気候関連の情報開示(TCFD提言に基づく開示)

大林組は、長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、2040~2050年の目標の一つとして「脱炭素」を掲げ、大林グループおよびサプライチェーン全体で持続可能な社会の実現に向けた取り組みを進めています。足元ではこのビジョンの実現をめざし、CO2排出量の削減など「環境に配慮した社会の形成」をESG重要課題に設定するなど、地球温暖化防止に向けた事業活動を展開しています。

2020年7月には「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」提言への賛同を表明。気候関連のリスクと機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える中長期的なインパクトを把握するため、シナリオ分析を実施のうえ、2020年11月にTCFD提言に沿った気候関連の情報を開示しました。

開示については、ISSB「IFRSサステナビリティ開示基準」の公開や有価証券報告書でのサステナビリティ情報開示の義務化など、社会からの要請に応じて、2024年4月に情報を更新しています。

TCFD推奨 気候関連情報開示項目

ガバナンス 戦略 リスク管理 指標と目標
気候関連のリスクおよび機会に係る組織のガバナンス 気候関連のリスクおよび機会が組織の事業・戦略・財務計画に及ぼす実際の影響および潜在的な影響 気候関連のリスクについて組織が特定・評価・管理する手法 気候関連のリスクおよび機会を評価・管理する際に使用する指標と目標

ガバナンス

大林組は、サステナビリティ課題に対する取締役会の実効的な監視・監督・関与を目的として、環境・社会のサステナビリティ課題に関する取締役会の諮問機関として「サステナビリティ委員会」を設置し、検討議論を行う体制としています。このサステナビリティ委員会は、代表取締役社長 兼 CEOを議長としサステナビリティに関する専門性・経験を有する社外取締役などにより構成しており、気候関連課題を含むサステナビリティ課題の特定、特定したサステナビリティ課題の対応方針の検討および提言ならびに執行における実施状況のレビュー(気候変動関連目標の達成度の管理を含む)を行っています。サステナビリティ委員会での議論を踏まえて、ESG経営推進およびSDGs達成のための経営方針が取締役会にて決定されます。



業務執行側においては、経営会議のもと、代表取締役社長 兼 CEOから委嘱をうけた経営計画委員会および同委員会に設置する環境経営専門委員会において、取締役会が決定した経営方針に沿ったグループ一体での施策の立案、推進および実施状況の把握を行う体制としています。

気候変動に関するガバナンス体制

組織 組織概要 活動概要
取締役会
  • 各取締役で構成
  • 年15回程度開催
  • 気候関連リスクおよび機会に関する監督
サステナビリティ委員会
  • 議 長:代表取締役社長 兼 CEO
  • 構成員:社外取締役など
  • 事務局:グローバル経営戦略室
  • 年2回以上開催
  • 気候変動を含むサステナビリティ課題の対応方針の検討および取締役会への提言ならびに執行における実施状況の評価などを実施
経営会議
  • 議 長:代表取締役社長 兼 CEO
  • 構成員:各本部長などの執行役員
  • 事務局:グローバル経営戦略室
  • 年30回程度開催
  • 気候変動を含むサステナビリティ課題に関する重要事項の報告、審議、指示、決議
経営計画委員会
  • 委員長:経営計画担当役員
  • 委 員:各本部長など
  • 事務局:グローバル経営戦略室
  • 年12回程度開催
  • 気候変動を含むサステナビリティ課題に対する執行方針の策定および進捗の管理
環境経営
専門委員会
  • 経営計画委員会に設置
  • 委員長:環境担当役員
  • 委 員:本社各部門の環境責任者
  • 事務局:環境経営統括室
  • 年2回以上開催
  • 「大林グループ環境方針」に基づく戦略の策定や環境経営の推進、環境マネジメントシステム(EMS)に基づく活動実績の把握・評価および次年度以降の目標設定ならびに活動の推進
環境担当部門
  • 本社および各本支店(環境担当部門)
  • グループ会社(環境担当部門)
  • 環境経営専門委員会が設定した実施計画や目標に基づき、本社および各本支店ならびにグループ会社各社が具体的な活動を推進

