大林組80年史

1972年に刊行された「大林組八十年史」を電子化して収録しています。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

明治維新はわが国空前の変革と称されますが、現在わたくしどもが当面している転換の時代は、その規模が世界的である点において、これにまさるというべきではないでしょうか。その激動の時期に際し、「大林組八十年史」が刊行されますについては、わたくしとして特別な感慨をもたないわけにまいりません。

大林組が創業しました明治二十五年(一八九二)は、あたかも日本近代産業の揺籃期に当たり、富国強兵がようやく緒についたころであります。その後、日清、日露の両戦争と第一次世界大戦を経て、わが国はアジアにおける唯一の工業国として発展し、さらに第二次世界大戦による敗北の試練を越え、いまや経済大国とよばれるまでに国力を増大しました。その間八十年、大林組もほぼ国の歩みに合わせて成長したのでありますが、そのたどった道は、けっして平坦ではありませんでした。

創業者大林芳五郎は他の先輩業者とことなり、部外から志を立てて業界に入り、生を終わるまで二十五年の短期間に、大林組の基礎を築いたのであります。これにはなみなみならぬ苦心があったと想像されますが、それを可能ならしめたのは、常に時代を先見する洞察力、仕事に対する情熱、みずから問題を提起して積極的に取組み、勇気と決断をもってこれに対処した行動力など、創造的な開拓者精神によるものであったと考えます。また、社会に対する使命感が強かったことも、周辺の支持を得られた原因と思いますが、これらとともに白杉現相談役、故伊藤哲郎さんをはじめ、多数のよき協力者が結束し、助けてくれたことも忘れることができません。

この創業の精神と内部の固い団結は、大林組の伝統として受けつがれ、現代にいたっております。そしてその間さらに、建設業者が生命とする技術の向上、誠意ある施工、公正なる競争などをもって社会の信用を博し、その積み重ねによって今日あることを得ました。これまでいくたびかの危機に際会しながら、よくそれを乗り越えられたのは、これらの伝統をつくり、それを守り育てた先人たちの力にほかならないと存じます。しかしながら時代の流れは早く、一瞬の停滞をも許さない現状において、わたくしどもはそこに安住してはなりません。これら先人の労に感謝するとともに、その貴重な遺産を踏まえ、さらに前進しなければならないのであります。

いまや時代は転換期を迎え、建設業界も変貌をせまられつつあるかにみえます。対象となるプロジェクトは、より大規模となり複雑化するでありましょうし、またこれまでの産業優先から、人間尊重、環境保全の方向に軌道が修正されるものと思われます。したがって、この新情勢に対応するためには、技術の開発はもとより経営方針の根本にいたるまで、新たなる発想によらねばならないと信じます。

その激震の時代に当たり、「大林組八十年史」が編纂されました。これによってわたくしどもは、大林組の歩んだ道を知ることができるのでありますが、この書を刊行する目的は、いたずらに過去を回想することでなく、これを鏡としてみずからの戒めとすると同時に、新たなる出発の道標としたい願いからであります。幸いにその意図をおくみとりいただけるならば、まことに望外のよろこびと存ずるしだいであります。

昭和四十七年九月
社長 大林芳郞

社長 大林芳郎
社長 大林芳郎
初代社長 大林芳五郎
初代社長 大林芳五郎
二代社長 大林義雄
二代社長 大林義雄
本店
本店
東京本社
東京本社
大阪大林ビル(昭和47.9 撮影)
大阪大林ビル(昭和47.9 撮影)
大阪大林ビル(昭和47.9 撮影)
大阪大林ビル(昭和47.9 撮影)
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