大林組80年史

1972年に刊行された「大林組八十年史」を電子化して収録しています。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

第五章 さらに前進を目ざして―

第三節 「大阪大林ビル」の新築

東京本社の設置に呼応―本店社屋を新築

大阪天神橋ぎわの大林組本店ビルは、地上六階、地下一階、塔屋一階、総面積四九三〇平方メートルの鉄筋コンクリート造で、大正十五年(一九二六)六月、新築落成した。外観はスパニッシュ風近世式であるが、この様式は当時の副社長大林賢四郎が欧米を視察した結果採用したもので、昭和初年の建築界に新風を送った。また構造も関東大震災の教訓に学び、万全を期した耐震構造となっている。しかし、その後四十余年の歳月が経過し、さらに社業の発展につれ、機構も拡大して多くの部課が新設されたが、これを収容する余地がなく、別館、分館を設けてもなお足らず、周辺に分散を余儀なくされる状態となった。そこで創業八十年を迎えるに際し、かねて要請されていた新ビルの建築が実現をみるにいたったものである。

新ビルは「大阪大林ビル」と名づけられ、昭和四十五年(一九七〇)十二月十六日、関西で最初の本格的超高層ビルであるその建築概要が新聞記者団に発表され、昭和四十六年一月二十三日、起工式とともに起工披露が行なわれた。大阪大林ビルは本店ビルと道路をへだてて相対する東区京橋三丁目三七番地に位置し、土佐堀通と松屋町筋が交差する角の天神橋南詰に建てられる。この立地条件を最大限に生かし、都市機能に適応した市街地づくりに寄与するため、地下三階、地上三二階、高さ一二〇メートルの超高層建築として計画された。

大林組本店現社屋
大林組本店現社屋
大阪大林ビル
敷地面積4,995m2
建築面積1,367m2 延床面積50,292m2
S造(地上部分)およびSRC造(地下部分)
地下3階 地上32階(昭和47年9月 撮影)
大阪大林ビル
敷地面積4,995m2
建築面積1,367m2 延床面積50,292m2
S造(地上部分)およびSRC造(地下部分)
地下3階 地上32階(昭和47年9月 撮影)
大阪大林ビル
大阪大林ビル
大阪大林ビル
大阪大林ビル
大阪大林ビル
大阪大林ビル

地上三二階―西日本最初の本格的超高層ビル

わが国における超高層建築の最初は、この編の第一章でのべたごとく、昭和四十年(一九六五)に大林組の設計施工で完成したホテルエンパイアであり、これが建設省高層建築物構造審査会によって許可された第一号である。このホテルは地上二一階、高さ九三メートルで、構造設計に動的解析を用いた建物として職者の関心を集めた建築であったが、所在が横浜市戸塚の遊園地ドリームランド内にあり、また客室数も六六室と小規模であったため、あとから建てられた東京都心部の超高層ビルとくらべ、それほど世間の話題にのぼらなかった。その後大林組が施工した超高層ビルには海外ではハワイに二一階のサーフライダー ホテルと二八階のプリンセス カイウラニ タワーホテルがあり、またシンガポールでは現に五〇階のシンガポール開発銀行を施工中である。国内においても、一ツ橋総合ビル(一六階)、東京のホテル阪急(同)、札幌市庁舎(一九階)等のごとく超高層的構造のものはいくつも手がけてきたが、この大阪大林ビルは、大林組が国内に示す最初の本格的超高層建築といえる。竣工予定は昭和四十八年(一九七三)三月であるが、その時点では大阪で一、二を争う超高層ビルとなり、ここに発祥した大林組を象徴するにふさわしい偉容が想像される。

敷地面積は四九九五平方メートルであるが、特定街区の指定をうけ、建築面積を二三六七平方メートルとして、周囲には緑の環境を確保した。このオープンスペースは、ビルの利用者のほか、一般市民のいこいの場として提供される。延床面積は五万二九二平方メートルで、容積率は、一五〇台の収容力をもつ駐車場部分をのぞき、八五三%となっている。構造は地上部分が鉄骨造、地下部分は鉄骨鉄筋コンクリート造で、基礎はGLマイナス一三・八メートルの大阪層群の上部砂層にベタ基礎で支持される。