取締役の報酬との連動

取締役の報酬の一部である中長期業績連動株式報酬について、支給額算定の基礎となる業績指標としてCO2排出削減量を含むESG指標を採用しております。


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戦略

大林組は、「Obayashi Sustainability Vision 2050」を策定し、大林グループのサステナビリティの実現に向けた課題の特定と具体的なアクションプラン及びKPIを設定しています。また、同ビジョンに基づき2050年の「あるべき姿」実現に向け、カーボンニュートラルを中期的な重点テーマに設定しています。

気候変動に関するリスク及び機会については、気候変動関連問題が事業に与える中長期的なインパクトを把握するためシナリオ分析を行い、以下のとおり特定・評価しています。


リスクおよび機会の特定


大林グループは、事業・戦略・財務計画の検討を行う際に、短期(3年以内)・中期(~2030年)・長期(2031年~2050年)の気候関連リスクおよび機会による影響を判断する一連のプロセスの中で、気候変動の影響についても考慮しています。影響度は大(100億円以上)・中(10億円以上100億円未満)・小(10億円未満)の3段階で評価しています。

  • 短期のリスクおよび機会:
    顕在化しつつあるリスクおよび機会について、半年ごとに開催する環境経営専門委員会で環境保全に係る重点施策の見直し、目標水準の修正を実施します。
  • 中期のリスクおよび機会:
    中期経営計画およびローリングプランで適宜詳細な分析を行います。また、シナリオ分析実施時に2030年を想定したリスクおよび機会を特定しています。以下「シナリオ分析」に詳細を記載。
  • 長期のリスクおよび機会:
    必要に応じて長期ビジョン「Obayashi Sustainability Vision 2050」の見直しを実施します。

シナリオ分析

  • TCFDの提言に基づき、リスクおよび機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える中長期的なインパクトを把握するため、シナリオ分析を実施しました。
  • 分析においては、産業革命前に比べ2100年までに世界の平均気温が4℃前後上昇することを想定した4℃シナリオと、1.5℃前後上昇する1.5℃シナリオを採用し、各シナリオにおいて政策や市場動向の移行(移行リスク・機会)に関する分析と、災害などによる物理的変化(物理リスク・機会)に関する分析を実施しました。使用したシナリオのうち代表的なものは以下のとおりです。

        【移行リスク・機会の分析に使用した主要シナリオ】

    • 4℃シナリオ:IEA(※1)によるStated Policy Scenario(STEPS)(※2)
    • 1.5℃シナリオ:IEAによるNet Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)(※3)

        【物理リスク・機会の分析に使用した主要シナリオ】

    • 4℃シナリオ:IPCC(※4)によるRCP8.5(※5)
    • 1.5℃シナリオ:IPCCによるRCP1.9(※6)
    • ※1 国際エネルギー機関(International Energy Agency)。エネルギー安全保障の確保、経済成長、環境保護、世界的なエンゲージメントを目標に掲げる国際機関であり、エネルギー政策全般をカバーしている
    • ※2 現時点で各国が公表している環境政策は実現されるが、COP21パリ協定の長期目標は達成されず、2100年までの気候変動による気温上昇が産業革命以前に比べて4℃程度生じることを想定したシナリオ
    • ※3 世界のエネルギー部門が2050年までにCO2ネットゼロを達成し、2100年までの気候変動による気温上昇が産業革命以前と比べて1.5℃に抑えられるシナリオ
    • ※4 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)の略称で、人為起源による気候変化、影響、適応および緩和方策に関し、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行うことを目的として、1988年に世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された組織
    • ※5 温室効果ガス排出量抑制の対策が取られず、産業革命時期比で2.6~4.8℃の気温上昇が生じることを想定したシナリオ
    • ※6 温室効果ガス排出量抑制の対策が取られ、気温上昇を産業革命時期比で1.5℃に抑えられる可能性が高いシナリオ

