大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

2 独自の総合的質管理を確立

■―TQCの導入を検討

昭和40年代に主として製造業で推進され、大きな成果をあげたTQC(総合的品質管理)は、50年代になると建設業界にも広がった。

生産に携わる企業においては、自社の製品の品質を全社的な体制として保証していく考え方が、経営の基本事項として広く認識されつつあったが、そのような品質保証体制が整備されているか否かは、企業の信用度にかかわってその差別化を生み、競争力に影響を及ぼすことにもなってきた。

建設業にあっても、建設現場での施工品質の確保はもちろん、営業、設計から施工、アフターサービスに至る各段階を通じて、業務の内容と担当部署を明確にし、それぞれの基準によって「業務の質」を管理するという品質保証体制の確立が必要と考えられた。

また、わが国におけるTQC活動は、単に生産現場に限らず、会社組織全般の業務改善、さらには経営革新を目指した活動にまで発展していた。

このような情勢に対応して建設大手各社では相次いでTQCを導入し、より強い競争力をもつ企業へと体質改善を進め、業績の伸長を図ろうとした。

当社では、55年(1980)に入って東京本社に調査グループを編成し、約6カ月にわたりTQCの概要、その実践手段、同業他社の推進事例などの調査を行い、同年11月にTQC室を設置して、その導入を慎重に検討することとした。

このような動きと並行して、業務の改善・効率化のため、前章に述べたように社内ではすでに現場業務合理化プロジェクト・チームが発足して活動を始めていたほか、一般管理費管理制度{}がスタートし、OA化の推進、提案制度の活性化が図られていた。

また、建築部門では55年4月からCD(コストダウン)活動が、土木部門では57年8月からSSQ(セールス・セーフティ・クオリティ)運動が開始されていた。

CD活動は、建築工事の利益率の著しい低下に対処して行われた原価低減活動であり、全店の建築施工部門で展開されたものである。それは、①適正な品質の確保を前提に工事原価の縮減を図る、②支店長を中心に業務ラインに沿った推進体制をとる、③どんな小さなことも見逃さず、ロスの防止を数多く積み上げる、④全員参加の自主的な業務改善運動を進める、の四つを活動の柱とした。

約1年間に報告されたCD改善事例は1,800件を超え、その成果は工事利益率の反転上昇に大いに貢献していた。

CD活動は1年間の成果を踏まえ、56年4月、QC手法を取り入れたSK(質・価格)運動へと発展した。一方、SSQ運動も、土木部門の全店的なQCサークル活動として取り組まれていたが、58年度からは建築部門と同様にSK運動と統一した呼び方をした。

全社的な業務改善運動は、56年に策定された長期経営計画の中でも強力に推進していくことが謳われているが、以上のような諸活動となって実施され、成果をあげつつあった。

こうした下地が整って気運も盛り上がり、当社でも他の同業者が実施したのと同様なTQCを導入するか否かについて最終的な決断を下すべきときを迎えた。そして、「TQC導入に伴い、長期にわたって生ずる費用と労力に見合う効果が得られるかどうか」「デミング賞を目標とする活動の推進の是非」「社外の指導講師に活動について指導を仰ぐことが妥当かどうか」などについて突っ込んだ検討が行われた。

その結果、新たにTQCという形で運動を導入することはせず、これまで展開してきた既存の活動を統合し、さらに拡充・強化することによって、所期の目的の達成を目指すことになった。

注 一般管理費管理制度:昭和55年8月から東京本社、本店で実施された。各部ごとに発生する総費用を、計画・実績・検討の一貫したプロセスのなかで予算管理するものであり、業務運営効果を評価し、業績の向上と業務処理の効率化を図った。後に各支店でも同様の管理が行われるようになった。

■―SK(総合的質管理)推進体制

SK運動は前述のように建築部門のCD活動や土木部門のSSQ運動などから発展したものであったが、昭和59年(1984)4月、この従来のSK(質・価格)運動も含めた業務改善運動を統合し、同じくSK(総合的質管理)の呼称で全社的な新しい活動を始めた。

59年4月1日、大林社長は同日付の社報号外で「SK(総合的質管理)の推進について」と題し、次のように今後の方針を示し、役職員に対してその着実な推進を示達した。

「近年、建設需要の内容はますます多様化するとともに、品質や価格に対する得意先の要求は誠に厳しくなっている。それに加え、安全、公害、環境等に対する企業の社会的責任も厳しく問われる時代となっている。このような厳しい状況の中で、得意先のニーズや社会的な要求に応え、受注の拡大、コストの低減により利益の増加を図って行かなければならない。

そのためには、多様な問題に対して、個別にあるいは直接の担当部門だけで対応するのではなく、社内の全ての部門が相互に有機的に連携して幅広く対応できるよう、業務の質の向上と効率化を進めることが肝要である。

