大林組80年史

1972年に刊行された「大林組八十年史」を電子化して収録しています。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

第五章 さらに前進を目ざして―

第九節 結語―輝かしい未来に向かって

大林組八十年史を終わるに際し、ここに将来への展望を試みたい。

昭和四十七年は、転換の時代といわれる七〇年代の第二年に当たるが、果たして時代の潮は流れを変えた。高度成長の時代は終わりを告げ、重化学工業中心あるいは輸出主導型、GNP第一主義から国民生活の福祉優先、環境の保全、公害を発生させない均衡のとれた経済の発展へと方向を変えた。

わが国建設業界が、戦後目を見はるばかりの発展をとげた理由は、技術の開発、経営の合理化等、みずからの力に負うところも多いが、その基調をなしたものは、いうまでもなく経済の高度成長と歩調を合わせたことである。しかし、いまや時代は転換し、建設業界も大きく進路を変えねばならなくなった。昭和四十七年一月四日、大林社長は年頭の社内訓示において、以下のようにのべている。

(前略)……いずれにいたしましてもわが国は、このような世界の潮流の激しい変化の中で、これまでの経済発展のあり方を謙虚に反省しつつ、これを機会に従来の産業優先、国民総生産第一主義を切替え、人間尊重、国民福祉優先の方向へ経済運営の軌道修正を図り、あわせて国際協調を旨として日中国交回復問題を含め、アジアにおけるそしてまた世界におけるわが国の立場をどのように築きあげてゆくべきか、その方策を真剣にしかも早急に打ち立てなくてはならない事態に立ち至っているのであります。その意味で、本年はまことに重大な年にあたるものと申さざるをえません。……(中略)……そこで今後に処する基本姿勢といたしまして、これからの新しい時代が内外環境や価値観の変化により、量的な拡大よりも社会福祉を基本とする質的な充実に重点をおく時代であることの認識に立って、わたくしどもの発想の転換を図り、社会のどのような変化にも即応しうる柔軟な企業体制の整備拡充をめざして、強力に体質の改善を推進してゆくことが大切であります。そして、新しい社会に対するわれわれの使命と責任を自覚し、建設業を通じて人間中心の豊かな環境づくりに奉仕する考え方に徹し、社会にとって必要な企業としての認識を広めてゆかなくてはなりません。……(後略)……

(「社報」昭和四十七年一月四日 第一号から)

新時代の建設業は、これまでのような土木、建築の設計、施工技術のみを武器として工事を受注し、これを完成させるだけの範囲にとどまってはならない。すなわち、従来のごとく発注者から工事を請負い、これに必要な資材を調達、按配して、ただ目的物を建設するという方式のくりかえしでは、時代の要請に即応することはできない。社会の要求に対し、いかに最適な条件でこたえるかを中心課題として、広く建設工事の諸要素を掘り下げ、これを有機的、立体的にシステム化する独創力を必要とする。また対象となるプロジェクトも、いよいよ大規模化するとともに複雑多様となり、宇宙、海洋、情報、公害防止、工業化住宅等、豊かな人間社会のための未来産業が、本格的な発展段階にはいるといわれる。これに対処するためには、現実を把握するとともに未来を予測し、いかなる社会条件の変化にも即応できる態勢をとらなければならない。

初代社長大林芳五郎の衆にすぐれた資質の一つとして、時代を先見する鋭い洞察力をもったことがあげられる。彼が業界に身を投じた動機は、コンクリート建築など想像もおよばなかった明治二十年代に、早くも都市の高層化を予見したからであった。そして土木、建築が大規模化の傾向を示すと、業界に先がけて大学出の高級技術者を、礼を厚くして迎えた。生駒隧道の難工事をなしとげ、また大阪業者でありながら東京中央停車場の大工事に進出し、社業発展の跳躍台としたことも、このようにして体制がととのえられていたためである。

いま八十年の歴史を回顧すると、大林組の先人たちはこの創業者にならい、絶えず時代に先んずる努力を怠らなかったことが知られる。大正時代にビル建築が開始されると、当時の新鋭機械であるコンクリートエレベータ・タワー、コンクリートミキサ、スチームハンマ等をいち早く輸入し、技術者を海外に送って科学技術の吸収につとめた。テーラー・システム理論をアメリカから導入し、施工計画のシステム化をはかり、今日みられる科学的管理の端を開いたのもこの当時である。この伝統は現代に受けつがれ、いまも脈々と生きている。OWSソレタンシュ工法をはじめ数々の新工法は、これを開発することによって現在の問題点を解決したのみならず、建設工事の将来に多くの可能性を開拓した。大林組技術研究所の使命もここにあり、主目標はむしろ未来におかれている。また東京に本社を設置したことも、転換の時代に処し、きたるべき社会に即応するためにとられた決断であった。

新しい時代の志向する高福祉社会の建設に当たり、建設業に課せられた使命は重い。そして未来に向かっての発展の可能性は無限であるといってよい。大林組の八十年をささえてきたものは、すぐれた人材と強固な組織であるが、常に時代に先行する精神によってつらぬかれてきた。この輝かしい伝統は、たとえ建設業がいかなる変容をとげるにせよ、大林組とともに永遠に生きつづけるであろう。

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