第六節 創業七十年を迎える
大幅増資―資本金四〇億円へ
昭和三十五年(一九六〇)七月、岸内閣のあとをうけて成立した池田内閣は、同年末にいわゆる所得倍増計画を公表した。これは技術革新にもとづく生産性向上によって輸出の振興と国内消費の増大をはかり、年率一〇%平均の経済成長を継続して、十年間に国民総生産の倍増を達成しようとする政策であった。そのため、政府は公定歩合を引下げて金融を緩和し、公社債投信を発足させて起債を急増させ、公共投資の増大をはかるなど、金融財政面で積極姿勢をとった。この政策はかならずしも順調に進まず、国際収支や物価、雇用等の面で不均衡をおこし、ときには金融調整にせまられて不況感を生んだこともあるが、高度成長政策の基調はつらぬかれた。前節までにのべた建設投資の増加、業界の繁栄は、この政策に負うところが多い。
所得倍増計画によって勇気づけられた建設業界は、その第一年である昭和三十六年(一九六一)を、新しい飛躍への年とみた。有力業者二十数社が、東京証券取引所第二部創設を機としていっせいに株式公開を行なったのも、この情勢に対処して資本の増大をはかるためであった。大林組の場合も、昭和三十年度の完成工事高一七〇億六四〇〇万円は同三十五年度に五九四億二六〇〇万円に、利益高(税引き)も二億一〇〇万円から一五億二七〇〇万円と急上昇したが、さらに新たなる発展を期し、昭和三十六年三月、資本金を二四億円から大幅に増資して四〇億円とした。
創業七十年記念行事
この年は、大林組初代社長芳五郎が創業した明治二十五年(一八九二)から数え、あたかも七十年目に当たった。そこで、これを記念する諸行事が十月十日から十一月十四日まで、大阪はじめ全国各地で挙行された。その次第を以下に略記する。
墓前祭
十月十日、午前七時、神戸市東灘区御影の大林邸に大林社長はじめ尚子先代社長未亡人、大林一郎夫妻、大林芳茂夫妻、大林正夫妻、大林哲夫ら大林家の参列者と、副社長徳永豊次、同五十嵐芳雄、専務取締役稲垣皓三、相談役白杉嘉明三、同中村寅之助以下在阪役員、関係会社役員代表が参集、大林家墓地で墓前祭を執行した。導師は大林家菩提寺竜淵寺住職河原秀演師、副導師は阿弥陀寺住職増田善融師であった。
神前祭
十月十日、午前九時三十分、大阪市天王寺区生玉町の生国魂神社に大林社長以下前記大林組役員、関係各部長、関係会社役員代表らが参集、同神社二宮正彰宮司が祝詞を奏上、神前祭を行なった。
記念式典
十月十日、午前十一時、東区馬場町の大阪市立中央体育館で記念式典を挙行した。出席者は大林社長以下前記役員、関係会社役員代表のほか、顧問、各部長、本店および近隣の工事事務所在勤者九二九名に加え招待者として大林家一族、旧役員、関係会社旧役員、後援者、縁故者遺族、三十年以上勤続の在阪旧職員が参加した。
式典は社長の式辞にはじまり、来賓として、後援者遺族代表今西与三郎氏、縁故者遺族代表松尾岩雄氏が祝辞をのべ、旧役員代表鈴木甫、関係会社代表小津利一、就業員代表遠山勇吉がそれぞれあいさつした。つづいて特別功労者四名、四十年以上勤続者九名に対する表彰を行ない、白杉嘉明三、本田登が謝辞をのべたのち、正午から祝宴にうつって午後二時半閉会した。表彰者氏名は以下のごとくである。
特別功労者―白杉嘉明三、植村克己(故人)、中村寅之助、田辺信
四十年以上勤続者―塚本浩、本田登、岩崎甚太郎、宝来佐市郎、大野曽長、高井久治、宮崎茂雄、武田吉太郎、植村利一
またこの日、全国各地の支店および大阪、東京両工作所でもそれぞれ式典を挙行した。支店長、工作所長が社長式辞を代読、従業員代表が祝辞をのべ、つづいて自祝宴をもよおした。各地の会場は以下のとおりである。
東京(丸ノ内産経ホール)、名古屋(観光会館)、福岡(同支店中庭)、仙台(後藤江陽会館)、札幌(市民会館)、広島(建設会館)、岡山(三好野会館)、高松(高松会館)、神戸(オリエンタルホテル)、大阪工作所(所内集会場)、東京工作所(所内講堂)
旧役員招待会
十月十日午後五時から、記念式典に参列した旧役員一五名を東区今橋の料亭灘万に招き、在任中の労をねぎらった。会社側および関係会社からは式典参加の幹部が列席、旧役員を代表して鈴木甫が謝辞をのべた。出席した旧役員は以下のとおりである。
石田信夫、今林彦太郎、小原孝平、上草直清、河合貞一郎、久米保衛、鈴木甫、妹尾一夫、高橋誠一、田辺信、手島政男、西沢藤生、日比安平、牧毅、渡部圭吾
林友会招待会
十月十一日正午、新大阪ホテルに大阪林友会員一〇一名、大阪工作所林友会員三〇名を招待し、社長以下在阪役員、関係各部長が出席し、日ごろの協力に感謝した。つづいて東京(十月十七日 東京会館)、札幌(同十九日 グランドホテル)、仙台(同二十一日 電力ビル)、名古屋(同二十三日 観光ホテル)、福岡(十一月六日 レストラン三和)、広島(同十日 新広島ホテル)、岡山(同十一日 三好野会館)、高松(同十四日 香蘭クラブ)の順で、各地林友会の招待会を開催、大林社長以下幹部が出席した。
得意先招待会
十月十一日、午後三時から、大阪の新大阪ホテルに京阪神の得意先を招待、つづいて十七日には東京(帝国ホテル)、十九日は札幌(グランドホテル)、二十三日は名古屋(観光ホテル)、十一月六日には福岡(博多帝国ホテル)で各地の得意先を招き同様の会を催した。会社からは大林社長以下、役員、支店長、関係部長ら幹部が出席、各地とも官民の諸名士数百名が来会し、盛会であった。
なお、この記念行事に当たり、記念品として得意先関係には内外木材工業製の木製トレイをおくり、従業員は銀杯あるいは木杯を与えられた。また「大林組七十年略史」を発行し、社内および各方面に配布した。