大林組80年史

1972年に刊行された「大林組八十年史」を電子化して収録しています。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

第五章 さらに前進を目ざして―

第五節 技術開発の新傾向―他産業との協力

産業界各分野と提携―共同研究・共同開発

建設業の技術革新が戦後急速に進展し、ことに土木部門において顕著であったことはすでにのべた。これは主として機械化によるものであり、機器メーカーの協力なしには考えられないが、ほかにも軟弱地盤の固結に電気や化学薬品を用いるなど各種産業部門の協力に負うところが多い。ある場合には、建設業者の示唆によって他産業が開発した機器が用いられ、またあるときは、これらとの共同研究によって開発された新工法もある。大林組が開発したOHグラウト工法は地下水の止水に用いられるが、東邦化学工業との共同研究によって生まれたものであり、ヘドロ地盤の処理にシートを使用するファゴットシート工法は、クラレとの共同開発によるものである。建築部門においても、機械はもとより高分子系の建材など、他産業との提携によって得たメリットは大きい。

このように、建設業における技術・工法の発展は、他産業との提携に由来するものが多いが、施工対象がしだいに巨大化し多様化するとともに、この傾向はいよいよ強くなった。戦前のトンネルや橋梁工事は、多くの場合内務省や鉄道省の官庁技師の指導によって行なわれたが、青函トンネル、本州四国連絡橋のごとくプロジェクトが巨大化した現在では、官庁と業者の協力はもとより、産業界各分野の総力を結集して当たらねばならなくなった。

大林組では、昭和四十四年(一九六九)四月、すでに社内に長大橋建設委員会を設け、大橋梁に関する独自の研究を進めてきたが、本州四国連絡橋公団の発足とともに、土木工業協会を中心として建設業界によって構成される研究グループに参加協力している。青函トンネルプロジェクトについても、鉄道建設業協会の一員としてパイロット・トンネルの掘削に参加した。

原子力施設の建設に当たっては機器と建物は不可分であり、関西電力美浜、九州電力玄海の両原子力発電所建設に際し、三菱原子力工業、三菱重工業との緊密な共同作業が行なわれた。現在、無公害のエネルギー源としてLNG(液化天然ガス)が採用される方向にあり、大阪瓦斯は同社泉北工場内に貯蔵用地下タンクを設置すべく計画しているがこれについても石川島播磨重工業と共同し、冷凍技術の研究を進めつつある。

このほか、スウェトー工法の項であげた大クーリングタワーについては、三菱重工業や神鋼ファウドラー等と共同研究を行ない、また生化学の面でも酵素を建材に注入することにより新工法を開発する努力が、武田薬品工業の協力によって進行している。OWSソレタンシュ工法によるオールファウンデーションや、のちにのべるグリップジョイント工法等についても、今後機器メーカーの協力にまつことが多い。

工法関係以外の面においても、建設作業省略化の一環としてNC(数値制御)化のための研究が、立石電機、三菱電機等と共同で行なわれている。未来産業として脚光をあびつつある海洋開発も、建設業が関与する部面はきわめて広い。大林組はこの面でも、昭和四十三年(一九六八)十月、三和銀行系企業一九社とともに三和海洋開発研究会を結成し、毎月研究会を重ねてきたが、参加企業は三一社に増加した。さらに同四十六年四月にはこのメンバーのほかに系列外の新日本製鐵、日本鉱業、旭化成等の大企業も加わって、東洋海洋開発株式会社が設立されるまでに発展している。

同社の事業目的は海洋開発機器および装置の賃貸と販売、海洋レクリエーション施設の計画、設計、施工ならびに運営、海洋開発技術の研究、開発および海洋調査、以上に関する情報サービス提供その他であるが、レクリエーション施設建設等の場合は、会社が全体のシステム設計を担当し、個々の仕事は参加各社が分担実施する。当面、昭和五十年(一九七五)に開催される沖縄海洋博のプランニング、本四連絡橋の橋脚工事等を計画しているが、将来は栽培漁業や海底資源開発にまで進出する予定である。海洋開発はきわめて広範囲にわたり、すでに現実の問題となった沈埋トンネルや海上架橋をはじめ、海上空港、海中公園、海上人工都市の建設等、建設業者が担当すべき部面が多い。大林組では早くからこの分野に注目し、長大橋や沈埋トンネル等の施工技術のほか、広島県早瀬、大畠の海域、あるいは伊豆下田の火山岩地帯海底調査など、基礎的研究も重ねてきた。これらの成果は新会社の前途に大いに寄与するものと期待される。

