳥類調査を実施しました。
調査の結果、整備した緑地では、メジロやシジュウカラなどの鳥類が多く出現しており、都市の生物多様性の向上に一定程度寄与していることがわかりました。

草原生植物を使った緑化試験

大林組技術研究所では、日本において急激に減少している草原生植物に適した施工条件や管理条件を明らかにするため、草原生植物を使った緑化試験を行っています。また、スマートフォンアプリを使った市民参加型の植物分布調査を株式会社バイオームに委託し、緑化に使う苗や種子の適切な採取場所を選定するためのデータ取得実験も行っており、顧客への緑化の提案に向けた技術確立をめざしています。

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