大阪大林ビル(模型)
大阪大林ビル(模型)
大阪大林ビル起工披露
(昭和46年1月23日・ニューコクサイで―)
披露パーティ
大阪大林ビル起工披露
(昭和46年1月23日・ニューコクサイで―)
披露パーティ
大阪大林ビル起工披露
(昭和46年1月23日・ニューコクサイで―)
模型を前に―大林社長と白杉相談役
大阪大林ビル起工披露
(昭和46年1月23日・ニューコクサイで―)
模型を前に―大林社長と白杉相談役

十字形の大架構方式―大林式クロス ストラクチャー

設計は本店設計部が担任、基準階の平面は、中央部に東西に細長くコア部をまとめ、南北に柱のない広い事務室空間を設けて快適な執務空間の確保をはかっている。基本モジュールは一・八メートル×一・八メートルを全館に採用し、この一モジュールを一人当たりの執務空間としてある。外柱のスパンは九メートルとしてあるため、室内からの眺望がすぐれ、高層ビルとしてのメリットが十分に生かされている。外装材には耐火被覆を兼ねてPC版(ショックベトン)のカーテンウォールが採用されているが、防災避難等についても万全の配慮が払われている。

構造計画上の特色は、大林式クロス ストラクチャー(OCS)方式がとられていることである。これはコア内に設けられた耐震壁(リブ付鋼板)を、一六階にある高さ三メートルの大型梁で十字形にささえる大架模型式で、細長い耐震壁の曲げ変形を、外柱の抵抗によって小さくする効果的な架構配置である。耐震壁としては、これまでは鉄筋コンクリート壁が普通であったが、重いうえにもろく、柔構造の変形に十分に追随できない点があるので、このビルでは軽くかつ粘り強いリブ付鋼板が採用されている。これは技術研究所で慎重な実験を重ね、その実用化に成功したもので構造上の大きな特色である。また外周にボックス柱を使用したことにより、大スパン架構に生じやすい剛性不足を補い、十分なよじれ抵抗を確保してある。組立てに要する溶接等には特別の仕口や接合方式を採用し、コストの低減をはかったことも特色としてあげられる。

大林クロス ストラクチャアー(東西断面)
大林クロス ストラクチャアー(東西断面)

無公害の冷暖房施設・二階建のエレベータ

設備計画のうえでは、まず無公害の冷暖房施設とそのための熱エネルギーの効果的利用があげられる。空調および給湯用冷熱源には、重油燃料をいっさい使用せず、全電気式熱回収ヒートポンプ方式を基調として、夏季冷房時にはガスエンジン冷凍機を稼動させる。また夜間電力を活用して蓄熱槽に冷水をたくわえるなど、経済性とともに都市全体のエネルギーバランスを考えた配慮がなされている。

一方、高層ビルの動脈であるエレベータに二階建(ダブルデッキ)を用いたことも大きな特色で、わが国においては他に例をみない。このエレベータは、上下二層が同時に昇降するもので、上のケージは偶数階に、下のケージは奇数階に停止する。これによって、ラッシュ時の利用者を効率よくさばくとともに、エレベータ スペースの節減により事務室などの有効面積はいちじるしく増大された。エレベータは低層用四台、高層用四台のほかに非常用が一台用意され、エスカレータ設備も二台ある。

消火設備は地下一階以上に全館スプリンクラーを装置し、電気室、駐車場等には炭酸ガス消火設備がある。また各種防災関係の中枢として、地下一階に防災センターが設けられている。

ビルの地下一階は社員食堂、車の乗降場、駐車場、貸店舗として使われ、地下二、三階は駐車場、設備機械室、倉庫である。一階は玄関ホール、二階以上二八階までを事務室とし、大林組本店が使用するが、余裕のある部分は貸室として開放される。二九階および三〇階は会議室、展示場、宴会場、レストランとなる。

ダブルデッキ エレベータ
ダブルデッキ エレベータ
鉄骨工事完成
(上棟式・47年4月7日)
鉄骨工事完成
(上棟式・47年4月7日)
仮囲いを利用したPRコーナー
仮囲いを利用したPRコーナー
OBAYASHI CHRONICLE 1892─2011 / Copyright©. OBAYASHI CORPORATION. All rights reserved.
  
Page Top