大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

3 現場業務の合理化

■―プロジェクト・チームの設置

当社事業の根幹をなす工事現場においては、施工にかかわる技術や安全衛生面での法的規制の強化、近隣問題への対応などから、工事事務所において処理すべき業務は多岐にわたり、また常設部門との連携事務も一段と増加した。さらに、小規模現場の増加によって現場要員不足が顕著となりだすなど、現場業務の合理化とこれに関連する管理業務の簡素化が必要となった。

当社は昭和10年(1935)に『現場従業員指針』を刊行し、創業以来の営業方針である「良く」「廉く」「速く」の三箴を基本として、科学的経営の要諦と手法をここに示し、実践してきた。その指針の精神は現在もなお生かされているが、昨今の社会情勢の変化や技術の進歩の著しい速さは、現場業務の日々の改善を必要としたのである。

このような背景のもと、工事事務所における工事管理システムの改善、現場業務およびこれに関連する管理業務の合理化の推進を目的として、55年7月、「現場業務合理化プロジェクト・チーム」が設置され、同時にこれらの合理化方策に関する基本的事項を審議検討する機関として、現場業務合理化委員会が設置された。

同委員会の委員長には吉野専務取締役が、副委員長には、建築・土木・営業・事務の各部門の常務役員がそれぞれ就任した。また、委員16名は関係部門の部長、工事事務所長等で構成され、全社的な取組みが展開された。折しも工事受注時の利益率が低迷傾向にあって、工事現場における生産性向上は急務の課題となっていた。

こうした状況のもとで、プロジェクト・チームは現場業務の全面的な分析から取りかかり、「紙切れからシステムまで」を合言葉に、合理化の対象となる事項の絞込みを行い、常設の関係部門との綿密な検討調整を行って改善策を打ち出していった。その主な事項を以下に述べる。

なお、プロジェクト・チームは当初1年の期限で設置されたが、実際には3年の期間を要し、58年9月、所期の目的を達して業務を終了した。プロジェクト・チームの解散後は、関係各部門が実施業務を引き継いだ。

オフコンで下請負契約書、請求書、支出書等のインプットをする現場職員
オフコンで下請負契約書、請求書、支出書等のインプットをする現場職員
オンラインのインテリジェントターミナル
オンラインのインテリジェントターミナル

■―工事原価管理制度の整備

現場業務合理化プロジェクト・チームが取り組んだ重点課題の一つは、工事原価管理制度の整備であった。当社の工事現場における原価管理制度が、昭和7年(1932)の「工事費予算統制規程」の制定に始まり、昭和40年代のコンピュータを活用した管理システムに構築されてきた過程については前章にも述べた。しかし、コンピュータの利用によって計数処理の迅速化は図られたものの、多くの現場にあっては、単に予実算の対比とデータ入力のための情報報告業務に終始する傾向がみられ、コンピュータを導入したシステムが必ずしも効果的に機能したとはいえなかった。

工事原価管理制度は、経営判断に直結する数値(最終予想請負金、利益額等)をより正確に把握することはもちろんであるが、何よりもその制度が機能的に働き、工事原価の低減と工事利益の向上に寄与することが目的である。当社は昭和の初期いち早く工事の予算制度を導入し、科学的経営の手法を実践して著しい成果をあげたのであったが、その先人たちの工夫や手法を現在に十分生かしているのかどうか、プロジェクト・チームは現場業務の見直しを行うなかで、原価管理業務の煩雑さや形骸化を指摘し、関係部門と精細な検討を行い、その改善策を取りまとめていった。

そして57年4月、従来の『予実算対照業務実務要領』が大幅に改正され、新たに『土木工事原価管理業務実務要領』および『建築工事原価管理業務実施基準』が制定された。

これらの実務要領・実施基準は、工事原価管理業務が現場、常設機関を含めて全社が一体となって実施されるものであること、その目的とするところが原価の低減と利益の向上、現場業務の合理化の推進にあることを改めて示した。またそれらは、従前の実務要領を全面的に否定したものではなく、過去における原価管理業務に関する先人の知恵や、いまも精力的にその改善に努力している人たちの工夫の結晶を一つのパターンにまとめたものであり、今後ともこの業務に携わる者、とくに現場に従事する関係者によって、より良いものにつくり上げていかねばならないことを強調している。工事原価管理業務の主要な改善事項は次のとおりであった。

