■―建設業におけるエンジニアリング
エンジニアリングとは、一般に「人、材料、設備、機械などの総合化されたシステムを対象とし、その設計、要素調達、工事、運用を行う場合に生ずる結果が、与えられた諸目的に対して最適な形で実現するように行う“一連の活動”」と定義づけられている。
この定義は装置産業のエンジニアリング部門を想定したものと思われるが、昭和50年代後半、建設業冬の時代を迎えてゼネコンの間においても、設計・施工または施工だけを請け負うといった従来の受身の姿勢から脱皮する動きが出てきた。
その一つのビジョンとして、米国における建設業(エンジニアリング・コントラクター)の雄たるベクテル社やフルア社(現・フルア・ダニエル社)の業容、業態が参考とされ、わが国建設業との比較から、エンジニアリングという概念が注目されて、将来の一つの方向としてEC化(エンジニアリング・コントラクター化)が重要視されるようになった。
つまり、従来の建設業がビル、工場、道路、ダム等の構造物の建設というハード指向が主であったのに対し、建設業における「エンジニアリング」とは、企画段階のコンサルティング業務から始まって、設計、施工、完成引渡し、操業、保全に至る一連の活動すべてを含み、ソフト部分を付加してその価値を高めることである。
こうして建設各社では、「業態」と「業容」の拡大を目指すことが課題となった。ここでいう業態の拡大とは、従来領域の川上に当たる企画から川下に当たるメンテナンス、オペレーション等、“タテ”への展開であり、業容の拡大とは、生産ラインの設計、据付け等、従来は別途工事として建設会社がほとんど関与しなかった領域で、“ヨコ”への展開を意味する。
このような業態、業容の拡大のためには、蓄積された技術力を核とした営業が不可欠となるのはいうまでもない。また、このころから製造業の工場建設に際しても、技術の急速な進展や新規分野の技術情報不足をカバーするため、専門集団であるエンジニアリング会社に、企画から建設までという一貫して発注する方が効率的でムダがないという認識が広がり、エンジニアリング会社への期待が時代とともに高まりつつあった。これは建設業の指向する方向「EC化」ともマッチしていた。