大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

3 人事制度の改正

■―総合職・専門職制度を導入

昭和61年(1986)4月1日、いわゆる男女雇用機会均等法が施行された。女性の社会進出が進むなかで、企業は、男女の性別に関係なくその能力に応じた処遇をするよう求められたのである。

当社では、従来より常設部門における女子の能力発揮を図るとともに、女子技術職の積極的な採用を行ってきており、大学および大学院卒の女子職員も相当数にのぼっていた。同法の施行を契機に、雇用機会の均等化を一層進めることとし、平成元年4月からは女子採用者の試用員制度を廃止するなどの改正を行い、2年2月には男女職員を総合職、専門職、一般職に区分する「職員の職掌に関する内規」を定めた。これは、世間一般では職員を総合職、一般職に2区分する方法が多くとられているが、当社女子職員の高学歴化の進行、高い技術系比率などの特性をとらえて、その有効活用を図るための職掌区分であった。

男子職員については、新制度導入時に在職する基幹職種の職員はすべて総合職、それ以外の職員は一般職となった。一方、女子職員については、職種が事務、土木、建築、設備、機電および応用技術の職員を対象として、事前に職掌の志願申告をしてもらい、総合職および専門職を志願した者には職掌選考試験を行い、合格者を当該職とした。それ以外は一般職である。

なお、在職中の女子職員で専門職から総合職へ、一般職から専門職へ職掌変更を希望する者については、毎年選考試験を実施することとしており、志気の高揚を図っている。

3職の内容はそれぞれ次のとおりである。

総合職 国内および海外の全地域において、基幹的業務を多岐にわたって担当し、効率的に推進するのにふさわしい能力、資質を有する職員
専門職 原則として同一地域において、基幹的業務のうち特定の業務を担当し、効率的に推進するのにふさわしい能力、資質を有する職員
一般職 同一地域においてのみ勤務する職員で、前2職に該当しない職員
女子総合職、専門職の辞令式
女子総合職、専門職の辞令式

■―ソフト化と教育制度

ソフトウェアは、コンピュータのプログラム、放送や記録された映像、さらに進んで情報知識、サービスなど無形の価値物を広く指し、単にソフトと呼ばれている。これは社会的に情報やサービスの価値が高く評価されるようになったことの反映であり、ソフトそのものが売り物となる時代となってきたことのあらわれである。

こうした社会や経済のソフト化現象は、建設業における事業展開のあり方にも新たな対応を促すこととなり、発注者の多様化するニーズに応えられる建設業のソフト化が、重要な経営戦略として位置づけられた。具体的には、企画提案型営業に要求される柔軟な営業活動を推進し、受注形態の多様化、事業の多角化への対応を図ることとした。そしてソフト機能を強化するための人材育成として、平成元年(1989)8月、教育訓練体系見直しの具体的施策を取りまとめ、実施に入った。

その施策は、ソフト機能の強化のためのものとソフトマインドの浸透のためのものとの二つに大別される。前者の目的は、ソフト機能の基盤となる体系的専門知識の習得、能力啓発にあり、後者の目的は、従業員全員が事業環境の変化(社会・経済の変化)や建設業自体の質的変化(業容・業態の拡大)について認識を深めることにある。

ソフト機能強化の施策は、全部門共通のものとして、すでに実施されている通信教育、情報システム研修、社外セミナー活用のほか、新たに課長研修の見直し、部長研修の導入(部門戦略の策定と遂行についての集合研修)を行い、個別部門として営業マンスキル研修の導入、開発企画関連部門の部門研修の拡充、設計部門のプレゼンテーションスキル研修の導入がある。

ソフトマインド浸透のための施策としては、社内講演会の開催継続、拡建設(業容および業態の拡大)に対応できる人材の裾野を広げるための一般教育の導入(5~6級職を対象とする各種講座の開設)、部内研究会に他部門からも参加できるようにしたプログラムの公開などがある。

このほか、業務遂行に必要な専門知識を習得するため、人事異動を伴わずに、一定期間他の部門に在席して研修できる社内トレーニー制度の新設なども行われた。

部長研修会風景
部長研修会風景

■―人事考課制度を改正

当社では従業員の成績査定や指導育成、適性把握、能力開発等のために人事考課を実施しているが、時の経過とともにいくつかの問題点も浮上してきた。そこで、その改正が平成2年度(1990年度)の経営計画項目として取り上げられ、問題点を洗い出して7月に改正案が成り、同年度の上期の考課から実施された。

