大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

第6章 創業第2世紀に向かって

激動する内外の情勢

1980年代後半から90年代初頭にかけて、旧ソ連、東欧諸国などいわゆる共産圏諸国の変化はまことに著しいものがあった。1985年(昭和60年)、ソ連共産党書記長に就任したゴルバチョフは、政治、経済、社会、文化、国民の意識など総合的な改革・再建を目指すペレストロイカ路線を進め、さらに情報公開(グラスノスチ)も行って改革を強力に推進した。

この路線は東西の緊張緩和、相互の軍縮という好ましい成果をあげ、’89年(平成元年)12月の米ソ首脳マルタ会談によって、戦後長く続いた東西冷戦は終わりを告げた。しかし、ソ連国内では市場化政策等の経済改革は軌道に乗らず、国民生活はかえって悪化し、保守派の反抗を呼んだほか、国内民族問題も燃え上がり、’90年末までに連邦を構成する15共和国のすべてが主権宣言を行い、連邦は崩壊の道をたどった。’91年12月、そのうちの11共和国によって独立国家共同体(CIS)が創設され、ここにソ連邦は70年余の歴史を閉じた。

東西冷戦の象徴であったベルリンの壁が、’89年11月に開放されて以来、東西ドイツの統合問題は急進展し、’90年10月にヨーロッパの大国として統一ドイツが誕生し、ここにも共産主義体制の敗北がみられた。

共産圏諸国が揺れ動くころ、中東に大きな国際紛争が起きた。’90年8月クウェートを武力制圧したイラクに対し、アメリカ軍を主体とする多国籍軍が’91年1月空爆を開始し、約1カ月でクウェートの解放を完了した。

一方、平成時代になってからのわが国では景気の拡大が続いていた。昭和61年末に始まった好況は平成2年6月で43カ月目に入り、昭和30年代の岩戸景気を抜いて、戦後最長のいざなぎ景気に迫る勢いを見せていたが、2年末にはそれも微妙な情勢になってきた。

経済企画庁が2年末に発表した『1990年経済の回顧と課題』によれば、2年下半期には湾岸危機の発生やその後の公定歩合引上げ、株価の大幅下落が、住宅建設や設備投資などに抑制的な影響を及ぼしていると分析している。この結果、景気の現状を「景気拡大のテンポが大きく鈍化する兆候はないものの、経済成長率が中期的に持続可能な水準に向かって減速する過程にある」と表現した。

内需主導型の好況は、一面において金融緩和に支えられていたが、元年5月から2年8月までの5回に及ぶ公定歩合の相次ぐ引上げと長・短市場金利の引上げによって、しだいにかげりをみせてきた。

金融緩和時代のカネ余りの恩恵を十二分に享受していた株式市場は2年4月に暴落し、10月には一時的に平均株価が2万円を割り込み、以後低迷を続けることになった。地価の暴騰をみていた不動産市況、ゴルフ会員権やリゾート会員権市況なども下落していった。こうした現象は“バブル経済”の崩壊といわれている。

これからの建設業とその役割

建設業界の環境にも大きな変化があった。建設業冬の時代、ある危機感をもってそのあり方が問われ、業界はもちろん行政側もその将来像をとらえて、進むべき方向を探り始めていた。

昭和61年(1986)2月に発表された「21世紀への建設産業ビジョン」は、西暦2000年における建設需要額を62兆8,000億円と予測し、50余万社を擁する当業界の競争激化と厳しい先行きを示唆する一方、建設業がわが国の基幹産業として果たす役割の重要さと、それに応えていくために、各企業は自助自立の精神で経営の近代化を図り、労働生産性の向上に努め、技術開発力を高め、さらに需要の創出あるいは新規事業への進出と挑戦的な産業を目指す必要があること、また、行政はそれを促進していくための枠組みを構築していく必要があることを強調した。

61年末以降の内需拡大に伴う建設ブームは、ビジョンが予測した需要をはるかに越える勢いで広がっていき、建設業界は冬から一気に夏を迎えたといわれた。しかし、ビジョンに示された提言は、その後多くの有力企業によって真剣に取り組まれ、行政面でも「建設産業構造改善推進プログラム」が進められてきたのであった。

わが国経済がバブル経済といわれるほど急膨張し、国民1人当たりの所得も昭和45年に米国の3分の1であったものが、今やそれを上回る状況となり、建設投資も驚異的な伸長をみた。そして建設業は、経済活動、社会とのかかわりを通じてその責任の大きさを強く認識したのであった。

折しも、日米構造協議が合意をみた平成2年6月、「公共投資基本計画」が閣議了解された。これには、2年度から10年間で430兆円の公共投資を実施していくとされており、また、生活者の視点から新しい時代の生活空間を創造していくビジョンが示されている。

それらのことを踏まえて、『建設白書』は「暮らしの豊かさと住宅・社会資本の整備」(平成2年版)、「生活空間の新時代を目指して」(平成3年版)と題して、今後の政策展開を示しているが、その実現の過程において、建設業はさらに深いかかわりと重大な責任を負うものである。

入札制度および請負契約関係の合理化、公衆災害の防止、環境問題への対処、技能労働者の育成・確保、海外進出と海外業者の参入、外国人労働者問題など、建設業はこれら多くの問題の解決に努力しつつ、豊かな生活大国づくりへ向けて重要な役割を果たすことが期待されている。

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