大林組100年史

1993年に刊行された「大林組百年史」を電子化して収録しています(1991年以降の工事と資料編を除く)。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

7 ニューパラダイムの構築へ向けて

■―年頭に示した変革への指針

昭和63年(1988)は、個人消費と民間設備投資の盛上がりで内需主導型経済が定着し、日本経済は底固い拡大基調にあった。とくに民間設備投資は製造業、非製造業を問わず大幅に伸びた。同年末時点では、64年においても、世界経済は米国経済や為替相場の動向、保護貿易主義の台頭など先行き不透明感はあるが、国内の景気は63年に比して若干のスローダウンはあるものの、設備投資と個人消費を中心に引き続き堅調に推移するものと思われた。こうしたなかで、63年度の当社受注高、売上高、経常利益はいずれも過去最高が見込まれていた。

このような状況を踏まえ、64年度の事業をいかに展開するか、大林社長は64年1月4日の始業式において「ニューパラダイムの確立をめざして」と題し、要旨次のとおり全役職員に訓示し、全員の意識改革、発想の転換による事業パラダイムの変革を訴えた。

「社会、経済の枠組みと建設業の変化に対応して、本年を当社にとって“ターニングポイント”の第一歩としなければならない。

それにはまず、従来の事業パラダイムの変革、つまり経営理念を明確に打ち出すとともに、経営戦略を時代の変化に対応したものに再構築して、新しい建設業のリーダーをめざして強固な経営基盤を築いていかなければならない。

そして同時に一人一人が意識の改革と発想を行って、従来の事業運営や組織運営のあり方を見直し、柔軟で新しい発想のもとに積極的に行動すべきである。」

として、業容の飛躍・充実のため、第1の基本方針である事業パラダイムの変革について、次のように述べた。

「建設市場における大きな変化として、大規模複合事業や都市再開発事業、全国的リゾートプロジェクトなど、量の拡大と大型化傾向がみられる。とくに首都圏に需要が集中している。その結果、土木・建築の工事量や、地域間での当社の事業のウエイトが変化してきているので、各店間および土木、建築両部門の人員配置の見直しをするなど、従来の事業の枠組みを変革することが必要である。

一方、協力会社との新しい体制づくり、その数の拡大と再編成を図るほか、技術開発、機械化、海外からの資材調達を含め、工事消化体制を思い切って変革しなければならない。

また長期的な業容発展の視点から、デベロッパー型の不動産事業推進のための総合的な社内体制整備の必要がある。さらに出版、教育、サービスなどの文化志向の事業や新建材の開発、スーパーコンピュータ利用などの技術志向の事業など、機会をとらえて事業分野の拡充を図っていきたい。

海外事業については従来型の工事受注を増やすほか、当社独自の事業を生かし、一段と力を入れたい。」

2番目の基本方針である意識改革、発想の転換、組織運営の変革については、次のように指摘した。

「開発企画型営業、大型プロジェクトの営業は、営業ソフト機能を向上させ、さらに資金や人などを積極的に提供してリスクに挑戦し、前向きに取り組まねばならない。

また従来の縦割りだけでなく、水平的で柔軟なチーム編成をもって、素早い営業を行うことが大切である。

管理部門においても事業の変化に対応して、柔軟な発想で業務の運営に当たるべきで、職種間の人材交流も必要であり、戦略型経営を進めるために、組織の変革も重要である。

技術研究開発についても、社会と営業のニーズを先取りして、推進すべきである。」

「ニューパラダイムの確立をめざして」(昭和64年1月4日付 社報)
「ニューパラダイムの確立をめざして」(昭和64年1月4日付 社報)

■―CI活動を展開

この年頭訓示の中では、CI(コーポレート・アイデンティティ)活動にも触れている。「ニューパラダイムの確立を目指そうという、まさにこの時期に当社のCIがスタートする」として、「新しい当社の企業理念と将来ビジョンを策定し、脱皮を図るために意識を変革し、リスクにチャレンジする新しい企業風土をつくり上げ、その結果、社外とのコミュニケーションの変革や、企業イメージの向上を図る」と、CI活動への期待が示された。すなわち、当社におけるCI活動は、ニューパラダイムの確立と表裏一体をなすものであった。

CI活動については、プロジェクト・チームが昭和63年(1988)7月、期間を2年間として東京本社に設置され、具体的な導入活動を展開していった。

CIプロジェクト・チーム(担当役員=専務取締役大林剛郎)では、まず、当社の企業イメージ調査結果の分析、CI活動の範囲、実施項目、推進手順等の検討から始め、基本デザイン、ユニホーム、創業100年記念事業、東京本社施設、工事事務所関係の五つのワーキング・グループに分かれて作業に着手した。また、全役職員を対象に、「今後21世紀にかけての社会および建設業界を見通し、そのなかで当社が目指すべき方向とそれに必要な対策」をテーマにCI懸賞論文を募集した。

こうして活動は本格化し、平成元年中には社内各層に当社の現状認識と将来のあり方についてのヒアリング調査、さらに全役職員に対するアンケート調査を実施した。

これらの調査は、企業理念の構築、将来ビジョンの策定、社内の意識改革等を進めるうえで示唆に富むものであった。また、CIプロジェクト・チームは『CIニュース』を発行し、CI導入の経過を逐次全役職員に向け広報して、社内の意識の高揚を図っていった。

そして、2年4月の企業理念の発表に始まる、CIの一連の具体的施策を次章に述べるように次々と実施に移していき、同プロジェクト・チームは、その任務を終え3年9月廃止された。

全役職員から集められたCIアンケート
全役職員から集められたCIアンケート
「CIニュース」
「CIニュース」
「CI懸賞論文集」
「CI懸賞論文集」
OBAYASHI CHRONICLE 1892─2011 / Copyright©. OBAYASHI CORPORATION. All rights reserved.
  
Page Top