大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

4 研究開発の取組み

■―広がる研究開発の分野

当社の建設技術については、創業以来、伝統的ともいえる技術重視の気風を育み、たゆまぬ研鑽と実績を重ねて各界から高い評価を得てきた。技術革新は企業の成長発展に大きく寄与してきたのであるが、当社はさらに、今回の長期経営ビジョンにおける研究開発分野の目標として、活力ある技術集団・知的集団であること、社会に対して新鮮かつ有益な提案・情報の発信機能をもつこと、研究開発に関する第一人者であることを掲げた。そして、得意先や社会のニーズを先取りした戦略的な技術の高度化を図る一方、工事現場のニーズに対応しての施工技術の改善・開発、自動化・省力化・工業生産化等に力を注いでいる。

社会経済情勢の変化、建設需要の多様化は研究開発分野の拡張を促し、従来建設技術とは直接かかわりのないと思われた分野にも及んでいる。たとえば、宇宙開発計画に伴う月面基地に係る研究等の宇宙開発関連技術、微生物や植物の活用および制御による緑化・水質浄化・空気清浄化などの環境の保全・改善に関する研究開発、建設作業のロボット化・自動化技術などである。また、これらの研究開発にはコンピュータの活用は不可欠であり、スーパーコンピュータの導入によって、より高度な研究開発を推進する態勢を整えている。

当社の新工法と技術については、第3章にその多くを述べ、また工事への適用についても繰り返し述べてきたが、次にあげるものは、その後に開発した、あるいは今後開発を目指している技術の主要なものである。

■―最近の主な研究開発

●全自動ビル建設システム

昭和62年(1987)ころから建築工事量が急増し、建設労働者の不足と高齢化も顕著となってきた。製品のプレハブ化率を高める工夫とともに、ロボットを現場作業に活用しようとする研究が建設各社において真剣に取り上げられた。

当社では「全自動ビル建設システム」の基本コンセプトを構築し、平成元年からは、要素技術と実機適用に向けての研究開発を進めてきた。そして同年8月、全自動ビル建設システムの開発概要を新聞発表し、関係各界の大きな反響を呼んだ。

この工法では、スーパー・コンストラクション・ファクトリー(SCF)と称するFA工場を躯体上部に設置し、内部には天井走行クレーンや溶接ロボット、検査ロボット等を装備し、部材はコンピュータの指示に従って、自動倉庫から自動台車、自動エレベータによってSCF内に供給される概念となっている。各階躯体作業終了後には、SCFの柱に組み込んだ上昇機構により、作業階を1フロア分ずつ上昇させ、同様の工程を繰り返すことにより、連続的に上部に向かって建設するシステムとなっている。

従来の自動化・ロボット化が単機能ロボットを部分的に活用しようとするのに対し、本システムは、設計にまで立ち入って、構・工法の検討も含めて、画期的な自動化建築生産システムを開発、使用するものであり、最終的には製造業のFA、CIMに相当するSA(Site Automation)、CIC(Computer Integrated Construction)にまで発展させる可能性をもつものである。

●インテリジェントシールドシステム

地下トンネルの掘削工法として、シールド工法はすでに一般化しているが、このシステムは、資材搬送から掘削、セグメント組立てに至るまで、シールド工事を構成するすべての設備を自動化・ロボット化し、これらを最新の情報処理技術を活用して制御統合していくものである。このうち、シールド機の自動掘進装置については、60年、中部電力川越火力発電所ガス導管用トンネル(JV)で初採用し、さらに平成2年には、一歩進んだAI技術を利用したシールド制御システムを、福岡市高速鉄道1号線榎田西工区(JV)の泥水式シールドで採用し実用化した。

また、セグメントの組立て作業を完全自動化した後方独立型セグメント組立てロボット(O-SERO)を開発し、大阪府発注の下水道幹線工事の泥土圧式シールドにおいて適用している。そのほか、東京都水道局発注のシールド工事の泥土圧式シールドにおいて、セグメントの自動搬送システムを開発、実用化した。そして、東京湾横断道路の中央トンネル木更津南(JV)工事では、全面的ロボット化を図ったインテリジェントシールドシステムを採用予定である。

●開閉式多目的ドーム

野球場をはじめ各種スポーツ、イベント会場として用途が広がる屋根付きの多目的スタジアムがわが国に登場したのは、東京ドーム(昭和63年完成、他社施工)が最初であった。当社では、単に屋根付きというのではなく、開閉式の屋根をもつスタジアムとして、直径の半分を開放できるスカイライトドームを昭和60年に開発し、次いで直径の3分の2を開放できる2段階開閉式スカイライトドームを開発した。この開閉式のドームは今後有力な需要が見込まれるとして、建設各社の開発ラッシュとなった。当社は、使用目的、地域性などに合わせた開閉式が選べるよう、スカイライトシリーズとして五つのタイプを用意している。

