大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

第2章 高度経済成長とともに

「もはや戦後ではない」時代を迎えて

昭和20年(1945)の終戦以降、荒廃と疲弊のなかから出発した日本の経済は、朝鮮動乱に伴う膨大な特需の発生を契機に立ち直り、一進一退はあったものの、30年からは長期の高度成長を続け、経済大国への道をひた走った。

これを支えたのは日本人のすぐれた資質と努力であり、財政投融資をはじめとする諸政策であった。35年12月、「国民所得倍増計画」が池田内閣のもとでつくられ、37年にはわが国初の全国総合開発計画が策定され、拠点開発方式により過密都市問題と地域格差是正を目指した。これによって全国で13の新産業都市と6カ所の工業整備特別地区が指定された。

30年の数量景気{}のあと、30年代には神武景気、岩戸景気と呼ばれる二つのピークをまじえ、40年の不況に至るまで、産業界は設備の近代化投資を競い、石油化学工業や電子工業など成長力を秘めた新しい産業も興隆してきた。

こうした状況を予言したのが、31年版『経済白書』の「もはや戦後ではない」に始まる一連の文言であり、回復を通じての成長が終わり、今後の成長は近代化によって支えられると断言している。設備近代化、技術開発のための投資の原動力は技術革新(イノベーション)とされ、この言葉も初めてこの白書で使われた。

技術革新とは単なる生産技術の革新を意味するのではなく、広く経済生活の領域での「従来と異なるやり方で事を運ぶこと」である。生産から消費まで広く国民生活全般が、30年代に大きく変化した。電化製品に囲まれ、化学繊維品を身につけ、週刊誌を読み、インスタント食品を口にし、プラスチック製品を使うという生活の原型はこの時代につくられた。

完全雇用時代が到来し、人口の都市集中、過密・過疎、農村の変化、進学率の上昇などの大きな社会的変化が起きてきたのも、経済の高度成長がもたらしたものであった。所得、消費、教育の水準向上とホワイトカラー化、生活の平準化と均質化は中流意識を生み、33年には当時こうした意識はすでに国民の72%を占めるようになり、以後高度成長とともに一層広がっていった。

国際的にみても30年代末にはIMF8条国への移行、OECDへの加盟などを果たし、先進国の仲間に入った。

建設業急成長の黄金時代

経済の高度成長は当然、建設業の繁忙をもたらした。神武、岩戸の両景気をはじめ、東京オリンピックを控えてのオリンピック景気などは建設需要を大きく盛り上がらせた。民間企業の旺盛な設備投資に加え、公共投資も活発化し、鉄道、道路、ダム、港湾などの産業基盤や住宅、下水道、学校などの生活基盤の充実のため、積極的な投資が続いた。

昭和30年代半ばからは、工場などの第2次産業分野をはじめ商業、サービス業などの第3次産業分野にも建設ブームが起こり、東京、大阪など大都市圏でビル建設が盛んに行われた。

“黄金の60年代”(1960年代、昭和35~44年)とは、建設業に限った言い方ではないが、建設業もまさに黄金の時代を迎えたのであった。工事量の増大と並んで工事の巨大化、土木工事の機械化などの技術革新も進み、大手建設業者は運転資金の増大、機械化投資の増大などから自己資本の充実が必要となり、相次いで株式の公開に踏み切り、経営の近代化を進めた。

30年(1955)には日本住宅公団が、31年には日本道路公団が設立され、新時代をひらく大量の公的住宅建設、高速道路網の建設に着手し、団地族の誕生、車社会の発生など、新しい社会現象も出現した。また、30年は原子力元年ともいわれており、その口火を切る原子力研究所が同年設立された。その後わが国のエネルギー供給に貢献することとなった原子力発電事業に対し、一部ゼネコンが建設の立場から協力したのもこのころからである。

39年の東京オリンピックはアジア初の開催で、経済大国に仲間入りした日本の国力を示すものとなった。これを前に東海道新幹線が営業を開始し、40年には名神高速道路が全線開通した。

建設投資額は30年度は約1兆円であったが、40年度には約6兆円となり、大手5社の1社当たりの完成工事高も同期間に約150億円から約1,200億円へと8倍の急成長を遂げたのである。

注 数量景気(quantitative boom):製品価格の上昇によってではなく、取引数量の増大によって企業の増収がもたらされ、景気がよくなること。物価が安定したまま経済が拡大する状態。

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