大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

9 危機に耐える

■―低迷を続けた業績

第1次石油危機後急激に落ち込んできた当社の業績は、懸命の努力にもかかわらず、景気情勢を反映して好転をみないまま下降を続けた。

マイナス成長を記録した昭和49年度(1974年度)に続いて、50年度以降は低成長の時代となり、54年からは第2次石油危機に見舞われるなど建設業界を取りまく情勢の厳しさは長期にわたって続いていた。この時期における当社の業績は次表のとおりである。

この表にもみられるとおり、52年度は売上高が受注高を上回って、いわゆる“食いつぶし”の状況を示し、しかも53年度まで当期利益は下降線をたどっている。

こうした数期にわたる憂うべき決算と、今後の容易ならざる情勢に直面し、大林社長は53年6月、再び「難局打開に社員各位の奮起をのぞむ」との示達を発し、かつ社内報を通じても「難局に望む―不撓不屈の気迫を」と題して、現状の詳しい分析に基づいて危機の実態を説明し、一層の尽力と一致協力によって、厳しい事態を乗り越えることの不可能でないことを説いた。

社長示達においては、まず52年度決算の内容に触れ、完成工事利益率が上半期の11.43%から下半期には8.46%へと急激かつ大幅に低下し、税引利益では前年度比じつに22%の減少となったこと、受注高が完成工事高に及ばず手持工事高の減少を招いていることなどを指摘し、続いて次のように述べている。

「受注工事高の増大と工事利益率の向上が当社の今後の命運を決する最大事であることを深く銘記し、全社を挙げて創意と工夫と努力により何としても目標の達成は勿論、それ以上の成果を挙げることを期さなければならない。……今日のような状況に立ちいたることは予測をはるかに超えるものであり、昭和30年頃の業績好転期以降では例をみない重大な危機といわねばならない。……景気が回復軌道に乗るには、まだまだ時日を要するものと判断される。すなわち、道はなお遠くかつ険しいのである。……

このための重点的な方策として、私は、次の事項を徹底して推進することを諸君にいま一度強く訴え、一層の奮起を促したい。

  • 官民の需要を幅広く吸収することにより、受注高を増大する。
  • 受注時の採算見通しが厳しい工事が多くなっているので、施工の合理化、経費の節減を徹底し、コストの低減をはかる。
  • 未完、完成の工事代金の取下げを促進し、営業債権の縮小をはかり、資金負担を軽減する。
  • 保有不動産の売却又は活用及び開発事業における資金回収を促進する。
  • 少数精鋭による効率経営を志向し、間接部門要員の直接部門特に現場への転属を積極的に推進する。

なお、これらの方策の具体的な実施については、それぞれの業務担当責任者から別途指示するが、私をはじめ役員一同率先垂範ことにあたる覚悟であり、諸君におかれても、是が非でも経営目標の達成のため邁進されんことを切望してやまない。」

また、この示達の中で、役員はその報酬の5%を返上、理事は53年6月から54年3月までの間その報酬の4%相当額をカット、常設機関の役職者および工事事務所の責任者(所長および工事主任)はその役付手当の15%をカットすることが明らかにされた。

この措置は「異例のことであるが、今回諸君の一人一人に状況がとりわけ容易ならざることを特に訴える」意味でとられたものであった。すなわち、経営危機打開のための精神的効果に強い意味をもつものであった。

しかし、全社を挙げての懸命の努力も、客観情勢の好転を見ないなか、競争激化による工事利益率の低下、不動産売上げの不振などから53年度決算は経常利益が100億円を割るなど、以前10年間を通じ最低の結果となった。

このため株主配当も、53年9月中間期(第75期上半期)には年15%からさらに12%へと減配するのやむなきに至った。

■―希望の曙光見える

昭和53年度(1978年度)の決算においては、売上高の減少と決算組入工事の採算悪化によって、利益はかつてない落込みをみせたが、受注高は49年度以降割り込んでいた5,000億円台を大きく回復、5,600億円を超し、過去最高を記録して数年来の食いつぶし状況から脱した。繰越工事手持高は前年度は300億円減少したのに対し、54年度期初のそれは7,194億円にのぼり、前年同期の6,177億円に比べ、1,000億円以上の繰り越し増となったのである。もちろん、この間の物価上昇率を勘案すれば、額面どおりの評価はできないものの、前年度を18.5%上回る増加であったことは、先行き希望をもたせるものであった。

受注高増加の背景には、不況克服のため政府の積極的財政運営が行われ、政府建設投資が前年度比16.8%増加したことや、53年度後半から民間設備投資にも回復基調がみられ、民間建設投資も5.7%増加したことなどがある。

また、53年度の当社実績を分析してみると、次のようにようやく前途に希望の曙光が射し込む思いの成果がみられた。

  • 工事進行基準による業績は増収増益となった。これは期中における施工高、施工利益がともに上昇したことを示しており、次期以降の決算組入れでは増益が見込まれるものである。
  • 経営悪化の最大の原因をなした借入金が、取下げの促進、不動産事業の物件売却促進によって、51年3月をピークとしてその後3年間に540億円の返済を終わり、53年度末の長短借入金残高が2,443億円にまで減少した。
    不動産部門の売上高も前年度比95.9%増加し、金額では117億円上回った。これは極力売却を促進した結果であるが、同時に政府が土地規制政策を緩和した事情を反映したものであり、これまで財務内容悪化の主因をなした不動産部門にも、初めて前途に明るさが生まれたのであった。
  • 固定費は前年度を17億円下回る成果が得られた。これは経費節減と借入金返済による金利負担の軽減により、もたらされたものであった。

さらに54年度の工事受注の見通しにおいても、公共工事の発注形式は平年並みであったが、年間を通じての工事量は増大するものと予想された。また、産業界では第1次石油危機以来、製造業部門の設備投資は激減していたが、各企業ともほぼ減量経営によって体力を回復し、設備も6年を経過して更新期を迎えていたため、この面における受注にも期待することができた。

こうして、53年度の経常利益、当期利益はともに以前10年中最悪であったとはいえ、業績の内容には前途に明るさを感じさせるものがあり、全役職員は自信を失うことなく、さらに難局打開への決意を新たにしたのであった。

当社カレンダー(昭和53年)
当社カレンダー(昭和53年)
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