この社長告示を受けて、昭和50年(1975)11月、土木本部長名ならびに営業本部長、東京本社建築本部長および本店建築本部長連名の「非常事態に対処するための具体的方策について」(同題名)と題する通達が発せられた。いずれも管理職者各位あてとなっている。
両通達ともその題名の示すとおり、精神的訓示に終わらず具体的な方策、行動の指針を示し、いまや即実行の時であることを感得できるものであった。非常事態に際して、いかに考え、いかに行動すべきか、当社が必死の思いで取り組むべき指針であった。
両通達ともその第1にあげているのが「工事獲得高の増大を図ること」であり、なんとしても、これが最大の命題であった。そのほかに両通達とも「取下げ促進」「経費節減」をあげ、さらに前者の土木本部長名のものは「工事の効率的消化と工事費の低減」を、後者の3本部長連名のものは「手持不動産の売却を促進し、金融費用の軽減を図る」を掲げ、それぞれ4項目に集約している。
両通達ともかなりの長文で、その大部分は工事獲得のためのノウハウに割かれている。これは当時の情勢分析によっているが、今日においても十分に生かされるものであった。ここにそのすべてを記述することはできないが、とくに具体的な指示について記しておく。
まず前者では、「……特に、現在各店が目標とする高速道路、新幹線、ダム、下水処理場等については、全国的規模で関連情報を吟味検討し、獲得計画の調整を進めているが、今後これを一層強化し、流動的な情勢に対応した適切な方策を講ずるとともに、各店が目標とするその他の大型工事についても、近接地域にあるものは相互にその調整を図り、一方を得て他を失うことのないよう万全の策を進めること」とし、具体的に営業活動の進め方を示している。
公共工事の獲得に関しては、
1 中・長期計画等の早期把握と多角的獲得戦術の立案
2 地方自治体および第3セクター発注工事の獲得
上下水道施設、市街地再開発、ニュータウン建設、商店街再開発、流通・配送基地、各種卸売市場センター、卸売団地、社会福祉施設(レクリエーション・保養施設)、都市内交通施設整備、防災施設、環境整備施設、ターミナル施設、学校などの文化教育施設、広域観光開発、石油および食糧備蓄基地などが注目されるので、企画立案の段階から参加できるよう、コンサルタント、設計事務所および関係団体の動向に注意する。
3 海洋土木工事の獲得
等々について述べている。
また民間工事の確保として、
1 大型業種等の動向に注目
電力、ガス、鉄鋼、石油、化学、私鉄、住宅産業等の大型業種や生活関連業種では、引き続き段階的投資が予想されるほか、公害防止関連投資、工場跡地利用、宅地開発、遊休地利用、福利厚生施設、環境整備のための施設などが注目される。
2 建築部門との連携強化と旧得意先の再開拓
等を説いている。
一方、後者の通達も工事獲得について細かく具体的に示しているが、「営業の重点目標」として「便々として従来の得意先から大型工事の発注を期待しているだけでは不充分であり、経済情勢の転換の先行きを洞察しつつ、次に示すような多岐にわたる種類、分野の得意先の開拓に努めるとともに、小型の工事であっても丹念に獲得して、工事獲得量の増大を期すること」とし、次のようにあげている。
小・中・高校の新増設、生活福祉関連施設、とくに医療関連施設、廃棄物処理施設、集合住宅工事、銀行店舗・計算センター工事、流通関係工事、市街地改造工事、病院・私立学校・宗教施設工事、国内企業の海外進出に伴う工事、製造業の設備投資(公共的業種および基幹的業種の工事、公害防除投資、工場のスクラップ・アンド・ビルドと跡地利用の投資、省力化・合理化投資にはとくに留意が必要)などで、それぞれそのポイントを示している。
こうして工事量の獲得に向けての全社的努力が続けられていったのである。
工事獲得高の増大は非常事態に対処する根本命題の第1であったが、並んで重要なのは全社員が同じ方向に力を揃えることであり、社長告示に示された工事情報の入手であった。これはその後、営業情報提供システムの発足へと発展していったが、先の訓示における目標受注高達成の一方策としての自らの提案による需要の創出と並んで、新しく力を入れる営業活動となった。
投資マインドも冷え込み、建設需要が低迷して、受注競争はますます激烈になると予想され、従来の得意先からの大型工事の発注を待っているだけでは企業の発展は望めない状況となってきた。
そこで、新規得意先の開拓、需要創出型あるいは技術提案型の営業活動を推進する必要があったが、さらに従来にも増して、引合い以前の積極的な工事計画情報の収集やプランニング機能の充実などが求められることになった。つまり、営業マンのみならず全社員が営業マインドをもち、情報キャッチのアンテナとなることである。とくに全国730カ所に及ぶ工事事務所は貴重な情報源として期待された。
そして51年4月、営業情報窓口を設け、正式にインフォメーションシステムを発足させた。51年度、52年度に情報提供件数は470件に達し、営業活動に大きな貢献をしたのである。
非常事態に対処するもう一つの施策としての経費の節減については、50年11月の嶋道副社長通達その他をもって、繰り返し示達された。副社長通達は経費節減の趣旨に続いて、時間外労働の短縮、交際費、寄付金・会費、旅費・交通費、会合費、事務用品費、電話料、動力・用水・光熱費、その他経費について、数字を示して細かく指示している。
こうして、非常事態への認識の徹底を図るとともに、具体的な危機打開の方策が示され実施されていったのである。
営業情報提供1,481件へ(昭和51~53年度)
営業部門以外からの情報提供システムによる情報提供件数は、昭和51年4月発足以来53年3月末までに総計1,481件に達し、53年以降急速に受注に結びついていき、受注金額はこの間に124億円に達するという成果をあげた(グラフ参照)。
同業他社にも同様の制度があり、それによって受注100億円を超えたのは当社が3番目であったが、スタート以来3年目での快挙として、業界の注目を集めた。
なお、それ以降もこの制度の趣旨が浸透するにつれて加速度的に情報、受注件数ともに増加し、営業活動に大いに貢献した。