■―公害防止へ関心高まる
公害は近代工業化社会の出現以前から存在したといわれるが、昭和30年代、40年代にクローズアップされてきた。これは、いうまでもなく、わが国経済の高度成長がもたらしたひずみの一つのあらわれであり、環境・公害問題は広く世界的にも取り上げられるようになっていた。
欧米諸国に比べてわが国の対策は立ち遅れていたが、政府は国土計画の主目標に環境保全を取り上げ、46年(1971)7月、環境庁を発足させた。地方自治体もこれに準ずる機構を設け、有力民間企業もそれぞれ巨額の設備投資を行って、各種の公害防止に努力し始めた。
大気汚染防止のための超高煙突の建設や排煙脱硫装置の採用、水質保全のための各種廃水処理設備の設置などがそれであるが、同時に公害処理を専門とする企業も生まれ、新しい時代に対応した産業として注目されるに至った。
建設工事の騒音、振動も産業公害の一つであり、その最大の発生源は土留めや杭の打込み作業とコンクリートの解体であったが、とくに都市部ではもはや従来の工法は許されない状況になりつつあった。当社ではすでに36年にOWS工法を開発していたが、フランスのソレタンシュ社から42年にCIS掘削機、46年にケリー掘削機を技術導入して施工能率を格段に高めると同時に、地下外壁や杭として本体に利用するための研究開発を集中的に行い、この時期に地中連続壁工法を飛躍的に発展させ、地下工事の無公害化に成功した。また、この工法で使用するベントナイト泥水の廃棄処理にも留意し、無公害化を図る研究開発に努め、加圧ろ過機による処理技術を確立した。
一方、コンクリートの解体についても無音・無振動化の技術開発を進め、嚙み砕きタイプであるCOW工法の開発に成功し、47年に1号機を稼働させている。
これらはいずれも後に一般的に用いられるようになる技術であるが、当社が他に先がけて開発したものである。
このように当社は、建設業者の立場において、騒音、振動公害防止に大きく貢献したのであるが、さらに建設公害のみにとどまらず、一般公害問題の解決に寄与するため、経営5カ年計画においても「産業公害の防止に関する技術の研究開発」を進めることとし、細目として、汚水廃水処理施設、大クーリングタワー、超高煙突、LNG(液化天然ガス)タンク、河川や海のヘドロ処理法の研究開発を取り上げた。
そして、環境庁の発足に先立つ46年3月、東京本社に公害室を新設、同時に公害委員会を設け、これらの取組みの円滑な推進を図った。公害委員会は、公害問題の対応・対策の重要性から、公害発生の調査、防止技術の研究開発、防止に関する方策などについて広く衆知を集める必要があるため、社長の諮問機関として設けられたものである。
さらに当社は、47年3月、アメリカのキャタリティック社およびチッソ株式会社と共同して、環境保全に関するコンサルティング、エンジニアリング、土木・建築の設計と施工、汚染物質処理の委託業務等を目的とする日本キャタリティック株式会社を設立した。これは3社のもつそれぞれの分野の技術を総合的に結集し、公害防止に貢献することを目指して発足したものであった。
これら数々の取組みは、公害問題に対する当社の真剣な姿勢を物語るものといえよう。
なお、公害室は51年5月、技術本部の発足に伴い、同本部の環境技術部に統合され、公害委員会も翌52年7月に活動の幕を閉じた。また日本キャタリティック社は、その後汚水処理設備工事に力を注いだが、採算面で所期の目的を達することができず、53年9月末をもって共同事業関係を清算した。