●O-PARK、O-PARK2

OWS工法で施工した地中連続壁を用い、それによって囲まれた内部地下空間を駐車場シャフトとして利用して、機械式立体駐車場に活用したものである。

当社は、昭和53年10月、これをビルの地下立体駐車場に適用して以来、主として都心部で数多くの実績をあげてきた。土地の有効利用が図られること、駐車台数を多く確保できること、建物の基礎杭を兼用でき経済的であること等の利点がある。

その後、ビルの地下だけではなく、公園や道路など公共用地の地下空間の高度利用を図り、地上の機能や緑を損なうことなく地下立体駐車場を建設するシステムとして、「O-PARK2」を開発した。都市部の駐車場不足が深刻化してきた現在、需要増が期待されている。

●アクティブ制振システム(AVICS-1)

このシステムは、中小地震や強風時の揺れを抑制・吸収し、高層ビルやペンシルビルの居住環境向上を図るシステムである。制振の原理は、建物上層階に置いた付加質量を動かし、その質量の慣性力を利用して建物の揺れを抑制・吸収するものである。

制振システムは、制振装置(付加質量、駆動部)、制御用コンピュータおよびセンサーから構成され、地震動や建物の揺れをセンサーが感知すると、その結果を動作指令として駆動部に伝えて付加質量を動かし、時々刻々の建物の揺れが最小になるように制御するものである。平成3年2月、制振装置の実機について実証実験を実施し、実用化を図っている。

●プレカラム工法

この工法は、RC造の構造物の柱の型枠・鉄筋工事の省力化を目的に開発した技術で、遠心力を利用して成形したプレキャストコンクリート製中空薄肉角形管を柱筋の上から建て込み、内部にコンクリートを打設して鉄筋コンクリート柱を構築するものである。鉄筋コンクリート工事の省力化、短工期化が図られるほか、表面が緻密で平滑なため打放し仕様にもよいこと、型枠の解体作業や発生材の処理が不要であること、さらに木製型枠の使用量が削減されるため森林の保全にも寄与することなどから、今後一層の普及が期待されている。

この工法から発展して、主として梁のコンクリートの打込み型枠に使用する「折り曲げ型枠工法」を実用化し、現在、当社技術研究所に建設中の環境研究センターに全面的に使用している。ちなみに、同センター工事では、これらの工法の採用などにより木製型枠の使用量を97%削減し、これによって保全される熱帯林の面積は約4.7㏊になるものと試算している。

●スーパーコンピュータ活用技術

高速演算機能を生かし、実験で確かめることが困難な現象や多数回の大規模実験を要する現象などを解明するために、スーパーコンピュータによる数値シミュレーションが用いられる。解析結果はわかりやすい図化表現やアニメーションで表される。

当社は、昭和63年7月、スーパーコンピュータSX-1EAを導入し、スーパーコンピュータ活用技術研究開発グループ、技術研究所数値解析研究室および電子計算センター応用解析課が中心となって、活用技術の開発と普及に努めてきた。これまでに構造解析(LNGタンク、原子炉建屋等)、振動解析(RC造高層建物の立体振動、地震波動の伝播等)、地盤解析(地盤の液状化、地下タンクの地盤安定等)、流体解析(ビル風、ドームの内外気流等)、環境解析(オーディトリウムの音響等)など、幅広く実績をあげている。

なお、スーパーコンピュータ用に整備されている応用ソフトは、自社開発および大学との共同研究による開発を含めて20種を超える。

ビル建設工程を完全自動化した全自動ビル建設システム
ビル建設工程を完全自動化した全自動ビル建設システム
シールドセグメント組立てロボット(O-SERO)
シールドセグメント組立てロボット(O-SERO)
「レディーバード」の模型
「レディーバード」の模型
新タイプの開閉式ドーム「レディーバ-ド」(上から移動屋根を閉じた状態、半開の状態、全開の状態)
新タイプの開閉式ドーム「レディーバ-ド」(上から移動屋根を閉じた状態、半開の状態、全開の状態)
O-PARK2
O-PARK2
AVICS-1の制振シミュレーション
AVICS-1の制振シミュレーション
プレカラム工法
プレカラム工法
海上橋脚の下部構造(ケーソン)周辺の流れ解析
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PCCVの水平加力時挙動解析
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23階建RC建物の立体骨組地震応答解析
23階建RC建物の立体骨組地震応答解析
ビル風解析
ビル風解析
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