シナリオ分析結果のまとめ

  • 分析の過程では各シナリオに対して、気候変動に関連するインパクト要因を洗い出し、約30の項目について事業への影響度を定量的かつ定性的に検証し、評価しました。その内、事業へ大きな影響を与えるリスクとして「脱炭素化政策および法規制の強化」、「夏季の気温上昇」、「自然災害の激甚化」、機会として「省エネルギー・再生可能エネルギー技術のニーズ拡大」、「国土強靭化の取り組み」を特定しています。影響時期は、政府や国際機関の動向を踏まえ、各項目のリスクと機会が強く発現すると考えられる時期を想定し、設定しています。
  • 分析の結果、1.5℃および4℃いずれのシナリオにおいても、特定した気候関連リスクには対応可能であり、戦略のレジリエンスを有していると考えています。
  • 低炭素資材(クリーンクリート®、電炉鉄骨、木造・木質化建築など)の利用促進のため、インターナルカーボンプライシング(ICP)を導入しています。ICP単価は外部の市場単価予測や低炭素資材によるCO2削減単価などを参考に10,000 円/t-CO2と設定していますが、市場単価の変動等にあわせて適宜見直しを行う予定です。今後、CO2排出量の削減効果の見える化や導入実績現場の評価、計画段階での低炭素資材の利用促進に活用していきます。
  • 今後、特定したリスクおよび機会への対応策を中期経営計画に織り込むとともに、気候変動を含む中長期のリスクおよび機会を特定・評価・管理する機能を強化し、大林グループの事業機会の増大と組織的なレジリエンスのさらなる向上をめざします。
                                                                   
項目 2030年における影響(※1) 影響時期(※2) 対応策 関連ページ
概要 4℃
シナリオ
1.5℃
シナリオ
移行 リスク 脱炭素化政策および法規制の強化
(炭素税の導入など)
  • 建設工事などの事業活動により排出されるCO2に対して課税され、コストが増加する。(※3)
  • 再生可能エネルギーの導入により、施工に必要なエネルギー価格が上昇する。(※4)
  • エネルギー消費が多い建設資材の価格が上昇し、調達コストが増加する。
中~長期 施工段階における省エネルギー推進
(省燃費、省電力)
a
施工段階におけるCO2削減
(軽油代替燃料、再エネ電力の導入)
a
サプライチェーンとの協働による建設機械の脱炭素化
(ハイブリッド建機、電動建機など)
a
再生材および低炭素型資材の活用、建設廃棄物のリサイクル率向上 a,b
木造中高層建築に係る設計・施工技術の確立および国産木材に関するサプライチェーンの強化c,d
機会 省エネルギー・再生可能エネルギー
技術のニーズ拡大
  • ZEBなどの低炭素建築物への需要が増加する。
  • 既存のエネルギーから再生可能エネルギーへの置き換えが進む。
  • グリーンビルディング認証に対応したオフィス需要が拡大する。
短~長期 ZEBなどの環境性能に優れた高付加価値な建築物の供給 a
ZEB技術、低炭素型資材(低炭素型コンクリートなど)の開発・実用化推進 a
カーボンニュートラルや木造木質化建築などの専門組織による提案力・営業力の強化 e
再生可能エネルギー事業や水素事業、PPA事業の推進と知見の活用 f
保有技術を生かした既存施設のバリューアップや省エネルギー改修の営業強化 g
物理的 リスク 夏季の気温上昇
  • 建設現場の作業者の熱中症をはじめとする健康リスクが増大する。
  • 建設現場の就労環境悪化により作業者不足が深刻化する。
中~長期 作業員の安全に細心の注意を払った施工プロセス管理 h
省力化技術・ICTを活用した生産性・施工安全性の向上 i
熱中症対策や働き方改革などによる建設現場の就労環境改善の推進 h
作業員の入職・定着率向上や、協力会社の事業および技術の継承支援に向けた取り組み推進 j,k
自然災害の激甚化
(台風・豪雨・洪水など)
  • 風水害の増加により、工事中の建設物などへの被害や作業の中断、建設資機材のサプライヤー被災などへの対応リスクが高まる。
  • 保有不動産の自然災害リスクが高まる。
中~長期 サプライチェーンとの強固なネットワーク構築による災害時のBCP対応力の強化 l
ハザードマップやICTを活用した災害対策の推進
環境性能、防災性能、事業継続性能の向上を実現する再開発事業の推進 m
機会 国土強靭化の取り組み
  • 防災・減災、国土強靭化のためのインフラ建設や維持修繕の需要が拡大する。
短~長期 防災・減災、強靭化技術の開発・実用化推進 n
インフラ建設や維持修繕に対する営業強化 o
ICTを活用した調査・点検から評価・診断、補修・補強工事までのワンストップビジネスの推進 o
  • ※1 影響度:大(100億円以上)、中(10億円以上100億円未満)、小(10億円未満)
  • ※2 時間軸:短期(3年以内)・中期(~2030年)・長期(2031年~2050年)
  • ※3 炭素税は日本、北米、アジア、その他に区分し単価を想定し試算
  • ※4 電力価格は日本、北米、アジア、その他に区分し単価を想定し試算

