大林芳五郎傳

1940年に刊行された「大林芳五郎傳」を電子化して収録しています。
なお、社名・施設名などは、刊行時の表記のままとしていますので、あらかじめご了解下さい。

第三編 後記

六 内助と輔佐

故人の大を成した原因は、故人が拮据(きっきょ)經營、力戰奮鬪した結果には相違あるまいが、故人を圍繞(いじょう)する片山氏、日野氏、砂崎翁、佐々木翁、岩下翁、片岡翁、上原元帥、渡邊氏、今西氏、谷口氏、志方氏、天野氏等の外部よりの支援、竝に家庭に於けるミキ子夫人、事業上の輔佐たる伊藤、白杉兩氏の如き内部よりの忠勤に俟つものが頗(すこぶ)る多かつたことを忘れることは出來ない。古今東西を通じて、どんな成功者でも自身獨力で名を成した者は恐らくあるまい。就中(なかんずく)内部に於て偉大な忠勤者を得たことは、故人の非常な強みであつたのである。

事業の女房役

北銀の破綻に際し、『北銀の破綻は阪急に於ける小林一三氏、大軌に於ける金森又一郞氏の如き優秀な女房役が無かつたのがその一因だ』と評した人があつたが、實際さうとしか思はれない。しかるに故人が、事業の大小は別としてその精神に於て、明治の初期、共に主家大殿堂の崩壞を防いだ住友の廣瀨宰平氏、三井の三野村利左衛門氏にも比すべき伊藤、白杉の大番頭を有ち、又山内一豐や伊藤仁齋の妻にも類し且貞淑にして圓滿なミキ子夫人を得たことは故人自身の人格が中心をなしての牽引力によるとはいへ、實に幸福な身であつたのである。故人を語るとき、特に緊密の關係に置かれてゐる内部の忠勤者たるミキ子夫人と伊藤、白杉兩氏の梗概だけでも描かなかつたならば、故人の眞の全貌が浮び出ない憾がある。

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