官公庁や大学等の研究所、技術関係諸団体との提携、協力も緊密である。新工法や新材料を開発した場合、これを施工面に実用化するためには、建築基準法の規定によって場合によっては建設大臣の認定を得なければならない。そのときこれら学界と常時協力関係にあることにより、内容がよく理解され、審査や認定も円滑に進められている。

また、建設業者間における技術協力も、共同企業体工事の増加にともない、次第に強化される傾向にある。新東京国際空港ターミナルビルの大屋根をリフトアップしたとき、南、北、中央棟と分担を分けていながら、大林、鹿島、竹中、清水、大成の五社が協力したことなどもその実例である。

先に公害防止関係であげたONS工法は、大林組と日東工業による共同開発であるが、ほぼ同時期に開発された大林ジャンボパイル(OJP)工法も、その特色とする特殊拡底装置は、三菱重工業および三菱建設の協力によって得られたものである。以下にOJP工法と、このころ西ドイツから導入されたグリップジョイント工法について略記する。

OJP工法 OJPは大林ジャンボパイルの略称で、その名が示すとおり巨大な基礎杭の機械化施工工法である。建築物の大型化、高層化にともない、大都市の軟弱地盤上の基礎構築には、大きな支持力のある基礎杭が要求される。これまで大型基礎杭を施工する場合、酸素欠乏による作業員の人身事故がしばしば発生したが、OJP工法は地上からの機械作業で行なうため、この種の事故を完全に防止できる。また、特殊な拡底機を用い、杭の底面積を杭断面積の四倍まで拡大できるため、支持層の土質によっては一〇〇〇トンないし二〇〇〇トンの許容支持力が得られる。この支持力は従来の大型基礎杭のそれをはるかにしのぐものであり、一コラムにつき一ピアの合理的、経済的で、信頼度の高い基礎構造設計を可能とした。軟弱地盤や地下水、被圧水のある場所での作業はもとより、堅固な地盤でも容易に拡底することができ、工期も短縮される。

また、拡底作業にはいる前、ベノト掘削機によってケーシングをさしこみながら最初の支持地盤まで掘削するが、このとき杭底部の土質を目で確認することができるため、傾斜した支持地盤の場合でも深度を誤ることがない。拡底部分の形状は新しく開発した超音波測定機によって自動記録され、拡底掘削の際使用するベントナイト泥水は、大林式泥水管理試験法で化学的管理を行なうから、掘削面の崩壊やスライムの沈澱をおこすおそれもない。OJPは、建物の杭、地下逆打ち工事の仮支柱杭に用いられるが、これは最近の大スパン化、超高層化による柱荷重の増大等に対し、きわめて有効適切な工法である。

この工法は、昭和四十五年(一九七〇)末着工した東京主婦の友第二ビルの基礎工事にはじめて採用され、その後、サンワ東京ビル、日本興業銀行本店ビル工事にも用いられた。

OJP工法による掘削
(日本興業銀行本店工事)
OJP工法による掘削
(日本興業銀行本店工事)
OJP工法による掘削
(日本興業銀行本店工事)
拡底ビット
OJP工法による掘削
(日本興業銀行本店工事)
拡底ビット

グリップジョイント工法 西独のツュプリン社が開発したものを、昭和四十六年(一九七一)十月、同社と技術提携して導入した。異型鉄筋のジョイントに関しては、技術的に多くの問題点が残されていたが、この工法は、大口径から小口径にいたるまであらゆるタイプの異型鉄筋をきわめて簡単に冷間接合する画期的工法で、用途もプレハブコンクリートパネルの接合、プレハブコンクリートパネルと鉄骨本体の接合、地下連続壁と躯体の接合、躯体を分割して施工する場合の鉄筋の接合等、はなはだ広範囲にわたっている。

グリップジョイント工法による接合は、所定の肉厚と長さをもつ円筒状のスリーブの両端から、接合する異型鉄筋の端部を挿入し、特殊な油圧ジャッキを用いてスリーブの外側から一部ずつプレスして締めつけるものである。その結果、スリーブは塑性加工されて鉄筋のフシにからみ合い、引張力、圧縮力にたえるものとなる。この工法によれば、機械的に接合するため熟練が不必要であり、太い鉄筋でも信頼度の高いものが得られる。また、冷間接合であるため火気を禁じられた工場や建設現場には最も適し、口径のことなる鉄筋を接合するときも、鉄筋相互の軸心がはずれることがなく、並列する鉄筋と鉄筋の空間は五センチもあれば接合可能である。さらに鉄筋の一端にあらかじめスリーブをセットしておくことにより、現場作業は簡易となり、鉄筋組立てはいちじるしく省力化される等、在来の工法にくらべ多くの利点をもっている。

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