午前が七分に午後三分
「鷄鳴に起きざれば日暮に悔あり」とは大楠公の遺訓である。故人は常に「仕事は午前が七分に午後三分」といつて、早朝の着手を嚴しく勵行せしめてゐた。實際至言といふべく、元氣の張り切つた午前中に於ける仕事の能率は一日中の最たるもので、午後は倦怠に入り易く能率の减退を來すものである。もし現場員が朝寢又は怠慢等に基因して午前の緊張時にその機を逸したなら、午後の倦怠時に如何に聲を涸らして督勵して見ても大なる効果は上るものでない。だから午前中に必ず七分の仕事を仕上げる決意と勵行とが現場員の實踐躬行(きゅうこう)すべき祕訣であらねばならない。故人はこれが實行上現場員には可成現場に宿泊することを奬勵したもので、朝の洗面中に於ても監督の眼を有効に働かし得るからである。現に大林組に於ける現場宿泊の設備が他同業者に比して比較的大規模なのは、かうした故人の意から出發したものである。