新しい人事考課制度は、次のことなどが特色としてあげられる。

  • 職員の中核となる1~5級職の評定を、能力評定と実績評定とに分離して行い、昇給・昇進に能力評定を用い、賞与については実績評定を用いることとした。
  • より職務に密着した考課とするため、評定項目を職務群ごとに見直し改めた。
  • 実績評定において、被評定者が担当業務の内容、努力した点、苦心した点などを記述する被評定者参画方式を取り入れた。
  • 考課対象期間中に個人として特筆すべき顕著な業績があった場合は、特別の業績評価ができるものとし、その期の賞与に別枠として特別加増することとした。
  • 各評価項目の考課の点数表示方法を簡素化し、5段階評点式とした。
  • このほか自己申告の内容を追加充実し、また、入社後一定期間経過ごとに人事担当部との個人面談制度を設けた。

なお、評定に際しての評定基準、兼務者の取扱い、評定者の参考意見の記入等についても新しく決められ、全役職員に周知された。

■―福利厚生の充実

当社の福利厚生制度や施設は長年にわたって培われたもので、従前の制度や施設を整備・展開することを基本に、新たな策を取り入れて充実を図ってきた。最近になって特筆すべきことは、地価の高騰によって従業員の経済的ライフプランの柱となる持ち家取得が困難となったこと、また高齢化社会を迎えて、健康管理、余暇、休日の有効利用に対する関心が非常に高くなってきたことである。このような情勢に対応して、次のような施策を積極的に実施した。

●住宅資金貸付制度の改正

全国的な地価の高騰に対処し、平成元年(1989)と平成3年の2回にわたって貸付額の増額を行うとともに、従来全国一律であった貸付限度額に地域差を設け、首都圏、関西圏など地価上昇の著しい地域での住宅取得にとくに配慮した。これによって、貸付限度額は最高2,200万円に引き上げられた。

●共済会事業の拡充
規約に基づき会員の慶弔に際し寄贈する額を、従来の2~3倍に引き上げたのをはじめ、入院差額ベッド料の補助金額を増額し、補助対象者(従来は、会員とその扶養する配偶者)に会員が扶養する子女を含めることとした。また、付添看護料の補助金制度を新設し、会員負担の軽減を図った。これらの改正はいずれも平成2年11月から実施された。

●社宅・独身寮・単身寮・保養所の新増設
築後相当な年数を経たものが全国的に散見されたことや、首都圏における転勤者の住宅難、さらに新入職員の急増に伴う独身寮不足が顕著となってきたため、その新増設、建替えが急がれた。以下は、この時期に竣工・開設、あるいは現在建設中の諸施設である。

なお、建設にあたっては良好な住環境の確保、居住性の向上などに留意し、デザイン、設備についても従来以上のグレードの確保を目指した。

御影社宅
御影社宅
太田社宅
太田社宅
清瀬寮
清瀬寮
夏見寮の個室
夏見寮の個室
軽井沢保養所
軽井沢保養所

■―週休2日制の導入

当社では昭和51年(1976)4月に月1回交代制の土曜休暇制度を導入し、58年4月からは、これを毎月第2土曜日に一斉に取得することに改め、61年4月には土曜休暇を月2回(第2・第3土曜)に拡大し、さらに平成元年2月に取得日を第2・第4土曜日に変更した。そのころになると週休2日制は社会の趨勢となっており、実施する企業は年々増加する傾向にあった。

元年には政府機関が第2・第4土曜日を閉庁し、金融機関が完全土曜休日に踏み切った。

建設業界においては工期、天候、施工要員数および協力会社等の問題により、完全週休2日制はなかなか実現しなかったが、前向きに検討されるようになった。

こうした状況を踏まえて、当社では3年4月から完全週休2日制とした。

しかし、工事事務所では全般的に繁忙であること等から、同制度の実施を前提としない工程による場合が多く、この制度を完全に実行しがたいところが相当数あるものと予想された。このため、工事事務所の勤務者については、年末年始休暇、夏期休暇、転勤時の前後に計7日以内の現場休暇を取得することができることとした。

なお、この完全週休2日制とともに、技術研究所ではその業務の特殊性を考慮してフレックスタイム制を実施している。

OBAYASHI CHRONICLE 1892─2011 / Copyright©. OBAYASHI CORPORATION. All rights reserved.
  
Page Top