(これらのシナリオ分析結果は、将来予測ではなく、気候変動に対する戦略のレジリエンスを検討するために実施しています。)

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リスク管理

大林グループは、企業活動に伴うリスクの的確な把握とその防止、または発生時の影響の最小化に努めることが、企業価値の向上とステークホルダーに対する社会的責任を果たすことにつながると考え、グループ全体を包括するリスク管理体制を構築しています。

重要な意思決定事項に関しては、取締役会・経営会議に付議し、個別事案ごとにリスクを抽出・評価のうえ、リスクが顕在化した場合の影響を最小化するための対策が妥当であるかについて議論し、意思決定を行っています。気候関連のリスクを含む環境・社会のサステナビリティに関するリスクについては、「サステナビリティ委員会」でリスク及び機会を抽出し、相対的に評価のうえ、サステナビリティ課題の特定及びその対応方針の検討を行うとともに、執行における実施状況を評価し、その結果を取締役会に報告しています。

各部門においては、業務プロセスに内在するリスクを把握し、必要な回避策・低減策を講じたうえで業務を遂行するとともに、機能別リスク管理委員会及びサステナビリティ分野専門委員会(気候変動関連リスク:環境経営専門委員会)がリスク情報の報告を受け、本支店・グループ会社に対し指示・監督しています。また、監査役会および内部統制監査室が、各部門のリスク管理状況を監査しています。

今後はさらなるリスク管理の高度化をめざし、リスク管理体制の強化を進めます。

リスク管理体系図

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指標と目標

大林グループは、Obayashi Sustainability Vision 2050で掲げる「脱炭素」実現に向け、温室効果ガス(CO2)排出削減目標を設定し、事業活動におけるCO2排出削減の取り組みを推進しています。

CO2削減目標を確実に達成するため、SBT(※1)にコミットし、2022年10月に認定を取得しました。

  • ※1 Science Based Targetsの略称で、気候変動などによる気温上昇を2℃未満に抑えるというCOP21パリ協定の長期目標達成に向けて、企業が科学的根拠に基づいて設定する温室効果ガス排出削減目標

CO2削減目標と実績(連結)(※2)

                                              

(単位:千t-CO2)

対象Scope(※3)・指標 基準年 実績 目標年
2019年 2022年2030年2050年
Scope1+2 総排出量
削減率
377.5 286.2
▲24.2%
203.1
▲46.2%
0
▲100%
Scope3

(カテゴリ1+11)

総排出量
削減率
4,588.4 3,783.2
▲17.5%
3,326.6
▲27.5%
-
  • ※2 国内外のすべてのグループ会社を対象としています
  • ※3 Scope1:企業活動からの直接排出
  • Scope2:企業活動でのエネルギー(電力、熱など)利用に伴う間接排出
  • Scope3カテゴリ1:購入した製品・サービス
  • Scope3カテゴリ11:販売した製品の使用

CO2排出削減に向けた目標と施策のロードマップ

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