当社は今般、土木本部、建築本部等で数年来展開してきたSSQ、SK、OA化等の業務改善運動を統合し、さらに進めて全社的に総合した質管理を行なうこととした。このため、新たに職場組織の編成を行なうとともに、サークル活動の全社的な展開など総合的品質管理の考え方や各種の手法を活用し、経営方針の徹底、業務体制の整備、組織の活性化を促進して会社業務の全般にわたりその質の向上と能率の増進を目的とした活動、即ちSK(総合的質管理)を推進しようとするものである。」

同日、TQC室は解散し、SKを強力かつ効果的に展開するために次の推進組織が編成された。

まず中央組織として、社長を委員長とする最高機関「中央SK委員会」をはじめ、「SK推進企画委員会」「SK推進部」が置かれた。SK推進企画委員会は総合企画室長および各部門の管理部長を中心に構成され、推進基本計画案の審議等にあたった。SK推進部は全店SKの推進担当機関で、基本計画の立案、推進状況の把握、活動の指導・援助などを行うものとした。

各店については、SKは業務ラインを通じて推進することとしたので、東京本社と本店では各部門の長を委員長とする「部門SK推進委員会」を、支店では支店長を委員長とする「支店SK推進委員会」をそれぞれ設置し、その推進体制は次ページのように全店を網羅するものとなった。

本店建築SKサークル活動発表会―OHPを用いての事例発表
本店建築SKサークル活動発表会―OHPを用いての事例発表
全店建築SKサークル発表会―吉野副社長から表彰を受けるSK賞受賞サークル各リーダー
全店建築SKサークル発表会―吉野副社長から表彰を受けるSK賞受賞サークル各リーダー
第3回東京本社土木部SKサークル発表会―14サークルが次々と事例を発表
第3回東京本社土木部SKサークル発表会―14サークルが次々と事例を発表
『本店SKサークル活動の手引』および『昭和58年度本店建築SK運動要綱』
『本店SKサークル活動の手引』および『昭和58年度本店建築SK運動要綱』

■―SK推進の概要

当時、建設需要の内容が多様化し、加えて安全、公害、環境等に対する企業の社会的責任がますます重みを増していた。そうした状況のもと、SKが目指したものは、当社の提供する製品・サービス等の品質や価格が顧客のニーズに応えうるものであること、これによって得られた信頼を基盤に受注の拡大を図ること、さらにコストの低減による利益の増加や、全社的な業務の質の向上と効率化を進めることによって企業体質を強化することであった。

このような考え方に沿ってSKを全社的活動として推進するため、昭和59年(1984)10月に中央SK委員会で「SK推進基本計画」が承認、決定され、SKの目的、基本方針、実施事項、推進組織が明示された。そしてそれは次のように実施されていったのである。

●年度SK推進重点項目の設定と方針管理によるSKの推進

「SK推進基本計画」に基づき、SK推進企画委員会が年度SK推進重点項目を立案し、中央SK委員会がそれを承認、決定した。これを各部門、各支店のSK推進委員会がそれぞれの実状に合わせてSK推進計画にブレークダウンし、機能別業務体制が整備されると同時に、各職場の改善活動が実施された。その実施状況と成果を各部門・各支店SK推進委員会および中央SK委員会が把握して評価し、その成果を実務に生かすとともに、次年度のSK推進重点項目および各部門、各支店のSK推進計画に反映させ、スパイラルアップで企業体質の強化を図った。

●SKサークルおよび日常業務改善の全店展開

59年11月に『SKサークル活動実務要領書』が全職場に配布され、各職場で自主的に改善活動を行うSKサークル活動が展開された。常時約1,300サークルが登録され、約7,000名が参加して、全店で改善活動が実施されたのである。また、全店SKサークル大会が年1回、部門SKサークル大会が年2回開催され、次表に示すように優秀事例を表彰して、サークル活動の活性化と改善成果の水平展開が図られた。

完了した改善事例は『SKサークル完了テーマ一覧表』として全店に配布され、他の改善活動や日常業務に広く活用された。

全店SKサークル大会 社長SK賞一覧

■第1回大会(昭和60年12月6日)

金賞・気密性の向上(クリーンルームにおけるエアーリークの減少)(東京本社埼玉営業所)
銀賞・情報支援の拡張(その1、推進工)(土木本部土木第一部)
・設計図面のフォーマット化、省力化―その1―外注図面について(本店建築設計第五部)
・土中埋設管の防食工事の施工品質向上(本店設備部)
その他 銅賞5、奨励賞7

■第2回大会(昭和61年11月28日)

銀賞・部位別単価資料を作ろう(建築本部見積部)
・アンボンド工法を採用した地上階梁スラブ枠の施工方法の改善(東京本社日生大宮工事事務所)
・5分でできる構造数量の概算=QE法の提案(SRC造事務所ビル)(本店建築設計第五部)
その他 銅賞5、奨励賞9

■第3回大会(昭和62年11月27日)