  • 工事原価管理は現場が主体となって実行するものであるとの原則にたって、現場がより有効に原価管理を行えるよう管理手順の基本を定めた。
    ①工事の原価管理は、土木工事、建築工事のそれぞれの特性にあった方法で行うことがより有効であることから、その実施基準を土木と建築に分けて定めた。
    ②現場において実施する原価管理業務の手法を、工事着工から竣工までに発生するさまざまな場面に沿って、具体的にあるいは図式化して明示するとともに、工事事務所長と常設機関の果たす役割と責任を明確にした。
  • 現場が作成する予算書の作成方法を定めた。
    ①作成マニュアルを示し、予算書作成事務の迅速化と、精度の平準化を図った。
    ②工事費の整理費目を整理統合し、簡素化した。
  • 原価管理に関する帳簿・帳票の改善、廃止を行った。
    ①「第1種・第2種工事費整理帳」、「予算対比表」を廃止した。
    ②日常の工事原価管理のための管理諸表を整備した。
  • 常設部門の支援体制等を定めた。

建築部門では、所長が行う工事原価管理業務の指導・支援のため、原価管理専任担当者を置いた。

以上の工事原価管理制度は、後に当社が全社的に展開するSK推進運動の骨格の一つとなって、総合的な品質・価格管理を推し進める原動力となった。

『土木工事原価管理業務実務要領』と『建築工事原価管理業務実施基準』
『土木工事原価管理業務実務要領』と『建築工事原価管理業務実施基準』

■―『現場業務必携』の全面改訂

当社では古くから、工事の着工から竣工引渡しに至る業務の手引書として『現場業務必携』が作成されていたが、現場業務合理化プロジェクト・チームはその全面的な洗直しを行った。

同チームでは、現場業務に役立つ実務マニュアル体系として『現場業務総覧』の構想を立て、現場業務に関する膨大な文書類の収集を行う一方、今後、SK運動と業務の進め方を改善していくうえで、現存する諸規定に基づく現場業務処理の方法を総括的かつ具体的にまとめあげておくことが重要であると考えた。

そこで『現場業務必携』の構成・体裁を全面的に改め、現場業務の新しい実務書とすることにし、旧版の洗直しを行い、収集した資料をもとにして、現場業務の実務書として役立つように充実、再編集する基本構想を立てた。同チームの解散にあたり、この詳細にわたる構想の引継ぎが提案、審議され、提案どおり作成を進めることになった。そして土木、建築両管理部と人事部を中心として編集委員会をつくり、人事部がまとめ役となり、昭和59年(1984)3月に刊行の運びとなった。

この業務必携は2巻に分かれ、総ページ1,328ページに及び、その構成は次のようになっている。

庶務人事編、会計編、労務安全編、下請契約編、仮設機材編、工事機械編、その他の社内事務手続編、社外事務手続編、社外手続き支店版、付録、(別冊)安全衛生管理編

なお、改訂・充実の主たる内容は次のとおりである。

  • 実務書として使いやすいように総索引を新たにつけた。
  • 編集記述方式がばらばらであったものを統一した。
  • 教育的な記述はすべて実務要領的記述に改めた。
  • 同一事例が担当部門別に分散していたものを、一連の事務処理として完結させた。
  • 土木、建築の現場に一方的に片寄った部分は改め、両部門ともに有効に使えるようにした。
  • 通知・通達類をすべて反映するなど、現場業務にかかわる文書類をすべて記載するものとした。
  • メンテナンスおよび配布の基準を明確にした。
昭和59年改訂版『現場業務必携』
昭和59年改訂版『現場業務必携』

■―現場用パーソナルコンピュータの利用促進

前章の「コンピュータ活用の推進」の項で、現場における小型コンピュータの導入について触れた。それは、電算部門の長期的計画の一つでもあったが、現場業務合理化プロジェクト・チームでも、その利用拡大方策を現場業務処理効率化の一環として検討した。

電算センターと関係部門がタイアップし、原価管理業務の電算化を中心として利用プログラムを作成し、ハードウェア、ソフトウェアの扱いおよび教育についてのシステムとして『現場用電算機器関連業務暫定処理要領』をまとめあげ、その後の現場へのパソコン導入は、この要領に基づいて展開していった。

同チームが開発したプログラムは、原価管理支援システムの関連プログラムなど計74本の多数にのぼっている。

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