金賞・コンクリート打設法の革新(コンクリートセンサーの開発)(東京本社東大病院本郷工事事務所)
銀賞・PC鋼棒の組立ミスをなくす!(四国支店宿毛工事事務所)
・わかりやすい図面を造ろう!!(PART1 躯体図の改善)(建築本部工務部)
その他 銅賞6、奨励賞7

■第4回大会(昭和63年11月25日)

金賞・立体駐車場から騒音を無くそう(本店設備設計部)
・タワークレーン「フロアクライミング方式における受架台、盛替作業の改善」(大阪機械工場・本店南海ターミナルJV工事事務所)
銀賞・稟議書の整理と保存スペースの削減(東京本社総務部)
・情報課が有効利用される方法の検討(雑誌業務の改善)(技術研究所企画管理部)
・この部屋いくら?(部屋別単価資料を作ろう)(建築本部見積部)
その他 銅賞5、奨励賞11

■第5回大会(平成元年11月17日)

金賞・軟弱地盤表層処理工法におけるネットシートの応力測定(本店北港工事事務所)
・排水管のエアーテスト(建築本部設備工事部)
・労災保険業務処理の効率化(土木・建築本部東京安全監督部)
銀賞・売情報とニーズ情報を結びつけよう(東京本社営業不動産部)
・天井内工事チェックシステムの確立(横浜支店横浜プリンスホテル工事事務所)
・工程短縮によりボーリング本数を増やす(四国支店来島大橋JV工事事務所)
・CAPS品質管理(電子計算センター)
その他 銅賞6、奨励賞9

●SK教育の実施

SKの導入に伴い、SK活動の全社的理解を得るため、4~6級の男子基幹職種職員約4,800名を対象に、SK啓発研修会を実施した。

さらに、従業員を対象とするSK教育を全社的な教育訓練計画の体系に取り込み、SKの基本的考え方と手法を中心にして、新入職員教育、若年職員SK研修および管理者SK研修を実施していった。また、SK活動に関する情報を社内に広く伝え、各職場における活動の質を高め、活性化を促進するメディアとして『Act SK』を年4回発行した。

第1回全店SKサークル大会
第1回全店SKサークル大会
『Act SK』
『Act SK』

■―SKの成果と評価

企業としての全社的な品質保証体制の整備が進められ、営業、設計、施工、アフターサービスに至る業務の機能ごとに、土木では『品質保証業務基準書』、建築では『QA計画書』に基づいて品質保証業務が実施されていった。

これより早く昭和56年(1981)4月には東京本社および本店にそれぞれサービスセンターが設置され、各支店では保全課が設けられるなど、当社施工の建物に関するアフターサービス機能が強化された。サービスセンターは、保全に関する技術サービスのほか、施工データの検討、既設建物の定期的診断を行い、その蓄積を設計、施工部門にフィードバックするとともに、工務部、技術研究所、メーカー等と緊密に連携し、保全技術の開発に当たることを目的とした。こうした品質管理の実践によって、その後活発化してくるビルなどのリフォーム需要を着実にキャッチしていくことになる。

なお、このような品質管理は当社だけではより大きな成果を得られないとの認識から、施工に従事する協力会社に対しても、品質保証業務や施工技術に関する研修を実施し、その自主管理能力のレベルアップを支援していった。

一方、方針管理活動を通じトップの方針が全社的に末端まで展開され、PDCA(Plan-Do-Check-Action)の管理サイクルの手法の浸透が図られた。これによって各部門では重要な経営上の目標と実績との対比、評価がより厳密に行われるようになった。

また、日常業務の効率化と質の向上の面でも、SKサークル活動を全店で職種を問わず展開したことにより、各職場や職場間にまたがる多くの問題が改善された。それと並行して、業務の標準化やルーティンワークのコンピュータ化が進んだ。

さらに、これらを通じて現場を含めた全職場で、問題の発掘や改善のやり方、あるいは科学的なSKの考え方や手法が習得され、業務の効率化、品質の改善、コストダウンに関する多くの提案がなされるようになった。

大林組東京林友会第1回QCサークル発表会
大林組東京林友会第1回QCサークル発表会

■―SK推進組織の廃止

こうして5年有余にわたって実施されたSK活動は、全社員がその主旨をよく理解し積極的に参加したことにより、当社の士気・モラルを高め、多くの成果をあげた。その活動は日常業務のなかに十分定着してきたので、以後は職制を通じた日常業務のなかでSK活動を実践することとされ、平成2年(1990)11月、SK推進組織に関する諸規程は廃止された。

その廃止にあたり、津室社長は社報(通達)の中で、長期にわたる役職員の労を多とする旨を述べ、さらに「SKは、規程の廃止により今後組織として推進することはしないが、その骨子である業務の質の向上と効率化は企業発展の根幹であり、永続的に進めていかねばならない。役職員各位は、SKを通じて習得した業務改善の考え方を積極的に活用し、経営計画に定めた目標達成のため、それぞれの職責に応じて計画的に改善活動を実行されたい」と結んだ。

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